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ちいさなぼくのまもるもの  作者: 星乃いりす


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052 白ねこの出来栄え

――白ねこの出来栄え――


完成した白猫を机の上へ置く。


その隣には、行商人から買ったリボン。


「…………」


手に取ろうとして――。


止めた。


「まだ、つつまない」


母親がこちらを見る。


「どうしたの?」


「さきに、おねえさんにみてもらう」


「先に?」


「うん」


せっかく綺麗に包んでも。


依頼した女性が白猫を見て、


「ここを少し変えてほしい」


と言うかもしれない。


そうなれば、せっかく包んだものをもう一度開かなければならない。


だったら。


先に白猫を見てもらう。


これでいいと言ってもらってから、最後に包む。


「なるほどね」


母親が頷く。


「じゃあ、持っていく?」


「うん!」


白猫をそのまま抱えていくのは少し怖い。


途中で落とすかもしれない。


汚れるかもしれない。


だから布で包む。


これは贈り物としての包装ではない。


運ぶため。


白猫が潰れないように、そっと包んだ。


「いってきます!」


「一緒に行くわよ」


「うん!」


母親と一緒に、依頼した女性のところへ向かった。


          ◇ ◇ ◇


「あ!」


女性を見つける。


「おねえさん!」


「あら」


こちらに気づいた女性が、抱えている布を見る。


「もしかして……できたの?」


「うん!」


少し嬉しくなって。


すぐに付け足す。


「でも、まだプレゼントにしてないよ」


「プレゼントに?」


「リボンでつつむの」


「ああ、ラッピングね」


「うん。でも、そのまえにみてほしい」


「私に?」


「なおしてほしいところ、あるかもしれないから」


女性が少し驚いたような顔をした。


それから。


「分かったわ。見せて」


「うん!」


布を開く。


中から白い猫が現れる。


白い身体。


丸い頭。


短い鼻先。


少し大きめの耳。


黒いボタンの目。


長い尻尾。


そして――。


赤い首輪。


女性は、すぐには何も言わなかった。


「…………」


白猫を見る。


こちらは何も言わずに待つ。


「かわいいでしょ?」


とは聞かない。


自分では可愛く作ったつもり。


母親も褒めてくれた。


でも。


これは、この女性が頼んだものだ。


どう思うのかは、自分が決めることではない。


やがて女性が手を伸ばした。


「持ってもいい?」


「うん!」


両手で持ち上げる。


まず正面。


次に横。


後ろ。


尻尾を見る。


赤い首輪を見る。


また正面。


「…………」


何も言わない。


少しだけ不安になる。


どこか違っただろうか。


猫に見えない?


可愛くない?


大きさが違う?


