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ちいさなぼくのまもるもの  作者: 星乃いりす


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087 まほうのどうぐとおじさんのおまけ

――まほうのどうぐとおじさんのおまけ――


自分のお店で温かい食べ物を売る。


そう考えると、まだ足りないものがあった。


料理をするための道具だ。


買ったばかりの小鍋を見つめる。


おかあさんに料理をお願いするとしても、屋台でどうやって温めればいいんだろう。


薪や炭を使えば料理はできる。


でも、火を起こすには時間がかかるし、煙も出る。


屋台の上で使うなら、もっと便利なものがあるといい。


そう考えているうちに、ふと思いついた。


この世界には、魔石がある。


火属性の魔石を使えば、何かできるんじゃないかな。


ぼくは、行商人のおじさんを見上げた。


「ねえ、おじさん」


「ん? どうした?」


「ひのませきで、おなべをあたためるどうぐ、ある?」


「ああ、魔石式加熱器のことか?」


「あるの?」


「もちろんあるぞ。火属性の魔石を使って、鍋を温める道具だ」


やっぱり。


「どうやって、つかうの?」


「魔石から出る熱を金属板に伝えるんだ。その上に鍋を置けば、料理を温められる」


「ひは、でない?」


「ああ。炎は出ないから、薪や炭みたいに火の粉が飛ぶ心配もない」


それなら、屋台でも使いやすそう。


「ただし、火が出ないからって安全なわけじゃないぞ」


「うん?」


「加熱板も鍋も熱くなるし、中の料理だって熱い。魔石の出力を上げすぎれば、吹きこぼれることもある」


「……あぶないね」


「そういうことだ。使うときは、お母さんに任せるんだぞ」


「わかった」


熱い道具は、おかあさんにお願いする。


ぼくは料理を考えたり、材料を用意したり、できることをお手伝いすればいい。


「小型のものなら、雑貨屋にあったはずだが……」


「ほんと?」


ぼくは、すぐに雑貨屋のおじさんの方を向いた。


「おじさん!」


「おう。今度は何だ?」


「ちいさい、ませきのかねつき、ある?」


「魔石式加熱器か。確か、奥に一台あったな」


おじさんは店の奥へ入っていった。


しばらくすると、小さな道具を抱えて戻ってくる。


「これだ」


台の上には、平らな金属板が付いている。


その下には、魔石を入れる場所があった。


「中古の小型魔石加熱器だ。銅貨八十五枚だな。魔石は別だぞ」


「はちじゅうご……」


思っていたより高い。


でも、これがあれば屋台で温かい料理を作れる。


「ませきは?」


「こっちだ」


おじさんは、小さな赤みがかった石を取り出した。


「火属性の魔石だ。銅貨三十枚」


「さんじゅう……」


加熱器が八十五枚。


魔石が三十枚。


合わせると……。


「ひゃくじゅうごまい?」


「そうだな」


銅貨百十五枚。


決して安くない。


「このませき、ずっとつかえる?」


「いや。使えば魔力が減っていく」


「なくなったら?」


「魔石を交換するか、魔力を扱える人に補充してもらうことになるな」


「ほじゅう、できるの?」


「ああ。魔石が傷んでいなければな。ただし、人に頼むなら金がかかるぞ」


なるほど。


薪や炭を買う代わりに、魔石の魔力を使うんだ。


「ぼくも、ほじゅうできる?」


「魔力操作を覚えればな」


「まりょくそうさ……」


魔法の勉強は、まだ始めたばかり。


今は自分で魔力を補充できない。


「このませき、どれくらい、つかえる?」


「使い方次第だ。小鍋を何度か温めるくらいはできるが、長く使えばその分早く魔力が減る」


「そっか……」


何を作るかによって、必要な魔力も変わりそう。


ぼくは、買った小鍋を指差した。


「これも、つかえる?」


雑貨屋のおじさんは鍋を確かめて、頷いた。


「ああ。この大きさなら問題ない」


「ほんと!」


それなら、新しい鍋を買わなくてもいい。


あとは、屋台に置けるかどうか。


ぼくは、店先の四輪屋台を見た。


「これ、したに、はいる?」


「下の棚か?」


おじさんは加熱器を持って、屋台の下段と大きさを比べた。


「十分入るな」


「やった!」


使うときは上に出して、冷めたら下にしまう。


それなら、屋台の上を広く使える。


「……なるほどな」


