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ちいさなぼくのまもるもの  作者: 星乃いりす


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064 ずっとあるもの

――ずっとあるもの――


店先で、行商人の商品を眺めていた。


毎日ここにいると。


少しずつ、変わっているものがある。


干し肉が減る。


菓子が減る。


飲み物も減る。


売れたものは、なくなっていく。


荷馬車から新しく出されるものもある。


「…………」


その中で。


ふと、目が止まった。


黄色っぽい塊。


一つ。


二つ。


三つ。


数えていく。


「…………きゅう」


九個。


昨日も。


たしか、これくらいあった。


その前に見たときも。


たくさん並んでいた気がする。


「…………?」


近くには、小さな木箱もある。


これも、ずっと見ている。


香りのする石鹸も。


「おじさん」


「ん?」


行商人を呼ぶ。


「これ」


黄色っぽい塊を指差す。


「どうした?」


「なんで、ずっとおなじなの?」


「同じ?」


「うん」


もう一度、数える。


「いち、に、さん……」


九個。


「ずっとあるよ?」


「…………」


行商人がこちらを見る。


それから、黄色い塊を見る。


「ああ」


何か分かったらしい。


「そういうことか」


「?」


「こいつは、この町に来てから一つも売れてない」


「…………」


もう一度、黄色い塊を見る。


「いっこも?」


「ああ」


「だから、へらない?」


「そういうことだ」


「へぇ……」


売れたものは減る。


売れなければ減らない。


当たり前のことなのに。


今まで、あまり気にしていなかった。


黄色い塊をじっと見る。


「これ、なに?」


「蜜蝋だ」


「みつろう?」


知らない名前だった。


一つ持ってみる。


硬い。


少し匂いもする。


「なにするの?」


「蝋燭を作ったり、革や木の手入れに使ったりする」


「き?」


「木にも使えるぞ」


父が木を扱っている。


だから、そこだけ少し気になった。


「ぬるの?」


「使い方はいくつかあるが、表面の手入れにも使える」


「へぇ……」


手の中の蜜蝋を見る。


そんなものには見えなかった。


知らなければ。


ただの黄色い塊だ。


「なんで、だれもかわないの?」


「それが分からないからだろうな」


「?」


「お前も最初に聞いただろ。『これ、何に使うの』って」


「あ」


聞いた。


見ただけでは分からなかったから。


「客も似たようなもんだ。手に取って、何に使うのか聞く奴はいる」


「おしえる?」


「もちろん」


「じゃあ、かう?」


「いや。戻す奴が多い」


「…………なんで?」


「説明を聞いただけじゃ、自分で使うところまで思い浮かばないんだろうな」


「…………」


蜜蝋を見る。


確かに。


木に使える。


そう聞いた。


でも。


どうやって使うのか。


使ったら木がどうなるのか。


そこまでは、まだ分からない。


蜜蝋を元の場所へ戻す。


その隣。


小さな木箱にも目が止まった。


「これも」


「ん?」


「ずっとある」


「よく見てるな」


行商人が木箱を一つ持ち上げる。


「こっちは七個持ってきて、一個売れた」


「いっこだけ?」


「ああ」


蓋を開けてみる。


中には何もない。


作りが壊れているわけでもない。


「なんで?」


「箱なら家にあるって言われることが多い」


「…………」


家にもある。


父が作った箱もある。


今あるもので足りるなら。


新しく買わなくてもいい。


「じゃあ、これもいらない?」


「そう思われてるんだろうな」


「ふーん……」


また店を見る。


今度は、さっきまでとは違う見方になった。


減っているもの。


あまり減っていないもの。


ずっと同じように見えるもの。


「…………」


一つ。


見つける。


「あれも?」


香草の入った石鹸を指差す。


「それも売れ行きは悪いな」


「なんこ?」


「十一個持ってきて、売れたのは一個だ」


「またいっこ」


近づいて匂いを嗅ぐ。


「いいにおい」


「普通の石鹸より香りがいいだろ」


「うん」


「その分、高い」


