078 ちいさなぼくにも運べる物
――ちいさなぼくにも運べる物――
買ったばかりの鍋を見ながら、これで何を作ろうかな、と考えていた。
まだ作るものは決まっていない。
でも、自分の鍋があれば、いろいろ作れそうだ。
そのとき、ふと思った。
「……あ!」
鍋だけなら、何とか持てる。
でも、おたまや木べら、それに料理の材料も持っていくなら、どうしよう。
あみぐるみや毛糸も運びたい。
ぜんぶ抱えて歩くのは、きっと大変だ。
何かいいものはないかな。
店の中を見回してから、もう一度おじさんに声をかけた。
「ざっかやのおじさん!」
「おや? 今度は何だい?」
「ぼくでもおせる、ちいさいにぐるまはある?」
「……荷車?」
おじさんは、びっくりしたように目を丸くした。
「今度は荷車が欲しいのか?」
「うん!」
「はははっ! さっきは鍋を買ったと思ったら、今度は荷車か!」
おじさんは笑いながら、腕を組んだ。
「荷車ならあるにはあるが……お前が使うとなると、ちょっと考えないとな」
「どうして?」
「普通の荷車は、お前には大きすぎるだろう?」
たしかに、町で見る荷車は、大人が押したり引いたりするものばかりだ。
荷物をたくさん載せられるけれど、ぼくの背では持ち手に届かないものもある。
「ちいさいの、ない?」
「そうだな……ちょっと待ってろ。店の裏にあったはずだ」
おじさんはそう言うと、店の奥へ行った。
しばらくすると、木の車輪が転がる音が聞こえてきた。
がらがら……。
「ほら、これなんかどうだ?」
おじさんが持ってきたのは、小さな木の荷車だった。
車輪が二つ付いていて、持ち手を握って押すようになっている。
大人の荷車より、ずっと小さい。
「わあ!」
ぼくは、すぐに近くへ行った。
「これ、ぼくでもつかえる?」
「試してみるか?」
「うん!」
おじさんが荷車を押さえている間に、持ち手を握ってみた。
高さは、何とか届く。
両手でぎゅっと握って、少し持ち上げてみる。
「んっ……!」
思ったより重かったけれど、持ち上がった。
そのまま、ゆっくり押してみる。
ころころ……。
「おお!」
動いた!
「うごいた!」
「ははっ! ちゃんと動かせたな!」
おじさんも嬉しそうに笑った。
もう少し押してみる。
車輪が回るたびに、荷車が少しずつ前へ進んだ。
空っぽなら、ぼくでも何とか動かせそうだ。
でも、本当に使うときは、荷物を載せる。
「おじさん! にもつ、のせてみたい!」
「そうだな。空っぽで動いても、荷物を載せたらどうなるか分からんからな」
おじさんは、さっき買った鍋を荷台に載せた。
「まずは、これだけで押してみな」
「うん!」
もう一度、持ち手を握る。
ぐっと力を入れて押すと、荷車はゆっくり動き始めた。
ころころ……。
「うごく!」
「よし。じゃあ、もう少し載せてみようか」
おじさんは、小さな木箱も載せた。
さっきより重くなったけれど、まだ動かせる。
「どうだ?」
「だいじょうぶ!」
「じゃあ、もう少しだけな」
さらに荷物を載せてもらって、もう一度押してみる。
「んんん……!」
今度は、なかなか動かない。
両手で持ち手を握って、体を前に倒しながら押す。
やっと車輪が回ったけれど、さっきとはぜんぜん違った。
曲がろうとしても、うまく向きを変えられない。
「んっ……!」
「おっと、そこまでだな」
おじさんが荷車を押さえてくれた。
「これ以上は危ない。無理に押すんじゃないぞ」
「うん……」
おじさんが荷物を降ろすと、荷車はまた軽くなった。
「どうだ? 荷物を載せると、ずいぶん重くなるだろう?」
「うん! おもかった!」
