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ちいさなぼくのまもるもの  作者: 星乃いりす


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067 肉と豆のスープ

――肉と豆のスープ――


蜜蝋と木箱。


二つを一緒に考えたら。


昨日まで動かなかったものが、今日は動いた。


でも。


気になっていたものは、まだある。


店に並ぶ乾燥豆を見る。


十八袋持ってきて。


売れたのは、二袋。


この町でも豆を作っている家があるから。


わざわざ行商人から買う人が少ない。


「…………」


その隣。


干し肉を見る。


干し肉は違った。


昨日。


スープに使った。


食べてもらった。


そうしたら。


スープに入っていた干し肉を見て、家でも作ろうと買っていった人がいた。


「おじさん」


「今度はなんだ?」


「まめ」


「豆?」


「うん」


乾燥豆を指差す。


次に。


干し肉を指差す。


「これと、これ」


「豆と干し肉だな」


「いっしょにする」


「一緒に売るのか?」


少し考えて。


首を振る。


「ちがう」


「違う?」


「スープ」


「……ああ」


昨日使っていた鍋を指差す。


「まめもいれる」


行商人が乾燥豆を見る。


それから干し肉を見る。


「豆と干し肉のスープにするのか」


「うん!」


昨日。


干し肉をスープにしたら。


ただ並んでいたときとは違った。


匂いがする。


温かい。


実際に食べられる。


そして。


気に入った人が、干し肉を買っていった。


なら。


豆も同じように。


食べてもらえばいい。


「それでね」


「まだあるのか?」


「うん!」


乾燥豆と干し肉を近くに並べる。


「スープ、おいしかったら」


二つを指差す。


「これとこれ、いっしょにうる」


「……なるほど」


行商人が腕を組む。


「食わせて終わりじゃなくて、家でも同じものを作れるようにするのか」


「うん!」


昨日のスープを食べた人が。


干し肉を買って帰った。


なら。


今日のスープに豆を入れて。


豆も干し肉も使っていると見せる。


そして。


同じものを作れるように。


二つを一緒に買えるようにする。


行商人はしばらく黙っていた。


「考え方は分かった」


「やる?」


「試してみてもいい」


「やった!」


「ただし」


「…………なに?」


「売れない物と売れる物を一緒にすりゃ、何でも売れるわけじゃないぞ」


「?」


行商人が店の商品を見る。


それから。


縫い針を一本指差した。


「たとえば、この針と豆を一緒に売ったら?」


「…………」


針を見る。


豆を見る。


もう一度。


針を見る。


「なんで?」


「そうなるだろ」


「あ」


一緒にする理由がない。


「客から見て、一緒に欲しくなる理由がなきゃ意味がない」


「スープは?」


「豆と干し肉を両方使う」


「うん」


「一緒に買えば、食ったものと同じ料理を家で作れる」


「うん!」


「だから、こいつは試してみる理由がある」


できる。


そう決まったわけではない。


売れる。


そう決まったわけでもない。


でも。


試してみてもいい。


「それと、豆は昨日みたいにすぐ鍋へ入れればいいわけじゃない」


「そうなの?」


「ああ。乾燥豆だからな。種類にもよるが、前もって水に浸したり、煮る時間を長くしたりする必要がある」


「…………」


豆を見る。


一粒、指先で触ってみる。


硬い。


「いまから?」


「明日の分なら準備できる」


「じゃあ、あした!」


「ああ」


◇ ◇ ◇


翌日。


大きな鍋から湯気が上がっていた。


昨日とは。


少し違う匂い。


干し肉。


野菜。


そして。


今日は豆も入っている。


昨日のうちに。


行商人が豆の準備をしていた。


「もういい?」


「まだだ」


「…………」


鍋を見る。


「もう?」


「まだ」


「…………」


また待つ。


しばらくして。


行商人が豆を一つ確かめる。


「そろそろだな」


「できた?」


「ああ」


「やった!」


店先へ行く。


鍋から。


温かい湯気が立っている。


昨日スープを買った男が、今日も足を止めた。


「今日は昨日と違うのか?」


「きょうは、まめはいってるよ!」


「豆?」


「うん!」


鍋を覗き込む。


「へえ。じゃあ一杯もらうか」


最初の一杯。


器に入る。


男が食べ始める。


じっと見る。


「…………」


豆を食べた。


干し肉も食べた。


また豆。


「どう?」


「まだ食ってる」


「あ」


待つ。


少しだけ。


「どう?」


「昨日のより腹にたまるな」


「おいしい?」


「ああ。悪くない」


「ほんと!?」


嬉しくなる。


でも。


まだ終わりではない。


「これ!」


店に並べたものを指差す。


乾燥豆。


干し肉。


今日のスープに使った二つ。


行商人が、一度スープを作れるくらいの量を考えてまとめてある。


その横には。


簡単な作り方を書いた紙。


もちろん。


自分で書いたものではない。


豆をどれくらい使うのか。


どれくらい水につけるのか。


どれくらい煮るのか。


そこまでは分からない。


だから。


行商人に書いてもらった。


「さっきの、いえでもつくれるよ!」


「これで?」


「うん!」


男が豆と干し肉を見る。


「どのくらい作れるんだ?」


「それは俺が説明する」


行商人が横から答える。


量。


作り方。


豆の準備。


男は説明を聞いて。


もう一度、まとめられた豆と干し肉を見る。


「じゃあ、一つもらう」


「…………!」


売れた。


豆だけでは。


ほとんど売れなかった。


でも。


今日は。


食べたものと同じものを家でも作れる。


そのための豆になった。


「おじさん!」


「一つ目だな」


「うん!」


それから。


もう一組。


昼を過ぎたころには。


別の客が聞いた。


「家族四人なら、どのくらい要る?」


「よにん!」