行商人のおじさんが、腕を組んでこちらを見ていた。


「だから、さっき鍋を買ったのか」


「ううん」


ぼくは首を振った。


「いま、おもいついたの」


「……そうなのか?」


「うん!」


おじさんは少し驚いたあと、笑った。


「ははっ。鍋を買ったら、今度は温める道具が欲しくなったわけか」


「えへへ」


でも、欲しいものが増えた分だけ、お金も必要になる。


ぼくは加熱器と四輪屋台を交互に見た。


四輪屋台は銅貨百三十五枚。


加熱器と魔石は、合わせて百十五枚。


全部買うなら……。


「にひゃくごじゅうまい……」


「おっ、もう計算したのか」


雑貨屋のおじさんが笑った。


銅貨二百五十枚。


小さな買い物じゃない。


それに、食べ物を売るなら材料も必要になる。


道具だけでお金を使いすぎるのは、よくないかもしれない。


「……ちょっと、かんがえる」


そう言うと、雑貨屋のおじさんは、ぼくの顔をじっと見た。


「坊主、ずいぶん真剣だな」


「うん」


「屋台を買って、自分の店を開くんだろ?」


「そう!」


「それで、今まで買った道具も全部、自分の店で使うつもりか?」


「うん!」


おじさんは、店先に並ぶ品物を見回した。


「そういえば、お前さんにはずいぶん買ってもらったな」


「?」


「鍋に、お玉に、へら。それから保存容器も買っていっただろ?」


「うん」


「ほかにも何度も店に来て、いろいろ見てくれてるしな」


おじさんは少し考えるように腕を組んだ。


そして、にやりと笑った。


「よし。まとめて買うなら、思い切ってまけてやるか」


「……え?」


「四輪屋台と加熱器、それに魔石。三つまとめて買うんだろ?」


「うん!」


「だったら、特別価格だ」


おじさんは指を折りながら、値段を口にした。


「屋台は百三十五枚を百枚。加熱器は八十五枚を五十枚。魔石は三十枚を二十枚にしてやる」


「……!」


ぼくは慌てて計算した。


百枚。


五十枚。


二十枚。


全部合わせると……。


「ひゃくななじゅうまい!」


「正解だ」


「はちじゅうまい、やすい!」


「おう。まとめ買いの特別価格だ」


銅貨八十枚も安くなった。


最初の値段の三分の一近くも安くなっている。


「ほんとに、いいの?」


「ああ。今まで何度も買ってくれてるからな。それに、中古の屋台と加熱器は、ずっと店に置いておくより使ってもらった方がいい」


「そうなの?」


「屋台は場所を取るし、加熱器も新しい品が入れば売りにくくなる。まとめて引き取ってくれるなら、こっちにも都合がいいんだ」


なるほど。


ぼくは安く買えて、おじさんはお店の場所が空く。


それなら、どちらにもいいことがある。


「それに、これから自分の店を始めるんだろ? 最初は何かと金がかかるからな」


「うん!」


「だから、その分は材料代にでも回せ」


「ありがとう!」


嬉しくて、思わず頭を下げた。


でも、雑貨屋のおじさんは、まだ何か考えているようだった。


「……そうだな。どうせなら、もう一つ付けてやるか」


「?」


おじさんは再び店の奥へ入っていった。


何を取りに行ったんだろう。


しばらくして戻ってきたおじさんの手には、平らな金属の板があった。


「これも持っていけ」


「……なあに?」


「焼き物用のプレートだ」


「やきもの?」


「ああ。魔石式加熱器の上に載せて使うんだ。鍋だけじゃなく、これなら食材を直接焼ける」


「……!」


ぼくはプレートを見つめた。


表面は平らで、周りには少しだけ縁がある。


「おにくも?」


「焼けるぞ」


「おやさいも?」


「ああ」


「ぱんも?」


「もちろんだ」


すごい。


お鍋だけじゃなくて、焼く料理も作れるんだ。


「これ、いくら?」


「おまけだ」


「……おまけ?」


「ああ。屋台と加熱器と魔石をまとめて買ってくれるなら、こいつはただで付けてやる」


「ほんとに!?」


「おう。ただし中古だからな。多少の傷はあるが、使う分には問題ない」


ぼくはプレートをもう一度見た。


少し使った跡はあるけれど、しっかりしている。


「ありがとう!」


「ははっ。そんなに喜んでもらえるなら、付ける甲斐があるってもんだ」


行商人のおじさんも、隣で笑っていた。


「ずいぶん気前がいいじゃないか」


「何度も買ってくれる客だからな。それに、あんな小さな体で自分の店を開こうとしてるんだ。応援したくもなるだろ」


