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ちいさなぼくのまもるもの  作者: 星乃いりす


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082 おじさんのあとのおみせ

――おじさんのあとのおみせ――


「おじさん!」


「ん? どうした、坊主?」


ぼくは、行商人のおじさんのお店を指差した。


「あのね! おじさんが、いなくなったらね!」


「ああ」


「ここ、ぼくがつかってもいい?」


「…………ん?」


おじさんが、首を傾げた。


「ここって……俺の店がある場所か?」


「うん!」


「お前、俺がいなくなったら、ここで店を出すつもりだったのか?」


「そう!」


ぼくは、にっこり笑った。


だって、ここなら……。


「あのね! ここ、おきゃくさん、くるでしょ?」


「ああ、まあな」


「あみぐるみ、みにきてくれるひも、いるし!」


「そうだな」


「すーぷ、のみにきてくれるひも、いる!」


「……ああ」


「だからね!」


ぼくは、両手を広げた。


「ここで、おみせしたら、またきてくれるかも!」


おじさんは、しばらくぼくの顔を見つめていた。


それから、ゆっくりと自分のお店を振り返った。


「……なるほどな」


「えへへ!」


ここなら、何度も来てくれたお客さんが、また遊びに来てくれるかもしれない。


もちろん、来てくれるかどうかは分からない。


でも、違う場所で始めるより、見つけてもらいやすそうだった。


「お前、そんなことまで考えてたのか」


「うん!」


「まったく……」


おじさんは、困ったように笑った。


◇ ◇ ◇


「でもな、坊主」


「なあに?」


「ここは、俺の土地じゃないんだぞ」


「……?」


ぼくは、地面を見た。


それから、おじさんを見上げた。


「おじさんの、じゃないの?」


「ああ。町が商人に貸してる場所なんだ」


「かしてる?」


「そうだ。俺も、お金を払って借りてるんだよ」


「……おかね?」


「場所代ってやつだな」


「ばしょだい……」


ぼくは、もう一度地面を見た。


……地面にも、お金がいるの?


