092 パンと一緒に包むもの
――パンといっしょに包むもの――
雑貨屋のおじさんから、パンを仕入れられることになった。
最初は五個。
前の日までにお願いすれば、翌朝、いつもの仕入れと一緒に用意してくれる。
値段は五個で銅貨二十枚。
普通に買うよりも、少し安い。
これなら、ぼくのお店でも使いやすそう。
「……えへへ」
ぼくは、棚に並んだパンを眺めた。
何を作ろうかな。
そのまま売るのもいいし、何かを挟んでもおいしそう。
焼き物用のプレートで温めることもできる。
でも。
もし、お客さんがパンを買ってくれたら?
そのパンを、どうやって渡せばいいんだろう。
お皿に載せて渡すわけにはいかない。
手でそのまま持ってもらうのも、ちょっと困る。
「……あっ」
そうだ。
包むものが必要だ。
ぼくは、雑貨屋のおじさんを見上げた。
「おじさん!」
「ん? まだ何かあるのか?」
「うん!」
おじさんは、少し警戒するようにぼくを見た。
「……今度は何だ?」
ぼくは、にっこり笑った。
「ぱんをつつむかみも、つけてね?」
「…………」
おじさんの動きが止まった。
「……包み紙?」
「うん!」
「お前さん、さっきの五個で銅貨二十枚に、包み紙まで付けろって言ってるのか?」
「うん!」
ぼくが元気よく頷くと、横で行商人のおじさんが吹き出した。
「はははっ! 坊主、今度は包装まで交渉し始めたぞ!」
「えへへ」
「パンの仕入れ値だけじゃなくて、包む紙のことまで考えてるのか」
「だって……」
ぼくは、棚のパンを指差した。
「おきゃくさんに、どうやってわたすの?」
「……ああ、なるほどな」
行商人のおじさんが頷いた。
「確かに、そのまま手渡すわけにはいかないな」
「うん!」
「それで、包み紙も一緒に仕入れようってわけか」
「そう!」
雑貨屋のおじさんは、腕を組んだ。
「うーん……」
少し考えている。
もしかして、難しいのかな。
「紙だって、ただじゃないんだぞ?」
「うん……」
「パンを安くして、その上で包み紙まで付けたら、こっちの利益も減るからな」
「そっか……」
確かに。
パンを仕入れるお金だけじゃなくて、紙を用意するお金も必要なんだ。
ぼくは、もう一度パンを見た。
包み紙が別料金なら、それも計算しないといけない。
「……じゃあ、かみは、いくら?」
そう尋ねると、おじさんは少し笑った。
「まあ、待て待て。まだ別料金にするとは言ってないぞ」
「……ほんと?」
「ああ。少し考えさせろ」
おじさんは、棚のパンを見てから、ぼくの方を見た。
「五個分の簡単な包み紙くらいなら、そこまで大きな負担でもないか……」
そして、頷いた。
「よし。分かった」
「……!」
「パンを五個まとめて仕入れるときは、包み紙も五枚付けてやる」
「ほんと!?」
「ああ。五個で銅貨二十枚。その中に、包み紙五枚も含めてやるよ」
「やった!」
嬉しくなって、思わず両手を上げた。
「ありがとう!」
「ははっ。そんなに喜ぶことか?」
「うん!」
これなら、パンを買ってくれたお客さんに、そのまま渡せる。
包み紙を別に買う必要もない。
「ただし、坊主」
おじさんが指を一本立てた。
「豪華な包装紙じゃないぞ?」
「うん?」
「パンを包んで渡すための、簡単な紙だ」
「それでいい!」
「飾りを付けたり、もっと立派な包装をしたりしたいなら、その分は別料金だからな」
「わかった!」
ぼくは頷いた。
お客さんが持ち帰れるように包めれば、それで十分。
最初から、立派な包装にする必要はない。
「それと、もう一つ」
「なあに?」
「前の日までに、必要な数をちゃんと言うんだぞ」
「うん!」
「パンだけじゃなくて、包み紙もその数だけ用意するからな」
「わかった!」
「五個なら五枚。必要な数に合わせて準備しておく」
なるほど。
おじさんも、前の日から準備してくれるんだ。
だから、急に数を変えたりしたら困らせてしまう。
「ちゃんと、まえのひにいうね!」
「ああ。そうしてくれ」
おじさんは、満足そうに頷いた。
ぼくは、頭の中でもう一度確認した。
パンが五個。
包み紙が五枚。
全部合わせて、銅貨二十枚。
一個あたり銅貨四枚で、包む紙まで付いてくる。
「……えへへ」
これなら、計算もしやすい。
「しかし、坊主」
行商人のおじさんが、感心したように声を掛けてきた。
「ん?」
「よく包み紙のことまで気づいたな」
「そう?」
「ああ。材料を買ってから、包むものがないって気づくこともあるからな」
「……こまるね」
「そうだろ?」
おじさんは笑った。
「お前さんは、パンを買うことだけじゃなくて、お客さんに渡すところまで考えてたわけだ」
「うん!」
「それは大事なことだぞ」
ぼくは、もう一度パンの棚を見た。
パンを仕入れる。
お店に並べる。
お客さんが買ってくれる。
そして、包んで渡す。
今までは、何を売るかばかり考えていた。
でも、お客さんが買ってくれたあとにも、必要なものがあるんだ。
「……おみせって、かんがえること、いっぱいだね」
「ははっ。そうだな」
行商人のおじさんが笑った。
「でも、一つずつ考えていけばいいんだ」
「うん!」
「最初から全部完璧にする必要はない。ただ、気づいたことは忘れないようにしておけよ」
「わかった!」
ぼくは頷いた。
パンを何個仕入れるか。
何時ごろ売れるか。
何個残るか。
そして、どうやってお客さんに渡すか。
考えることが、また一つ増えた。
でも。
その分だけ、お店の準備も進んでいる。
「おじさん!」
ぼくは、雑貨屋のおじさんを見上げた。
「ん?」
「ぱんをたのむとき、かみもわすれないでね!」
「ははっ! 分かってるよ!」
「えへへ」
「まったく。しっかりしたちいさな店主だな」
おじさんは笑いながら、パンの棚を整えた。
「じゃあ、最初は五個で銅貨二十枚。包み紙五枚付きだ」
「うん!」
「注文は前の日まで。返品はなし。それでいいな?」
「いいよ!」
「よし。決まりだ」
こうして、パンの仕入れについて、もう一つ約束ができた。
まだ、実際に注文したわけじゃない。
おかあさんと相談して、何を作るか決めてから。
でも。
パンをどこから買うか。
いくらで買えるか。
どうやってお客さんに渡すか。
少しずつ、分かってきた。
ぼくは、買ったばかりの四輪屋台を見上げた。
ここにパンを並べたら、どんなお店になるんだろう。
想像するだけで、なんだか楽しくなってくる。




