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ちいさなぼくのまもるもの  作者: 星乃いりす


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053 白いまねきねこ

――白いまねきねこ――


「じゃあ、一緒に考えてみようか」


「うん!」


母親と一緒に、机の上へ布を広げる。


その上に白猫を置く。


顔が上を向くようにして。


布をどこから折ればいいのか考える。


「ここ?」


「それだと耳が潰れちゃわない?」


「…………ほんとだ」


やり直す。


今度は少し余裕を持たせる。


「これなら?」


「さっきよりいいと思うよ」


「うん!」


あとは包んで。


最後にリボンを――。


そこまで考えたところで。


手が止まった。


「…………」


白猫を見る。


狼のあみぐるみを見る。


もう一度、白猫を見る。


「おかあさん」


「なあに?」


「これ、もうつくりなおさないよね?」


「さっき、お姉さんに見てもらったでしょう?」


「うん」


「このままでいいって言ってもらったんだから、もう完成よ」


「…………」


完成。


つまり。


今の白猫を見れば、


自分がどんなものを作れるのか分かる。


狼だけではない。


猫も作った。


しかも白猫は、自分が好きなように作ったものではない。


誰かから、


白い猫。


赤い首輪。


少し小さく。


可愛らしく。


そう頼まれて。


実際に作ったもの。


「…………!」


リボンから手を離した。


「まだ、つつまない!」


母親が目を丸くする。


「今度はどうしたの?」


「おじさんのおみせにもっていく!」


「え?」


「これ、みせる!」


白猫を指差す。


「こんなのつくれるよって!」


狼のあみぐるみを店に置いたとき。


それを見た女性が足を止めて。


白猫の注文をしてくれた。


なら。


狼と白猫を一緒に見せれば。


「狼を作れる」


だけではなく。


「違う動物も作れる」


と分かってもらえるかもしれない。


「…………」


母親はすぐには頷かなかった。


「でもね」


「?」


「その白猫は、もうあなたのものじゃないでしょう?」


「…………」


白猫を見る。


まだ渡してはいない。


残りのお金も受け取っていない。


でも。


誰のために作ったのかは決まっている。


「おねえさんの」


「そうね」


「…………」


「もしお店に置いて、汚れたら?」


「…………」


「誰かが触って、壊れたら?」


「…………」


耳。


ボタンの目。


赤い首輪。


せっかく、


「このままでいい」


と言ってもらった。


それなのに。


渡す前に壊したら。


もう一度直さなければならない。


それどころか、同じように直せるとも限らない。


「じゃあ……」


少し考える。


「おねえさんにきく」


母親が頷いた。


「それならいいと思うよ」


          ◇ ◇ ◇


また女性のところへ向かう。


今日は何度も来ている。


「あら?」


女性も少し不思議そうな顔をした。


「ラッピングできた?」


「まだ!」


「まだなの?」


「うん!」


白猫を見せる。


「これ、おじさんのおみせに、ちょっとだけかざってもいい?」


「この猫を?」


「うん」


女性が白猫を見る。


「どうして?」


「あのね」


どう説明すればいいのか考える。


「これみたら、ぼくがねこもつくれるってわかるでしょ?」


「ええ」


「オオカミさんだけじゃなくて、ほかのもつくれるって、みんなにみせたい」


「なるほど」


「でも、おねえさんのだから」


だから。


勝手には持っていかない。


「かざってもいい?」


女性は少し考える。


「触られたりしない?」


「さわらせない!」


すぐ答える。


「きたなくもしない!」


「本当に?」


「うん!」


女性は白猫をもう一度見た。


「じゃあ、今日だけね」


「ほんと?」


「ええ。でも夕方にはちゃんと持って帰って、今度こそ包んでね」


「うん!」


許可をもらえた。


今度は白猫を抱えて、行商人のところへ向かう。


「おじさん!」


「おう。どうした?」


白猫を見せる。


「ああ、完成したのか」


「うん! おねえさんにもみてもらった!」


「気に入ってもらえたか?」


「うん!」


それから。


「これ、きょうだけここにかざっていい?」


「ここに?」


「うん。こんなのもつくれるよって、みせたい!」


行商人が白猫を見る。


「注文した客には聞いたのか?」


「きいた!」


「触られてもいいって?」


「さわらせない!」


「だろうな」


行商人は店先を見る。


いつもの場所には、狼のあみぐるみが置かれている。


その隣へ白猫を置こうとして――。


「いや」


手を止めた。


「こいつは上に置こう」


「うえ?」


少し高い棚。


子供が簡単に手を伸ばせないところへ白猫を置く。


「もう客に渡す品なんだ。狼と同じ扱いにはしない方がいい」


「うん」


そして。


小さな札を用意する。


行商人が文字を書く。


『特注品・見本』


「とくちゅうひん……みほん」


「これは売り物じゃないって意味も分かる」


さらに、その下へもう一枚。


『注文はご相談ください』


「これは?」


「同じものを売るんじゃなくて、欲しいものを聞いてから作るんだろ?」


「うん!」


「だったら値段を一つ書くわけにはいかん」


「なんで?」


「狼と小鳥が同じ手間で作れると思うか?」


「…………ちがう」


大きさも違う。


使う毛糸も違う。


難しさも違う。


「だから、まず話を聞く」


「なるほど!」


二枚の札。


その上に白猫。


少し離れたところには灰色の狼。


並べてみると――。


「…………!」


自分でも分かる。


狼だけを置いていたときとは違う。


一つだけなら、


狼の人形を作った。


そう見える。


でも。


狼と猫。


違う二つが並んでいると。


いろいろな動物を作っているように見える。


「これ、いい!」


「効果があるかは客が来てからだ」


「くるよ!」


「そこはまだ分からん」


行商人に言われて。


少しだけ待つ。


