094 ふたつのパンと、ちいさな計画
――ふたつのパンと、ちいさな計画――
細長いパンを三本。
半分に分ければ、六つになる。
包み紙も六枚付けてもらえて、値段は銅貨二十四枚。
これで、パンの仕入れについても一つ決まった。
「……えへへ」
ぼくは、棚に並んでいるパンを眺めた。
細長いパンがあれば、考えている料理を作れそう。
でも。
それだけじゃ、ちょっと足りない。
だって、もう一つ作ってみたいものがあるんだ。
ぼくは、雑貨屋のおじさんを見上げた。
「あとね、おじさん!」
「……ん?」
おじさんが、ゆっくりこちらを向いた。
「……まだパンの話があるのか?」
「うん!」
元気よく頷くと、おじさんは思わず笑った。
「ははっ! 今日は本当にパンの話が尽きないな!」
「えへへ」
「それで、今度は何だ?」
ぼくは、棚に並んでいる丸いパンを指差した。
「やわらかい、まるいぱんもほしいの!」
「……丸パン?」
「うん!」
「さっきは細長いパンがいいって言ってなかったか?」
「うん!」
「……両方欲しいのか?」
「そう!」
おじさんは、しばらくぼくを見つめた。
それから、納得したように頷いた。
「ああ、なるほどな」
「一種類に絞るんじゃなくて、細長い硬めのパンと、柔らかい丸パン。両方仕入れたいってことか」
「うん!」
「それなら、最初はどっちも少量にしておけよ」
「わかった!」
おじさんは、棚から丸パンを一つ手に取った。
「丸い方は何個欲しいんだ?」
「さんこ!」
「三個か。ちょうどいいな」
おじさんは頷いた。
「前に話したとおり、一個銅貨四枚でいいぞ」
「うん!」
「三個なら銅貨十二枚だ」
「じゅうにまい!」
「そうだ。包み紙も三枚付けてやる」
「ありがとう!」
これで、パンは二種類。
細長いパンが三本で銅貨二十四枚。
丸いパンが三個で銅貨十二枚。
全部合わせて、銅貨三十六枚。
でも。
まだ、おじさんにお願いしておきたいことがあった。
「……あとね!」
「まだあるのか!」
おじさんが笑った。
「うん!」
ぼくは、丸パンを指差した。
「まるいぱんも、きってほしいの!」
「丸パンも半分にするのか?」
「ううん!」
ぼくは首を振った。
「うえと、したで、ひらくように!」
「……上と下?」
「うん!」
ぼくは、両手を重ねた。
そして、上の手を少し持ち上げる。
「こうやって、あいだに、なにかはさめるようにしたいの!」
「……ああ!」
おじさんは、ようやく分かったように頷いた。
「なるほど。横から切り込みを入れて、上下に開けるようにするんだな」
「そう!」
「完全に二つに切り離すんじゃなくて、片側を少しつなげておけばいいのか?」
「うん!」
そうすれば、パンがばらばらにならない。
間に何かを挟んでも、持ちやすそう。
「なるほどなぁ」
おじさんは、感心したように丸パンを眺めた。
「それなら、細長い方も何か切り込みを入れるのか?」
「うん!」
ぼくは、今度は両手で細長い形を作った。
「ながいぱんも、あいだにはさめるようにしてほしいの!」
「細長い方もか?」
「そう!」
「つまり、一本を半分の長さに切って……」
「うん!」
「その半分になったパンにも、横から長く切り込みを入れるわけだな?」
「そう!」
ぼくは嬉しくなって頷いた。
「こっちも、ひらけるように!」
「なるほど。中に具を入れられるようにしたいんだな」
「うん!」
おじさんは、少し考えてから頷いた。
「分かった。切り込みを入れるくらいなら、まとめてやってやるよ」
「ほんと!?」
「ああ。ただし、パンが切り離されないように、少しつなげておくぞ」
「それでいい!」
「丸パンは上下に開くように。細長いパンは、半分にしてから、それぞれ長い方に切り込みを入れる」
「うん!」
「どっちも、具を挟める形にしておけばいいんだな?」
「そう!」
「よし。任せておけ」
「ありがとう!」
行商人のおじさんが、横で感心したように声を上げた。
「ほう……。今度はパンの切り方まで指定するのか」
「えへへ」
「ただ半分にするだけじゃなくて、どっちも何かを挟めるようにするんだな」
「うん!」
「なるほど。ますます何を作るのか楽しみになってきたぞ」
ぼくは、にっこり笑った。
「ないしょ!」
「ははっ! やっぱり教えてくれないか!」
「うん!」
雑貨屋のおじさんも笑っていた。
「それにしても、坊主。ずいぶん細かいところまで考えてるな」
「そう?」
「ああ。普通なら、パンを買ってから自分で切るところだ」
「でも、ぼく、ほうちょうつかえない」
「そりゃそうだ」
おじさんは頷いた。
「三歳の子に、大きな包丁を使わせるわけにはいかないからな」
「うん!」
「それに、最初から切っておけば、お母さんの仕事も少し減るだろう」
「そう!」
ぼくは元気よく頷いた。
おかあさんには、料理を作るときに手伝ってもらわないといけない。
だから、先にできる準備は済ませておきたい。
「ただし、切り込みを入れたパンは、切っていないものより乾きやすくなることもあるからな」
「……そうなの?」
「ああ。だから、使うまではきちんと包んでおくんだぞ」
「わかった!」
おじさんは、もう一度注文の内容を確認した。
「じゃあ、最初の仕入れはこうだな」
細長い硬めのパンが三本。
それを半分の長さに切って、六つにする。
さらに、それぞれの長い側面に切り込みを入れて、具を挟めるようにする。
包み紙は六枚。
値段は銅貨二十四枚。
そして、柔らかい丸パンが三個。
こちらは横から切り込みを入れて、上下に開けるようにする。
包み紙は三枚。
値段は銅貨十二枚。
「全部合わせて、銅貨三十六枚だ」
「うん!」
「包み紙は九枚。切る作業も今回はサービスしてやるよ」
「ありがとう!」
「ただし、注文は前の日まで。返品はなしだぞ」
「わかった!」
おじさんは満足そうに頷いた。
「よし。これで決まりだ」
ぼくは、棚のパンをもう一度見た。
細長いパン。
丸いパン。
どちらも、そのままではなく、具を挟める形にしてもらう。
これなら、お店で使うときに便利そう。
「……えへへ」
「しかし、坊主」
行商人のおじさんが、楽しそうに笑った。
「ここまで準備しておいて、まだ何を作るかは秘密なのか?」
「うん!」
「ははっ! 徹底してるな!」
「えへへ」
「まあいい。店を開いたときの楽しみにしておこう」
「うん!」
まだ、実際にパンを注文したわけじゃない。
おかあさんにも相談しないといけない。
でも。
どんなパンを使うのか。
何個仕入れるのか。
どんな形に切ってもらうのか。
少しずつ決まってきた。
ぼくは、自分の四輪屋台を見上げた。
ここに、二種類のパンを使った料理が並ぶ。
お客さんが買ってくれたら、包み紙で包んで渡す。
そんな光景を想像すると、胸がわくわくした。