「違いない」


二人のおじさんが笑い合った。


ぼくは、屋台と加熱器、それから焼き物用のプレートを見比べた。


これがあれば。


スープを温められる。


お肉も焼ける。


野菜も焼ける。


パンだって温められる。


作れるものが、一気に増えた。


「でもな、坊主」


行商人のおじさんが、少し真面目な顔になった。


「道具が増えたからって、最初から何でも作ろうとするなよ」


「うん?」


「お母さんと二人で店をやるんだろ? 一度に作れる量にも限りがある」


「そっか」


「それに、焼く料理と煮る料理を同時に作りたいなら、加熱器が一台じゃ足りないこともあるぞ」


「あっ」


確かに。


お鍋を載せている間は、プレートを使えない。


プレートで焼いている間は、お鍋を温められない。


「だから、最初は何を売るかよく考えるんだ」


「うん!」


「それと、魔石の消耗も忘れるなよ」


「ませきの、おかね?」


「ああ。薪代の代わりに魔石代だ。料理一つ作るのに、どれくらいかかるかも計算しないとな」


なるほど。


材料のお金だけじゃない。


魔石の魔力も、使えば減っていく。


それなら、一杯のスープを作るのにいくらかかるのか。


一つの料理を焼くのに、どれくらい魔石を使うのか。


ちゃんと考えないといけない。


「……けいさん、いっぱい」


「ははっ。商売ってのは、そういうもんだ」


おじさんは楽しそうに笑った。


でも、ぼくは少し嬉しかった。


考えることが増えたということは、それだけできることも増えたということだから。


「それで、坊主」


雑貨屋のおじさんが尋ねた。


「どうする? 三つまとめて銅貨百七十枚。焼き物用のプレートも付けるぞ」


ぼくは、四輪屋台を見た。


上には商品を並べられる。


下には道具をしまえる。


横には小さな作業台もある。


それから、魔石式加熱器。


お鍋を温めたり、プレートで料理を焼いたりできる。


今まで少しずつ集めてきた道具も、これなら使える。


もちろん、買っただけでお店ができるわけじゃない。


おかあさんと相談して、売るものを決めて、材料も用意しないといけない。


でも。


自分のお店を始めるための、大きな一歩になる。


「……かう!」


「おっ、決めたか」


「うん!」


「よし。じゃあ、屋台と加熱器と魔石、まとめて銅貨百七十枚だ」


ぼくはお金を数えて、おじさんに渡した。


「いち、に、さん……」


間違えないように、ゆっくり数える。


おじさんも受け取った銅貨を確かめて、頷いた。


「確かに。毎度あり!」


そして、焼き物用のプレートを加熱器の横に置いた。


「こいつも忘れるなよ。約束のおまけだ」


「ありがとう!」


おじさんは四輪屋台を軽く押して、ぼくの方へ向けた。


「ほら。今日からこいつは坊主の屋台だ」


「……ぼくの?」


「ああ。もう店の商品じゃない。お前のものだ」


ぼくは、屋台の取っ手に手を伸ばした。


小さな手で、そっと触れる。


何度も見て。


大きさを確かめて。


何を並べるか考えて。


ずっと欲しかった四輪屋台。


それが、とうとう自分のものになった。


「……えへへ」


自然と笑顔になる。


「そんなに嬉しいか?」


「うん!」


ぼくは、もう一度屋台を見上げた。


まだ、何も並んでいない。


お客さんもいない。


でも、ここにあみぐるみを並べて。


食べ物を用意して。


おかあさんと一緒に、お客さんを迎える。


そんな光景が、少しずつはっきり見えてきた。


「おじさん!」


「ん?」


「たいせつに、つかうね!」


雑貨屋のおじさんは、嬉しそうに笑った。


「ああ。しっかり使って、いい店にしてくれ」


「うん!」


ぼくは、四輪屋台の取っ手をもう一度握った。


初めての、自分の屋台。


ここから、ぼくのお店が始まるんだ。

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ここまで読んでいただき、ありがとうございます☺️ 少しでも「続きが気になる」「この子をもう少し見守ってみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。 皆さまからの応援を励みに、これからも小さな主人公の物語を大切に書いていきます。 次のお話も楽しんでいただけますように。
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