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ちいさなぼくのまもるもの  作者: 星乃いりす


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088 ちいさな魔石と新しい学び

――ちいさな魔石と新しい学び――


買ったばかりの四輪屋台には、まだ何も並んでいない。


その横には、魔石式加熱器と、おまけでもらった焼き物用のプレート。


そして、小さな火属性の魔石。


これだけあれば、温かい食べ物を作れる。


でも、一つ気になることがあった。


魔石は、使えば魔力が減っていく。


なくなったら、新しい魔石を買うか、誰かに魔力を補充してもらわないといけない。


さっき、雑貨屋のおじさんもそう言っていた。


でも。


その補充は、誰にお願いすればいいんだろう。


ぼくは、雑貨屋のおじさんを見上げた。


「ざっかやのおじさん」


「なんだ? まだ何か欲しいものがあるのか?」


「ううん」


ぼくは、加熱器の横に置かれた魔石を指差した。


「おじさん、これにまりょくをほじゅうするやりかた、しってるの?」


「ああ。やり方なら知ってるぞ」


「ほんと?」


「魔石を扱う商品も売ってるからな。簡単な点検や補充くらいは覚えてる」


「じゃあ、おじさんも、できる?」


「……少しならな」


少し。


ということは、魔法を使える人なのかな。


「おじさん、まほうつかえるの?」


「ははっ。魔術師みたいなことはできないぞ」


おじさんは笑いながら、魔石を手に取った。


「俺ができるのは、魔石に魔力を流し込むくらいだ。それだって、たいした量じゃない」


「そうなの?」


「ああ。魔力を扱えるからって、誰でも魔術師になれるわけじゃないからな」


なるほど。


魔力を動かすことと、魔法を使うことは、同じじゃないんだ。


「どうやって、ほじゅうするの?」


「自分の魔力を魔石に流し込むんだ」


「ながしこむ?」


「ああ。ただし、力任せに流せばいいってもんじゃないぞ」


おじさんは、手のひらに載せた魔石を見せてくれた。


「魔石には、蓄えられる魔力の量が決まってる。それに、一度に受け入れられる量にも限りがあるんだ」


「いっぱい、いれたら?」


「うまく蓄えられなかったり、無理をすれば魔石を傷めたりする」


「……こわれちゃう?」


「そういうこともあるな」


そっか。


魔力をたくさん入れれば、早く終わるというわけじゃないんだ。


「だから、石の状態を見ながら、少しずつ流し込む必要がある」


「すこしずつ……」


「そうだ。慣れないうちは、それが難しいんだぞ」


ぼくは魔石をじっと見た。


小さな石なのに、そんなに気をつけないといけないんだ。


「じゃあ、このちいさいのなら?」


「これか?」


おじさんは魔石を指先で持ち上げた。


「一個なら、時間をかければ補充できると思うぞ」


「ほんと!」


「ああ。ただし、俺の魔力だって無限じゃない。空っぽの魔石を何個も満タンにするなんて無理だからな」


「そっか」


「でも、毎日使った分を少し補うくらいなら、そこまで大変じゃない」


毎日使った分。


ぼくは、その言葉を聞いて考えた。


魔石の魔力が全部なくなるまで使ってから補充するより、少し減ったところで補充してもらえばいいのかな。


「ねえ、おじさん」


「ん?」


「ぼくのおみせで、まいにちつかったら、ほじゅうしてもらえる?」


「……なるほど。そういうことか」


おじさんが、にやりと笑った。


「お前さん、もう次のことまで考えてるんだな」


「えへへ」


「でも、商売で毎日使うなら、さすがに毎回ただで補充するわけにはいかないぞ?」


「うん!」


もちろん。


おじさんだって、自分の魔力を使うんだから。


「いくら?」


「そうだな……」


おじさんは少し考えた。


「それは、実際にどれくらい減るか確かめてからだな」


「?」


「例えば、一杯のスープを温めるのにどれくらい魔力を使うのか。まずはそれを調べないといけない」


「あっ」


確かに。


スープを一杯温めるのと、大きな鍋いっぱいの料理を温めるのでは、使う魔力も違うはず。


「一回いくらって決めるより、どれだけ魔力を使ったかで考えた方がいいだろ?」


「うん!」


「それに、毎日少しずつ補充するのか、何日かまとめて補充するのかでも違ってくるからな」