思わず行商人を見る。


「おじさん!」


「分かってる」


行商人が説明する。


自分では、まだ答えられない。


一人分ならどれくらい。


四人ならどれくらい。


豆と干し肉の割合はどうするのか。


そういうことは。


まだ知らない。


客は説明を聞いて。


二組買っていった。


「…………」


豆を見る。


減っている。


この町へ来てから。


ほとんど減っていなかったもの。


それが。


今日は減っている。


「うれた……」


「ああ」


「スープにしたから?」


「その可能性は高いな」


「やった!」


でも。


全部が思った通りになったわけではなかった。


「俺は干し肉だけでいい」


そう言う客もいる。


「まめ、いらない?」


「今日はいいかな」


「…………そっか」


その人は。


干し肉だけを買った。


また別の人も。


スープは買ったけれど。


豆と干し肉は買わなかった。


「なんで?」


「食うのと、家で作るのは別だからな」


「あ」


美味しいと思っても。


自分で作りたいとは限らない。


「じゃあ、みんなかわない?」


「当たり前だ」


「…………」


少し残念。


でも。


昨日までほとんど売れていなかった豆が。


今日はちゃんと減っている。


「セットだけにする?」


「いや」


「なんで?」


「干し肉だけ欲しい客もいるだろ」


さっきの人を見る。


もう歩いていってしまった。


「セットしか買えなかったら、あの客はどうする?」


「…………かわない?」


「そうなるかもしれん」


「あ」


だから。


干し肉だけでも買える。


豆だけでも買える。


二つ一緒にも買える。


スープだけ食べることもできる。


客が選べるようにする。


「それと」


「?」


「一緒に売るからって、安くしすぎるのも駄目だ」


「やすいほうが、いっぱいかわない?」


「買う奴は増えるかもしれん」


「じゃあ、やすく――」


「でも、元から干し肉を買うつもりだった奴にまで、必要以上に安く売ったら?」


「…………」


考える。


分からない。


「どうなる?」


「売れても、残る儲けが減る」


「あ」


売れる。


それだけでは駄目。


前にも教えてもらった。


「むずかしい……」


「だから値段は俺が決めた」


「うん」


そこは。


まだ分からない。


自分が考えたのは。


豆をスープに入れること。


食べてもらうこと。


干し肉と一緒に。


家でも作れるようにすること。


でも。


どれくらい入れるのか。


いくらで売るのか。


どれくらいなら利益が残るのか。


そこまで決めるには。


まだ知らないことが多い。


夕方。


行商人が帳簿を開く。


すぐ横へ行く。


「まめ、どうだった?」


「今見る」


「いっぱい?」


「だから待て」


「うん」


数字が書かれる。


待つ。


行商人が計算する。


また待つ。


「…………」


「まだ?」


「まだだ」


「…………」


少しして。


ようやく手が止まった。


「今日だけで、まとめて売った分を合わせると、豆は五袋分くらい動いたな」


「ごこ!?」


「ああ」


「きょうだけ?」


「今日だけだ」


目を丸くする。


この町へ来てから。


それまで売れたのは二袋。


それが。


今日だけで五袋分。


「いっぱいうれた!」


「ああ。ただし」


「また?」


「まただ」


行商人が笑う。


「今日一日だけの結果だ」


「あ」


「昨日までほとんど売れてなかったから、効果があった可能性は高い。でも、明日も同じように売れるとは限らん」


「じゃあ、あしたもみる?」


「ああ」


「そのつぎも?」


「俺がいる間はな」


「うん!」


それから。


スープの数字も見る。


「こっちも赤字にはなってない」


「もうかった?」


「ああ」


「まめいれたから?」


「それも少しある」


「?」


行商人が説明してくれる。


豆を入れた分。


干し肉を少し減らしても。


食べた人は、昨日より腹にたまると言っていた。


使った豆の値段。


減らした干し肉の値段。


薪。


野菜。


いろいろ比べると。


今日の一杯は。


昨日より、ほんの少しだけ材料にかかるお金を抑えられたらしい。


「じゃあ、もっとまめいれる?」


「そうはならん」


「なんで?」


「豆だらけにして、客が昨日の方が旨かったって言ったら?」


「…………」


「安く作れても、買ってもらえなくなったら意味がない」


「あ」


まただ。


多ければいいわけではない。


安ければいいわけでもない。


一緒にすれば。


何でも売れるわけでもない。


「むずかしい」


「ああ。商売はそういうもんだ」


乾燥豆を見る。


まだ残っている。


全部売れたわけではない。


明日も売れるかは分からない。


でも。


昨日まで。


ずっと同じように置かれていたものが。


今日は。


少し減った。


豆そのものが変わったわけではない。


干し肉も同じ。


変わったのは。


どう使うのか。


どうやって買ってもらうのか。


それを見せたこと。


「…………」


もう一度。


乾燥豆と干し肉を見る。


一緒にすればいい。


そんな簡単な話ではなかった。


一緒に使う理由があって。


客がそれを欲しいと思って。


値段もちゃんと合っていて。


初めて。


買ってもらえることがある。


まだ全部は分からない。


だから。


明日も見る。


本当に同じように売れるのか。


それとも。


今日だけだったのか。


それを確かめてから。


また考えよう。

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ここまで読んでいただき、ありがとうございます☺️ 少しでも「続きが気になる」「この子をもう少し見守ってみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。 皆さまからの応援を励みに、これからも小さな主人公の物語を大切に書いていきます。 次のお話も楽しんでいただけますように。
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