          ◇ ◇ ◇


最初に立ち止まったのは、子供を連れた女性だった。


「あ!」


子供が指を差す。


「ねこ!」


「触っちゃ駄目よ」


母親が止める。


そのまま札を見る。


「特注品……?」


こちらを見る。


「これは売ってないの?」


「うん! おねえさんがたのんでくれたの!」


「注文?」


「しろいねこで、あかいくびわで、かわいくしてってきいた!」


女性が白猫を見る。


次に狼。


また白猫。


「じゃあ、違う動物も作れるの?」


「…………」


すぐに、


「つくれる!」


とは言わない。


猫だって。


最初は何度も失敗した。


本物を見た。


試しに作った。


ほどいた。


また作った。


「つくったことないのは、ちゃんとみてからつくるよ」


「そうなの」


女性は少し考える。


「犬は?」


「いぬ……」


犬。


町にもいる。


粉挽き職人ロッカのところにもいる。


狼とも猫とも違う。


でも。


見ることはできる。


「みて、れんしゅうしたら、つくれるかもしれない」


「どのくらいでできる?」


「…………」


ここでも、すぐには答えない。


白猫には一か月と約束した。


実際にはもっと早く完成した。


でも。


だから犬も同じとは限らない。


「まだわからない」


女性が少し意外そうな顔をする。


「分からないの?」


「いぬ、まだつくったことないから」


横から行商人が笑った。


「まあ、そういうことだ。頼むなら、まずどんな犬か聞いてからだな」


「なるほどね」


女性は今日は注文しなかった。


でも。


白猫をもう一度見てから帰っていった。


少しして。


今度は別の女性が足を止めた。


狼を見る。


白猫を見る。


「ねえ」


「?」


「うちの子、兎が好きなんだけど」


「うさぎ!」


頭の中に、長い耳が浮かぶ。


「兎も作れる?」


「…………」


また同じ。


見たことはある。


でも作ったことはない。


「ちゃんとみてからなら、やってみたい!」


「値段は?」


「…………」


分からない。


使う毛糸。


大きさ。


どんな姿にするか。


まだ何も聞いていない。


行商人を見る。


でも。


行商人は何も言わない。


こちらを見ているだけ。


「どんなうさぎがほしい?」


先に聞くことにした。


女性が笑う。


「まだ頼むって決めたわけじゃないわよ」


「あ」


「でも、今度考えてみる」


「うん!」


注文にはならなかった。


それでも。


話を聞いてくれた。


さらに午後。


今度は年配の女性が白猫を眺めていた。


「小さい鳥なんかも作れるのかい?」


「とり?」


「これくらいの」


両手で小さな大きさを作る。


「…………」


四本脚ではない。


狼とも。


猫とも。


かなり違う。


「むずかしそう」


思ったまま言う。


女性が笑った。


「そうかい」


「でも、つくってみたい」


「できるようになったら教えておくれ」


「うん!」


犬。


兎。


鳥。


誰も、まだ注文していない。


お金も受け取っていない。


いつか本当に頼んでくれるのかも分からない。


でも。


昨日まで。


そんなことを聞かれたことはなかった。


白猫を置いた今日。


初めて、


「犬は?」


「兎は?」


「鳥は?」


と聞かれた。


「…………」


白猫を見る。


売っていない。


今日ここに置いても、お金にはならない。


それでも。


この白猫を見た人が、


「こんなものも作れるんだ」


と知ってくれた。


行商人が隣へ来る。


「分かったか?」


「?」


「見本ってのは、売らなくても仕事をすることがある」


「しごと?」


「そいつを見て、次に何か頼みたいと思う奴が出るかもしれないだろ」


「…………!」


もう一度。


白猫を見る。


「ねこさん、はたらいてる!」


「まあ、そういうことだ」


「おかねもらってないのに?」


「今日すぐ金にならなくても、あとで客を連れてくるかもしれん」


「…………」


不思議だった。


作ったものは、


売ってお金にする。


今までは、そう思っていた。


でも。


売らなくても。


見せることで、次の仕事につながることがある。


狼のあみぐるみが白猫の注文につながったように。


白猫もまた。


まだ見たことのない何かにつながるかもしれない。


          ◇ ◇ ◇


夕方。


「おじさん」


「ん?」


「ねこさん、かえる」


「もういいのか?」


「きょうだけって、やくそくした」


「そうだったな」


高い棚から白猫を下ろしてもらう。


受け取る前に。


見る。


白い身体。


「よごれてない」


耳。


大丈夫。


尻尾。


大丈夫。


赤い首輪。


大丈夫。


ボタンの目。


軽く触る。


取れていない。


「…………うん!」


朝と同じ。


依頼した女性に、


「このままでいい」


と言ってもらった状態のまま。


持って帰れる。


「おじさん、ありがとう!」


「おう」


白猫を布で包む。


今度は寄り道しない。


家へ戻る。


机の上に。


白猫。


布。


そしてリボン。


全部を並べる。


今日。


犬を聞かれた。


兎も。


鳥も。


作れるかどうかは、まだ分からない。


本当に注文が来るのかも分からない。


考えるのは――。


あと。


「まず、ねこさん!」


最初に約束した白猫。


まだ渡していない。


残りの銅貨百枚も受け取っていない。


だから。


次の仕事を考える前に。


この仕事を最後まで終わらせる。


「あとは、つつむだけ!」


傷つけないよう、白猫をそっと両手で抱えた。

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ここまで読んでいただき、ありがとうございます☺️ 少しでも「続きが気になる」「この子をもう少し見守ってみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。 皆さまからの応援を励みに、これからも小さな主人公の物語を大切に書いていきます。 次のお話も楽しんでいただけますように。
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