なるほど。


「じゃあ、つかってから、きめる?」


「ああ。まずは一度使ってみろ。どれくらい減ったか確かめて、それから料金を相談しよう」


「わかった!」


まだ補充のお金は決まっていない。


でも、お願いできる人が見つかった。


それだけでも、少し安心した。


「よかったな、坊主」


行商人のおじさんが、横から声を掛けてきた。


「これなら、魔石が切れるたびに新品を買わなくても済みそうだな」


「うん!」


「ただし、補充してもらう金も、ちゃんと計算に入れるんだぞ」


「うん!」


「材料費だけじゃなくて、加熱するための費用も必要だからな」


ぼくは頷いた。


材料のお金。


魔石の魔力を補充するお金。


それから、売るために使う道具のお金。


全部を考えて、料理の値段を決めないといけない。


「……けいさん、いっぱい」


「ははっ。そうだな」


行商人のおじさんが笑った。


「でも、それが分かれば、一杯売るのにいくらかかるのかも見えてくる」


「そっか」


「まずは試しに料理を作って、どれくらい魔石を使うか確かめることだな」


「うん!」


ぼくは、小さな魔石をもう一度見た。


これから始めるお店。


まだ何を売るかも決まっていない。


でも、少しずつ必要なことが分かってきた。


そして。


ぼくには、もう一つ気になることがあった。


「ねえ、おじさん」


「今度はなんだ?」


「まりょくを、ほじゅうするとき……」


「うん?」


「みてても、いい?」


「……見ていたいのか?」


「うん!」


おじさんは、少し不思議そうな顔をした。


「そんなに面白いものじゃないぞ?」


「でも、みたい!」


ぼくは魔石を見つめた。


魔力を流し込む。


言葉では分かる。


でも、実際にはどうするんだろう。


手から何かが出るのかな。


魔石が光ったりするのかな。


それとも、見た目には何も変わらないんだろうか。


魔法の本には、魔力についていろいろ書かれていた。


でも、読んだだけでは分からないことも多い。


実際に魔力を扱っているところを見られたら、何か分かるかもしれない。


「ぼく、まりょくのべんきょう、してるの」


「そうなのか?」


「うん!」


「なるほど。それで見てみたいわけか」


「そう!」


おじさんは少し考えてから、頷いた。


「まあ、見るだけなら構わないぞ」


「ほんと!?」


「ああ。ただし、補充するときは集中するからな。途中で触ったり、急に話しかけたりするなよ」


「わかった!」


「それと、見たからってすぐにできるようになるわけじゃないぞ」


「うん!」


それは分かっている。


魔法の勉強は、そんなに簡単じゃない。


本を読んだからといって、すぐに使えるようになるわけじゃないし。


誰かがやっているところを見ただけで、覚えられるとも思っていない。


でも。


実際に見ることは、きっと勉強になる。


「補充するときになったら、声を掛けてやるよ」


「ありがとう!」


おじさんは笑って、魔石をぼくに返してくれた。


ぼくは、それを両手でそっと受け取る。


小さな赤い石。


これを使えば、料理を温められる。


魔力が減ったら、おじさんに補充してもらえる。


そして、そのときには魔力を扱うところも見せてもらえる。


お店のために買った魔石だったけれど。


もしかしたら、魔法の勉強にも役立つかもしれない。


「……えへへ」


「どうした、坊主?」


行商人のおじさんが、不思議そうに聞いてきた。


「なんでもない!」


「そうか?」


「うん!」


ぼくは、もう一度魔石を見つめた。


お店の準備も。


魔法の勉強も。


まだまだ、これから。


でも。


知らなかったことを一つ知るたびに、できることが少しずつ増えていく。


それが、なんだか嬉しかった。

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ここまで読んでいただき、ありがとうございます☺️ 少しでも「続きが気になる」「この子をもう少し見守ってみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。 皆さまからの応援を励みに、これからも小さな主人公の物語を大切に書いていきます。 次のお話も楽しんでいただけますように。
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