↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちいさなぼくのまもるもの  作者: 星乃いりす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/92

066 蜜蝋ときれいな木箱

――蜜蝋ときれいな木箱――


蜜蝋と木箱を見比べる。


さっき思いついたこと。


今度は、もう話しても大丈夫だ。


「おじさん」


「おう」


蜜蝋を指差す。


「これ、きばこにつかう」


「木箱に?」


「うん」


次に、小さな木箱を指差す。


「おきゃくさんのまえで、やってみせる」


「……俺が?」


「うん!」


行商人が蜜蝋を見る。


それから木箱を見る。


「なるほど。使うところを実際に見せるのか」


「うん!」


蜜蝋は、何に使うのか分からない人が多い。


だったら。


知っている人が使っているところを見せればいい。


木箱に使って。


磨いて。


どう変わるのか見てもらう。


「それでね」


「まだあるのか?」


「うん」


木箱を指差す。


「きれいになったら、これもうる」


「……なるほどな」


行商人が腕を組んだ。


木箱は、すでに持っているからいらないと言われている。


でも。


蜜蝋を使って、今まで並んでいたものとは少し違って見えたら。


欲しいと思う人がいるかもしれない。


「考え方は悪くない」


「やる?」


「試してみる価値はあるな」


「ほんと?」


「ああ。ただし、今日はもう遅い。やるなら明日だ」


すぐに見たかったけれど。


店先を見ると、客の数も少なくなっている。


「おきゃくさんいるとき?」


「そうだ。見せるのが目的なら、誰もいないところでやっても仕方ないだろ」


「あ」


確かにそうだ。


「じゃあ、あした!」


「ああ」


◇ ◇ ◇


翌朝。


店先に、小さな木箱が二つ並んだ。


どちらも同じ商品。


一つは、そのまま。


もう一つは。


今日、行商人が蜜蝋を使って仕上げるもの。


蜜蝋も用意されている。


「おじさん、まだ?」


「まだ客がほとんどいないだろ」


「…………」


通りを見る。


人はいる。


でも、店の前を歩いている人は少ない。


「いまは?」


「待て」


少し待つ。


「いま?」


「まだだ」


「…………」


また待つ。


やがて。


通りを歩く人が増えてきた。


行商人が店先を見る。


「そろそろやるか」


「うん!」


すぐ近くに座る。


行商人が木箱を手に取った。


「まず、いきなり全部やるんじゃない」


「なんで?」


「木の種類や状態によって仕上がりが変わることがある。最初は目立たないところで確かめる」


「ちょっとだけ?」


「ああ」


行商人が少量を使って確かめる。


問題がなさそうなのを見てから。


少しずつ作業を進めていく。


「いっぱいつかわないの?」


「多けりゃいいってもんじゃない」


「ふーん……」


薄く。


少しずつ。


そして、布で磨く。


行商人の手が何度も木箱の表面を往復する。


最初は。


あまり変わったように見えない。


「…………」


そのまま見ている。


さらに磨かれる。


「…………あ」


少しずつ。


木目がはっきりしてきた。


光の当たり方も違う。


隣にある、何もしていない木箱を見る。


また。


磨いている木箱を見る。


「ちがう!」


「見えてきたか?」


「うん!」


触りたくなったけれど。


まだ行商人が作業している。


だから待つ。


そのとき。


「何してるんだ?」


声がした。


顔を上げる。


通りかかった男が、行商人の手元を見ていた。


「みつろう!」


思わず答える。


「蜜蝋?」


「おじさんが、きばこきれいにしてる!」


男が近づいてくる。


行商人は作業を止めない。


「こいつを使うと、こういう木製品の手入れができるんだ」


「へえ」


男は蜜蝋を見る。


次に。


磨かれている木箱を見る。


「それが、あれか?」


「そうだ」


今までは。


蜜蝋を見ても。


何に使うのか聞かれていた。


説明しても。


そのまま戻されることが多かった。


でも今日は。


説明より先に。


使っているところが見える。


男はしばらくその場に残っていた。


やがて。


行商人が作業を終える。


「こんなもんだな」


二つの木箱を並べる。


何もしていない木箱。


蜜蝋で仕上げた木箱。


同じ形。


同じ大きさ。


でも。


並べれば違いが分かる。


男が両方を見る。


「結構変わるもんだな」


「うん!」


なぜか自分が褒められたみたいに嬉しい。


「これ、家の棚にも使えるのか?」


「木の種類や表面の状態にもよる。何にでも同じように使えるわけじゃないが、手入れに使えるものは多い」


今度は。


行商人が詳しく説明する。


どんなものに使えるのか。


どう使うのか。


気をつけること。


自分は隣で聞く。


知らないことが出てくるたびに。


蜜蝋を見る。


木箱を見る。


覚えておこう。


男はしばらく考えてから。


「一つ試してみるか」


「…………!」


蜜蝋が一つ。


売れた。


九個あって。


昨日まで、一個も売れていなかったもの。


「おじさん」


「ああ」


「うれた!」


「売れたな」


残った蜜蝋を見る。


八個。


ちゃんと。


一つ減っている。


それだけで嬉しくなる。


蜜蝋で仕上げた木箱には。


行商人が札を書いた。


《蜜蝋仕上げ・現品》


値段は、普通の木箱より少し高い。


「なんでたかいの?」


「蜜蝋を使っただろ」


「うん」


「それに、仕上げる手間もかかってる」


「あ」


使った蜜蝋。


行商人が作業した時間。


それも。


何もなかったことにはならない。


だから。


同じ値段ではない。


隣には。


何もしていない木箱。


蜜蝋。


それぞれも、そのまま置いてある。


仕上がった箱が欲しい人。


自分で手入れしてみたい人。


普通の箱だけ欲しい人。


どれを選ぶかは。


客が決める。


昼前には。


もう一人が蜜蝋を買った。


今度は。


家にある木製品の手入れに使ってみたいという人だった。


そして午後には。


蜜蝋で仕上げた木箱も売れた。


昨日まで。


ずっとそこにあったものが。


今日は減っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます☺️ 少しでも「続きが気になる」「この子をもう少し見守ってみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。 皆さまからの応援を励みに、これからも小さな主人公の物語を大切に書いていきます。 次のお話も楽しんでいただけますように。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。