「平らな道なら動かせても、坂道では危ないぞ」
おじさんは車輪を指差しながら教えてくれた。
坂を上るときは、荷車を押すのに、もっと力がいる。
下り坂では、荷車が勝手に進んでしまう。
ぼくの力で止められなかったら、引っ張られて転んでしまうかもしれない。
「だから、お前が使うなら、平らな道で、軽い荷物だけにするんだな」
「うん!」
「それから、人や荷車が通るところでは、よく周りを見ること。重いものを運ぶときは、大人に頼むんだぞ」
「はーい!」
たくさん荷物を載せられないのは、ちょっと残念だった。
でも、ぼくが運べる量なら、これでも十分かもしれない。
「おじさん、これ、いくら?」
「これか? 中古でよければ、銅貨七十枚だな」
「ななじゅうまい……」
「新品なら、百十枚くらいするぞ」
ずいぶん値段が違う。
ぼくは、もう一度荷車をよく見た。
木のところには傷がある。
車輪にも、使った跡が残っている。
でも、さっき動かしたときは、ちゃんと転がっていた。
「こわれてない?」
「今のところ、大丈夫だ。車輪の軸も見てある」
おじさんは荷車を少し持ち上げて、車輪を回して見せてくれた。
からから……。
車輪は、引っかからずに回っている。
「中古だから、新品みたいにはいかん。でも、使えないものを売るつもりはないぞ」
「そっか!」
ぼくは、もう一度持ち手を握った。
新品のほうがきれいだ。
でも、ぼくにはこの荷車でも十分そうだった。
それに、銅貨四十枚の違いは大きい。
ただ安いだけで決めてはいけないことは、さっき鍋を買ったときにも考えた。
ちゃんと動くか。
車輪は大丈夫か。
運びたいものを載せられるか。
一つずつ考えながら、荷台を見た。
ここに鍋を載せる。
おたまと木べらも入れる。
空いたところには、毛糸や包むものも置けそうだ。
あみぐるみなら、そんなに重くない。
少しずつ運べば、荷物を抱えて何度も歩かなくてもよさそうだ。
それから、もう一つ思いついた。
荷台に商品を並べたら、どうだろう。
「……えへへ!」
思わず笑ってしまう。
行商人のおじさんのお店では、商品を見やすく並べていた。
そうすると、お客さんが立ち止まってくれる。
この小さな荷車にも、あみぐるみを並べられるかもしれない。
もちろん、どこでも勝手に売っていいわけではない。
売るなら、場所も考えないといけない。
でも、荷物を運ぶだけじゃなくて、小さなお店みたいにも使えそうだった。
「……坊主?」
おじさんの声が聞こえて、顔を上げる。
「なに?」
「お前、何か考えてるだろ?」
「えへへ!」
「まさか、荷物を運ぶだけに欲しいんじゃないのか?」
どうして分かったんだろう。
ぼくは不思議に思いながら、もう一度荷台を見た。
そのとき、通りの向こうから声が聞こえた。
「おーい! 今度は何をしてるんだ?」
顔を上げると、行商人のおじさんがこっちを見ていた。
雑貨屋のおじさんも振り返る。
「この坊主が、自分で動かせる荷車を探してるんだよ!」
「……荷車?」
行商人のおじさんは、ぽかんとした。
「さっきは鍋を買っていたよな?」
「うん!」
「それで、今度は荷車か……」
行商人のおじさんは、なぜか額に手を当てた。
雑貨屋のおじさんも、ぼくを見て笑っている。
「なあ、坊主。今度はいったい何を始めるつもりなんだ?」
「えへへ!」
まだ、この荷車を買うと決めたわけじゃない。
でも、自分で動かせる小さな荷車があれば、できることがもっと増えそうだ。
買ったばかりの鍋と、目の前の荷車。
ぼくは二つを見比べながら、これから何を作ろうか、どうやって売ろうかと考えていた。