「これ……」


「…………!」


思わず背筋が伸びる。


女性の表情が緩んだ。


「娘が好きそう」


「ほんと?」


「ええ。可愛いわね」


「……!」


胸の奥が、一気に軽くなった。


「よかった!」


思わず笑う。


でも。


まだ終わりではない。


女性は白猫を持ったまま、いろいろなところを見ている。


身体を軽く押す。


詰め物の硬さを確かめているらしい。


次に脚。


耳。


尻尾。


それから赤い首輪。


指で少し触る。


「この首輪も作ったの?」


「うん。あかいのがいいっていってたから」


「これ、外せる?」


「…………」


少し考える。


首輪は飾りとして付けた。


簡単には取れないように固定してある。


「とれないよ」


「そうなの?」


「とれたほうがよかった?」


「ううん」


女性が首を横に振る。


「娘、小さいものをすぐなくすから。このままの方がいいわ」


「そうなの?」


「ええ」


「よかった!」


そこは偶然だった。


自分は、


取れない方が壊れにくい。


そう思って固定しただけ。


でも女性にとっても、その方が都合が良かったらしい。


「…………」


女性が、もう一度白猫の顔を見る。


そして。


「ここ……」


「?」


指が左耳の近くへ動く。


「右より、ほんの少し前についてる?」


「…………え?」


慌てて白猫を見る。


正面。


「…………」


分からない。


少し角度を変える。


右から。


左から。


もう一度正面。


「…………あ」


ほんの少し。


左耳の方が前にある。


何度も確認したはずだった。


母親にも見てもらった。


それでも気づかなかった。


「…………」


白猫を見る。


耳を見る。


「なおす?」


すぐに聞いた。


直すなら、一度外して付け直せる。


少し時間はかかる。


でも、まだ渡してはいない。


女性は白猫を正面から見る。


少し傾ける。


また戻す。


「ううん」


「いいの?」


「このままでいいわ」


「でも、ずれてるよ?」


「ほんの少しでしょう?」


「うん……」


女性が笑う。


「私は、こっちの方が好き」


「?」


「少しだけ耳の向きが違うから、何か聞こうとしてるみたいに見えるの」


「…………」


もう一度見る。


左耳。


右耳。


さっきまでは、


ずれている。


そうとしか見えなかった。


でも。


言われてから見ると。


「…………きいてる?」


少し首を傾げた猫が、こちらの声を聞こうとしているようにも見える。


「そう見えない?」


「…………みえる」


不思議だった。


作った自分は、左右が揃っていないことを、


直すところ。


だと思った。


でも。


この女性は、そこを気に入った。


だからといって。


これから耳がずれても全部そのままでいい、ということではない。


今回は。


この白猫を頼んだ人が、


「このままがいい」


と言ってくれた。


それだけ。


でも。


自分が直したいと思うところと。


受け取る人が好きだと思うところは。


いつも同じとは限らないらしい。


「ほかは?」


「え?」


「ほかに、なおしてほしいところある?」


女性は、もう一度白猫を見る。


身体。


脚。


尻尾。


顔。


首輪。


しばらくして。


「ないわ」


「ほんと?」


「ええ。このままでお願い」


「……うん!」


今度こそ。


作った白猫を、そのまま渡していいと言ってもらえた。


でも。


まだ手は離さない。


「じゃあ、もってかえる」


「え?」


女性が少し驚く。


「持って帰るの?」


「うん!」


「もう完成してるんでしょう?」


「まだリボンしてないよ」


「あ……」


「プレゼントだから、ちゃんとつつんでくる」


女性が笑った。


「そうだったわね」


「つつんだら、またもってくる!」


「分かったわ。お願い」


白猫を、もう一度布で包む。


そして。


忘れないうちに、もう一つ確認する。


「おかねは?」


「もちろん、持ってきたときに残りを払うわ」


最初にもらったのは、銅貨二十枚。


約束した値段は、全部で百二十枚。


だから残りは――。


「ひゃくまい」


「ええ。百枚ね」


「うん!」


確認できた。


          ◇ ◇ ◇


家へ戻る。


机の上へ白猫を置く。


「…………」


もう、耳には触らない。


少しずれている。


でも。


依頼した女性は、


「このままがいい」


と言った。


なら。


勝手に直さない。


身体も。


脚も。


尻尾も。


首輪も。


もう変えない。


頼まれた白猫は、これで完成。


残っているのは――。


「リボン」


用意していたものを手に取る。


「おかあさん」


「今度こそ包むの?」


「うん!」


「どうやって包む?」


「…………」


白猫を見る。


リボンを見る。


布を見る。


最初は。


布で包んで、リボンを結べばいいと思っていた。


でも。


これは、娘への贈り物。


白猫を頼んだ女性が受け取って。


そのあと。


女の子が包みを開く。


そのとき。


最初に何が見えるのだろう。


白猫のお尻?


背中?


顔?


「…………」


せっかくなら。


開けたとき。


最初に白猫の顔が見えた方がいい。


「おかあさん」


「なあに?」


「あけたら、ねこさんがこっちみるようにしたい」


母親が白猫を見る。


それから。


少し笑った。


「じゃあ、一緒に考えてみようか」


「うん!」


作るところは終わった。


確認もしてもらった。


でも。


まだ渡さない。


最後にもう一つ。


この白猫を受け取る女の子が、


包みを開けた瞬間。


そこまでが――。


今回、自分でやると決めた仕事だった。

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ここまで読んでいただき、ありがとうございます☺️ 少しでも「続きが気になる」「この子をもう少し見守ってみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。 皆さまからの応援を励みに、これからも小さな主人公の物語を大切に書いていきます。 次のお話も楽しんでいただけますように。
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