「たかいから、かわない?」


「それもあるだろうな。身体を洗うだけなら普通の石鹸でいいって奴も多い」


「いいにおいなのに」


「いい匂いに、余分に金を払いたいかは別の話だ」


「…………」


少し考える。


いいものが増えた。


だから値段も上がった。


でも。


その「いいもの」を欲しいと思わなければ。


高くなっただけに見える。


もう一つ。


乾燥豆。


これもあまり減っていないらしい。


「これは?」


「十八袋持ってきて、売れたのは二袋だ」


「にこ」


「こいつは別の理由だな」


「なに?」


「この町でも豆を作ってる家がある」


「あ」


畑を思い出す。


見たことがある。


「あるなら、かわない?」


「わざわざ俺から買う理由が少ないってことだ」


「…………」


四つの商品を見る。


乾燥豆。


香草の石鹸。


蜜蝋。


小さな木箱。


どれも。


あまり減っていない。


でも。


同じ理由ではなかった。


「おじさん」


「なんだ?」


「うれないの、みんなちがう?」


行商人が少し驚いた顔をする。


それから頷いた。


「ああ。そういうことだ」


乾燥豆は、この町でも手に入る。


香草の石鹸は、普通の石鹸より高い。


木箱は、すでに持っている人が多い。


そして。


蜜蝋は。


「なにするか、わからない」


「そうだな」


「…………」


もう一度、蜜蝋を見る。


九個。


一つも売れていない。


「これ、くさる?」


「蜜蝋か? いや。かなり長く持つぞ」


「じゃあ、ずっとおいとける?」


「置いておくことはできる」


「じゃあ、だいじょうぶ?」


「そうでもない」


「?」


行商人が荷馬車を指す。


「ここに積める量には限りがあるからな」


荷馬車を見る。


「蜜蝋を九個積んでる場所には、別の商品を積めない」


「…………」


「もっと売れるものを積めたかもしれん」


「あ」


腐らなくても。


ずっと売れないまま持っていると。


その場所を使い続ける。


「だから次に仕入れるときは、減らすつもりだった」


「みつろう?」


「ああ」


「…………」


また黄色い塊を見る。


一個も売れていない。


何に使うのか分からない人が多い。


だから。


手に取っても、戻してしまう。


「…………」


何かが引っかかる。


どこかで。


似たようなことがあった気がする。


店先を見る。


空になりかけた鍋。


その近くにある、干し肉。


「…………あ」


干し肉。


最初は、ただ並んでいた。


保存できる肉。


それだけだった。


でも。


スープにした。


食べてもらった。


そうしたら。


スープを食べたあとで、干し肉そのものを買った人がいた。


視線が。


干し肉から、蜜蝋へ戻る。


「…………」


行商人が気づく。


「どうした?」


「…………」


何か言おうとして。


口を閉じた。


さっき決めた。


まだ話していない考えは。


先に約束してから。


行商人がこちらを見ている。


「何か思い――」


途中で止まった。


「…………」


「…………」


目が合う。


行商人が口を閉じる。


それから。


にやりと笑った。


「危ない危ない」


「?」


「『何を思いついた?』って聞くところだった」


「あ」


「先に条件を決めるんだったな」


「うん!」


行商人も覚えていた。


「俺も学習したぞ」


少し笑う。


もう一度、蜜蝋を見る。


まだ何もしていない。


本当に売れるようになるのかも分からない。


でも。


ずっと減らないものを見つけた。


どうして減らないのか聞いた。


そして。


一つも売れていない理由も、少し分かった。


なら。


試してみたいことができた。

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ここまで読んでいただき、ありがとうございます☺️ 少しでも「続きが気になる」「この子をもう少し見守ってみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。 皆さまからの応援を励みに、これからも小さな主人公の物語を大切に書いていきます。 次のお話も楽しんでいただけますように。
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