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ちいさなぼくのまもるもの  作者: 星乃いりす


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083 おじさんがいない間に

――おじさんがいない間に――


「でも、おじさん」


「ん?」


ぼくは、行商人のおじさんのお店を指差した。


「つぎに、おじさんがここにきたときね」


「ああ」


「もう、ぼくが、おきゃくさんよんでるよ」


「…………」


おじさんが止まった。


「……何?」


「ぼくが、おきゃくさん、よぶの」


「いや、それは聞こえた」


おじさんは、ぼくの顔をじっと見た。


「どういう意味だ?」


「だってね」


ぼくは、おじさんのお店の前まで走った。


ここには、今までたくさんの人が来てくれた。


あみぐるみを見てくれた人。


スープを飲んでくれた人。


石鹸を買ってくれた人。


何度も来てくれた人もいる。


「おじさんがいなくても、ぼく、ここでおみせするでしょ?」


「ああ」


「そしたら、おきゃくさん、くるかもしれないでしょ?」


「まあ……来るかもしれないな」


「それでね」


ぼくは、にっこり笑った。


「おじさんがもどってきたときも、おきゃくさん、いる」


「…………」


また、おじさんが黙った。


ぼく、変なこと言ったかな?


「おじさん?」


「いや……待て」


おじさんは、頭を掻いた。


「つまり、お前は俺がいない間も、ここで店を続ける」


「うん」


「その間に、ここへ来る客が増えるかもしれない」


「うん」


「俺が戻ってきたら、その客がいるところに俺も店を出せる」


「そう」


ぼくは、大きく頷いた。


「おじさんも、いっしょ」


「…………なるほどな」


おじさんは、今度は自分のお店を見た。


「でもな、坊主」


「なあに?」


「お前の店に来る客が、俺の商品も買ってくれるとは限らないぞ」


「……?」


「例えば、あみぐるみだけを見たい人もいるだろ?」


「うん」


「その人が、俺の売ってる物を欲しがるとは限らない」


「そっか」


それはそうだ。


ぼくの作ったあみぐるみを見に来てくれた人が、おじさんの商品も欲しいとは限らない。


「じゃあ……」


少し考える。


「おじさんのも、みてもらう」


「ははっ。そこは変わらないのか」


「だって、みないと、ほしいかわからないよ?」


「……まあ、その通りだな」


おじさんが笑った。


買ってもらえるかは分からない。


でも、ここに人が来てくれたら、おじさんの商品を見てもらえるかもしれない。


それなら、何もないところで待っているより、ちょっとだけいい気がする。


「おじさん」


「ん?」


「いっぱいきてくれるように、がんばる」


「ああ。期待しすぎない程度に期待しておくよ」


「えへへ」


◇ ◇ ◇


「何の話してるんだ?」


声がして振り返ると、雑貨屋のおじさんが店先からこっちを見ていた。


「この坊主がな」


行商人のおじさんが、ぼくを指差した。


「俺がいない間にここで商売して、次に俺が来るまで客を集めておいてくれるらしい」


「おお。それは次に来るのが楽しみだな」


「楽しんでる場合か?」


「いいじゃないか」


雑貨屋のおじさんは、行商人のおじさんの肩を叩いた。


「今までは、あんたの店に人が集まって、この子がそこで商売してたんだろ?」


「ああ」


「次に来たときは、逆になるかもしれないぞ」


「逆?」


「この子の店に人が集まって、あんたがその隣で商売するんだよ」


「…………」


行商人のおじさんが、ぼくを見る。


ぼくも、おじさんを見る。


「おじさん、となりでしていいよ」


「さっきも聞いた」


「えへへ」


雑貨屋のおじさんが笑った。


「三歳の子に客を集めてもらう行商人か」


「やめろ。俺も今、それを考えてたところだ」


「いいじゃないか。客が来るなら」


「それはそうなんだが……」


おじさんは、なんだか難しい顔をしていた。


◇ ◇ ◇


しばらくして、おじさんがぼくを呼んだ。


「坊主」


「なあに?」


「俺が次に来るまで、店をやった日のことを紙に書いておけ」


「かみ?」


「ああ」


「なにかくの?」


「そうだな……」


おじさんは少し考えた。


「何人くらい来たか。何が売れたか。それくらいでいい」


「なんこ、うれたか?」


「ああ」


「おかねも?」


「できるならな」


「うん」


それならできそう。


売れたら書く。


お客さんが来たら書く。


「でも、なんで?」


「お前の店が、本当に客を集められるのか知りたいからだ」


「……?」


ぼくは首を傾げた。


お客さんが来たら、見れば分かるんじゃないのかな?


「俺は、そのときここにいないだろ?」


「あっ」


そうだった。


「だから、あとで見せてくれ」


「わかった」


「それに――」


おじさんが、にやっと笑った。


「次から、お前に商売の相談をするときは金を払うって話をしただろ?」


「……おかね」


「そこは覚えてるんだな」


「えへへ」


おじさんは笑ってから、ぼくの頭をぽんぽんと撫でた。


「どれくらい客が来て、どれくらい売れたのか分かれば、俺もお前にいくら払うか考えやすい」


「いっぱいきたら?」


「ん?」


「いっぱいきて、いっぱいうれたら?」


「……交渉次第だな」


「こうしょう?」


「いくら欲しいか話し合うってことだ」


「そっか」


それなら、いっぱい来てもらった方がいい。


いっぱい売れた方がいい。


そうしたら……。


「ぼく、いっぱいかく」


「いや、嘘を書くなよ?」


「うそじゃないよ」


「分かってる、分かってる」


おじさんが笑う。


◇ ◇ ◇


ぼくは、おじさんのお店の前に立った。


次におじさんが来るまで。


ここで、ぼくのお店をする。


お客さんが来たら、ちゃんと覚えておく。


何が売れたかも書いておく。


うまくいかない日も、あるかもしれない。


一つも売れない日だって、あるかもしれない。


でも、それもちゃんと書いておこう。


そして。


おじさんが、また町にやってきたら――。


ぼくは紙を持って、おじさんのところへ走っていく。


それから、言うんだ。


「えへへ」


「何だよ、急に笑って」


「ないしょ」


「……また何か企んでるな?」


「ちがうよ」


まだ先のことだから、分からない。


本当にたくさんのお客さんが来てくれるかも分からない。


でも。


次におじさんが町へ戻ってきたとき。


胸を張って言えたらいいな。


「おじさん、ここ、もうおきゃくさんきてるよ」

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ここまで読んでいただき、ありがとうございます☺️ 少しでも「続きが気になる」「この子をもう少し見守ってみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。 皆さまからの応援を励みに、これからも小さな主人公の物語を大切に書いていきます。 次のお話も楽しんでいただけますように。
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