084 おじさんと僕の販売計画
――おじさんと僕の販売計画――
「それでね、おじさん」
「ん?」
ぼくは、行商人のおじさんのお店に並んでいる商品を見た。
「おじさんがいないときはね」
「ああ」
「おじさんから、いっぱいかっておくの」
「……俺から?」
「うん。ながくおいても、だいじょうぶなの」
おじさんが、少し考える。
「ああ。保存の利く食べ物か」
「それ」
おじさんが町を出てしまったら、おじさんから商品を買うことはできない。
だったら、いなくなる前に買っておけばいい。
「それと、ぼくのあみぐるみで、おみせする」
「なるほどな。俺が出る前に商品を買っておいて、それを自分の店で売るわけか」
「うん」
それなら、おじさんがいなくなっても、お店に並べるものがなくならない。
もちろん、ずっと残しておけるものじゃないと駄目だ。
どれくらい置いておけるのかも、ちゃんと聞いておかないといけない。
「それでね」
「まだあるのか?」
「おじさんが、もどってきたらね」
ぼくは、並んでいる商品を指差した。
「また、あたらしいの、もってくるでしょ?」
「ああ。そのつもりだ」
「それで、ぼくがね」
少し考える。
「どうやったら、ほしくなるか、かんがえる」
「…………」
おじさんが黙った。
「おじさん?」
「いや……」
並んでいる商品を見る。
それから、ぼくを見る。
「お前、それを毎回やるつもりなのか?」
「うん」
「俺が商品を持ってくるたびに?」
「うん」
「売り方を考える?」
「うん」
「……そうか」
おじさんは腕を組んだ。
今度は、さっきまでとは少し違う顔をしている。
何かを考えているみたいだった。
「確かに、今までにも似たことはやってるな」
「?」
「蜜蝋だよ」
「あっ」
覚えてる。
木の箱をぴかぴかにした。
「ただ置いてるだけじゃ、何に使うのか分からない客もいた。でも、実際に木箱に使ったら、興味を持つ客が出た」
「うん」
「乾燥豆もそうだ」
乾燥豆。
乾燥肉。
それを使って、スープを作った。
「香草石鹸なんて、お前がまとめて買ったあと、同じ香りの猫まで作ったからな」
「ねこ、かわいかった」
「そこかよ」
「えへへ」
おじさんが苦笑する。
でも、すぐに商品へ視線を戻した。
「つまり、俺が持ってきた物を、そのまま売るだけじゃないんだな」
「うん」
「お前が使い方を考えたり、別の物と組み合わせたりして、客に見せる」
「そう」
「俺がいなくなったあとは、お前が買った物を、そのまま売り続ける」
「うん」
「それで次に俺が来たら、また新しい商品で同じことをする、と」
「そうだよ」
おじさんは、しばらく黙っていた。
「……面白いな」
「ただしな、坊主」
「なあに?」
「売上が増えただけじゃ駄目なんだ」
「?」
「例えば、百枚で売れる物があったとする」
「うん」
「それをお前に十枚で売ったら、たくさん売れても俺は困るだろ?」
「……うん」
さすがに、それは分かる。
「それに、宣伝するためだからって、商品を何でも無料で渡してたら、俺の金がなくなる」
「あっ」
「お前が何か作るなら、その材料にも金がかかる」
「うん」
「だから、本当に俺の儲けが増えるのかは、ちゃんと計算しないとな」
「わかった」
売れた数だけじゃ駄目みたいだ。
いくらで買ったのか。
いくらで売ったのか。
作るのに、いくらかかったのか。
それも一緒に考えないといけない。
「でもな」
おじさんが、今度は荷馬車を軽く叩いた。
「お前の話には、俺にとってもう一ついいことがある」
「なに?」
「売れ残った保存食を、お前が買ってくれるかもしれないことだ」
「?」
「俺は町を出たあと、また別の町へ行くだろ?」
「うん」
「売れなかった商品も、全部この荷馬車に積んで持っていかなきゃならない」
荷馬車を見る。
大きい。
でも、何でもいくらでも入るわけじゃない。
「お前が買ってくれれば、その分だけ荷物が減る」
「そしたら?」
「空いたところに、別の商品を積める」
「ああ」
それなら、おじさんも少し楽になるのかな。
でも……。
「ぼくが、ほしいのだけね」
「当たり前だ」
おじさんが笑った。
「俺の売れ残りを全部押しつける気はない」
「よかった」
「そこは安心するんだな」
「それに、次に来たときには、お前が書いた紙も見られる」