「じゃあ……」


少し考える。


「ぼくも、おかねはらったら、いい?」


「はははっ! そういうことだ!」


「やった!」


思わず、両手を上げた。


でも、おじさんは笑いながら首を横に振った。


「まだ喜ぶのは早いぞ」


「えっ?」


「借りられるかどうか、管理人に聞かなきゃいけないからな」


「かんりにん?」


「この場所を貸してくれる人だよ」


「じゃあ、ききにいこ!」


「ははっ! そうだな!」


おじさんは、ぼくの頭をぽんぽんと撫でた。


「でも、お母さんにも来てもらわないとな」


「おかあさんも?」


「ああ。お前一人じゃ借りられないからな」


「わかった!」


◇ ◇ ◇


おかあさんにも来てもらって、管理人さんのところへ向かった。


行商人のおじさんが事情を説明すると、管理人さんは、ぼくを見た。


「……この子が、お店を?」


「うん!」


元気よく返事をする。


管理人さんは、目を丸くした。


「いくつかな?」


ぼくは、指を三本立てた。


「さんさい!」


「……三歳?」


「うん!」


管理人さんは、今度はおじさんを見た。


「本当に?」


「ええ。俺の店で、商品を売るのを手伝ってくれてましてね」


「ほう……」


「客を呼んだり、あみぐるみを作ったり、いろいろやってるんですよ」


管理人さんが、もう一度ぼくを見た。


「そうなのかい?」


「うん! あみぐるみ、つくれるよ!」


「へえ!」


「ねこも、つくった!」


「猫?」


「うん! かわいいの!」


思わず、にっこり笑った。


管理人さんも、つられて笑った。


「それはすごいね」


「えへへ!」


でも、おじさんは少し真面目な顔になった。


「ただ、まだ三歳ですからね。母親の同意と、大人の監督が必要なのは承知しています」


「そうですね」


管理人さんは、おかあさんを見た。


「お母さんは、どうお考えですか?」


「危ないことをさせないように、私も見ていられる範囲でなら……」


おかあさんが、ぼくを見た。


ぼくも、おかあさんを見上げた。


「おかあさん!」


「なあに?」


「ぼく、おみせ、がんばる!」


「ふふっ。分かってるわよ」


おかあさんが、優しく笑った。


◇ ◇ ◇


「それで、どれくらいの場所が必要なんですか?」


管理人さんが、おじさんに尋ねた。


「小型の移動屋台、一台分ですね」


「ちいさいの!」


ぼくも、両手を広げる。


「よんりんでね!」


「四輪?」


「うん! ころころって、うごくの!」


「ほう」


「それでね! ぱたんって、できるの!」


「……ぱたん?」


管理人さんが、首を傾げた。


「はははっ! 折り畳み式の作業台が付いてるんですよ」


おじさんが、代わりに説明してくれた。


「ああ、なるほど!」


管理人さんは、少し考え込んだ。


「それなら、小型露店の区画で足りそうですね」


「ほんと!?」


「ええ。ただし、お金がかかりますよ」


「うん!」


「一日、銅貨三枚です」


「……さんまい?」


ぼくは、指を三本立てた。


「これ?」


「そう、それだよ」


「おお!」


三枚。


それなら……。


「みっかで、きゅうまい!」


「……えっ?」


管理人さんが、驚いたようにぼくを見た。


「三日分の計算までできるのかい?」


「えへへ!」


おじさんが、隣で笑った。


「こいつ、計算は得意なんですよ」


でも……。


ぼくは、少し考えた。


もし、お客さんが一人も来なかったら?


「……おじさん」


「ん?」


「うれなかったひも、さんまい?」


管理人さんが、頷いた。


「そうだよ。場所を使った日は、売れなくても三枚必要なんだ」


「……そっか」


じゃあ、お店を出す日は、ちゃんと考えなきゃ。


「でも、使わない日は払わなくていいんですよ」


「ほんと!?」


「ええ」


「じゃあ、あめのひは、おやすみ!」


「ははっ! それもいいかもしれないね」


◇ ◇ ◇


「それから、いくつか約束があります」


「やくそく?」


「そう。守れるかな?」


「うん!」


管理人さんが、指を一本立てた。


「まず、通る人の邪魔をしないこと」


「うん!」


「火を使うときは、必ず大人にお願いすること」


「うん!」


「ゴミは、きちんと持って帰ること」


「うん!」


「お店が終わったら、屋台も持って帰ること」


「うん!」


「それから、大人と一緒にお店をすること。一人では駄目だよ」


「……!」


ぼくは、おかあさんを見た。


「おかあさん!」


「なあに?」


「いっしょに、おみせしてくれる?」


おかあさんは、少し困ったように笑った。


「毎日ずっと一緒にはいられないけど、私が見ていられるときならね」


「ほんと!?」


「ええ」


「やった!」


嬉しくなって、おかあさんに抱きついた。


おかあさんが、頭を優しく撫でてくれた。


管理人さんも笑っている。


「では、今の商人さんが町を出たあと、場所が空いていれば使えるようにしましょう」


「……!」


ぼくは、ぱっと顔を上げた。


「ここ、つかっていいの!?」


「空いている日に、ちゃんと申し込んでくれればね」


「やったあ!」


思わず、その場でぴょんぴょん跳ねた。


◇ ◇ ◇


帰り道。


ぼくは、行商人のおじさんの手を握った。


「おじさん!」


「ん?」


「ぼく、ここで、おみせする!」


「ははっ! もう決めたのか?」


「うん!」


でも……。


ふと、思いついた。


「あ!」


「今度は何だ?」


「よんりんだからね!」


「ん?」


「ほかのところにも、いけるよね!」


「……ああ!」


おじさんが、笑った。


「そうだな。ちゃんと許可をもらえば、ほかの場所でも店を出せるぞ」


「おお!」


じゃあ……。


お祭りの日は、お祭りの近く。


人がたくさんいるところにも、行けるかもしれない。


「えへへ!」


楽しそう!


「ただし、遠い場所まで運ぶなら、大人に手伝ってもらえよ」


「はーい!」


おじさんは、自分のお店を見ながら笑った。


「しかし……俺が次に戻ってきたら、お前の方が立派な店を出してたりしてな」


「……!」


ぼくは、おじさんを見上げた。


「じゃあ!」


「ん?」


「おじさん、ぼくのとなりで、おみせしていいよ!」


「……は?」


「いっしょ!」


ぼくは、両手を広げた。


「おみせ、ふたつ!」


「ぶはっ!」


おじさんが、突然笑い出した。


「ははははっ! そりゃあいい!」


「えへへ!」


おじさんのお店と、ぼくのお店。


二つ並んだら、きっと楽しい。


ぼくは、いつもの露店を眺めた。


今は、おじさんのお店。


でも、いつか。


ここに、ぼくの小さな屋台を置けるかもしれない。


「……えへへ!」


早く、お店をやってみたいな。


でも、その前に……。


屋台も、まだ買っていなかった。


「あっ!」


「どうした?」


「おじさん!」


「何だ?」


「やたい、まだ、かってない!」


「…………」


おじさんが、ぽかんとした顔になった。


それから、大きな声で笑い出した。


「ははははっ! そうだったな!」


「えへへ!」


まずは、屋台。


それから、お店。


やることが、まだまだいっぱいだった。

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ここまで読んでいただき、ありがとうございます☺️ 少しでも「続きが気になる」「この子をもう少し見守ってみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。 皆さまからの応援を励みに、これからも小さな主人公の物語を大切に書いていきます。 次のお話も楽しんでいただけますように。
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