「あっ」
さっき話していた紙。
何人来たか。
何が売れたか。
いくつ売れたか。
それを残しておく。
「何がよく売れたか分かれば、次はそれを多めに持ってこられる」
「うん」
「逆に、全然売れなかった物は減らせる」
「そっか」
「客が欲しがっていた物があれば、それを持ってくることもできる」
それを聞いて、ぼくはおじさんを見上げた。
「じゃあね」
「ん?」
「あたらしいのも、もってきてね」
「……やっぱりそれか」
「だめ?」
「駄目とは言ってない」
おじさんは少し考えたあと、にやっと笑った。
「むしろ、何種類か持ってきてもいいかもしれないな」
「ほんと?」
「ああ。俺が見ても、この町で売れるか分からない物をな」
「ぼく、かんがえていい?」
「そのために持ってくるんだよ」
「えへへ」
楽しみが、また一つ増えた。
◇ ◇ ◇
「待てよ……」
急に、おじさんが何かに気づいた。
「なに?」
「俺がいない間、お前が保存食を売るんだよな?」
「うん」
「そうすれば、当然少しずつ減っていく」
「うん」
「それで、俺がまた来る」
「うん」
「……そのときに補充する」
「あっ」
ぼくも分かった。
なくなってきたころに、おじさんが来る。
そうしたら、また買える。
「おじさんがきたら、あたらしいの、ふえるね」
「そういうことだ」
話を聞いていた雑貨屋のおじさんも、こちらを見た。
「それ、客にも言っておけばいいんじゃないか?」
「客に?」
「ああ。『次に行商人が来たら、新しい商品が入る』ってな」
行商人のおじさんが黙った。
ぼくも考える。
おじさんが来る日。
新しいものが来る日。
それが分かっていたら……。
「みにきてくれるかも」
「そういうことだ」
雑貨屋のおじさんが笑った。
今までは、おじさんが町に来てから、お客さんを呼んでいた。
でも次は。
「おじさんがくるよって、いっておく」
「……そうしてくれると助かるな」
「うん」
「俺が来た日に、誰もいなかったら恥ずかしいけどな」
「ぼく、よぶよ」
「頼もしいことで」
おじさんは苦笑した。
「ただし、次からはちゃんと仕事として考えるぞ」
「しごと?」
「ああ。前にも話しただろ?」
おじさんが、ぼくを指差した。
「俺が持ってきた新しい商品の売り方を、お前が考える」
「うん」
「実際に使って見せたり、何かを作ったりする」
「うん」
「それで俺の商品が売れるように手伝ってくれたなら、その分はお前の仕事だ」
「おかね、もらえる?」
「結果を見てな」
「えへへ」
「嬉しそうだな……」
だって、お仕事なら、お金をもらえる。
「ただ、お前が俺から買って、自分の店で売る商品は別だ」
「べつ?」
「ああ。それは、お前が自分のお金で買って、自分で売るんだからな」
少し難しい。
ぼくは首を傾げた。
「つまりだ」
おじさんは、ぼくにも分かるように言い直してくれた。
「俺の商品を売るのを手伝ったら、俺がお前に払う」
「うん」
「お前のお店で売る物は、お前が俺から買う」
「うん」
「そこは一緒にしない」
「わかった」
今度は分かった。
ぼくのお店のもの。
おじさんのお店のもの。
一緒に売ることはあっても、お金はちゃんと分ける。
「それから、次は数字もちゃんと見るぞ」
「かいたの、みせる?」
「ああ。売れた数だけじゃない。いくらかかったかも全部見る」
「うん」
「それで、本当に俺の儲けが増えたのか確かめる」
「ふえたら?」
「次も頼む」
「ふえなかったら?」
「何が悪かったのか、一緒に考える」
「そっか」
失敗したら、終わりじゃない。
どうして売れなかったのか考えて、またやってみる。
それなら、ぼくにもできそうだった。
おじさんは、自分の荷馬車を見た。
「まったく……」
「なあに?」
「次にこの町へ来るときは、商品を売ることだけ考えてちゃ駄目になりそうだ」
「?」
「お前に何を見せたら、また変な売り方を思いつくか。それも考えて仕入れないとな」
「へんなの?」
「褒めてるんだよ」
「そっか」
ぼくは、にっこり笑った。
次におじさんが来るとき。
どんなものを持ってきてくれるんだろう。
まだ、おじさんは町を出てもいない。
ぼくのお店だって、始まっていない。
なのに。
もう次に会うときのことが、少し楽しみになっていた。




