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ちいさなぼくのまもるもの  作者: 星乃いりす


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50/92

050 ねこのミーヤ

――ねこのミーヤ――


試しに作った猫の頭を机へ置く。


「…………」


さっきよりは猫に近づいた。


でも、まだ何かが違う。


紙に描いた猫と見比べてから、台所にいる母親のところへ向かった。


「おかあさん」


「なあに?」


「のこったごはん、もらっていい?」


「お腹すいたの?」


「ちがうよ。ねこさんにあげたい」


「猫に?」


「うん。ねこさん、いっぱいみせてもらったから」


母親は少し考えてから、こちらを見る。


「ご飯って、私たちが食べた残りをそのままあげるの?」


「うん?」


「それはやめておこうね」


「なんで?」


「人が食べるために味を付けたものは、猫にはよくないこともあるから」


「…………」


知らなかった。


自分が食べられるものなら、猫も食べられると思っていた。


母親は台所を探すと、調理する前に取り分けてあった魚の切れ端を少しだけ出してくれた。


「これなら味を付けてないから、少しだけならね」


「ありがとう!」


受け取ろうとすると――。


「でも、待って」


「?」


「その猫、よその家の猫でしょう?」


「うん」


「だったら、勝手に食べさせちゃ駄目よ」


「…………」


「飼い主さんに聞いて、いいって言ってもらってからね」


「わかった!」


魚を持って、もう一度家を出た。


さっき猫を見ていた家へ向かう。


今度は猫を見つけても、そちらへは行かない。


まず家の人を探す。


庭にいた女性へ声をかけた。


「こんにちは!」


「あら?」


女性が振り返る。


「あのね」


庭の方にいる猫を指差す。


「ねこさん、みせてもらったの」


「ああ、ミーヤのこと?」


「ミーヤ?」


猫を見る。


初めて名前を知った。


「ミーヤ……」


もう一度呼んでみる。


猫は振り向かない。


「ぼく、ねこのおにんぎょうつくってるの」


持ってきた紙を見せる。


正面。


横。


座っている姿。


尻尾。


何枚も描いた猫の絵。


「だから、ミーヤいっぱいみせてもらった」


「まあ、これ全部描いたの?」


「うん!」


そして、持ってきた魚を見せる。


「おれいに、これあげたい。いい?」


女性はすぐには答えず、魚を見る。


「味は付いてない?」


「ついてないよ。おかあさんが、りょうりするまえのくれた」


「それなら、今日は少しだけならいいよ」


「ほんと?」


「ええ。でも、いつでも勝手にあげちゃ駄目よ」


「うん!」


許可をもらってから、ミーヤのところへ向かう。


すぐ近くまでは行かない。


少し離れたところへ魚を置く。


「ミーヤ」


反応しない。


「ねこさん、ありがとう」


数歩離れて待つ。


ミーヤはすぐには食べなかった。


こちらを見る。


次に魚を見る。


しばらくして、ゆっくり近づいてくる。


鼻を寄せる。


すん。


すん。


匂いを確かめてから――。


ぱく。


「あっ」


食べた。


もう一口。


また一口。


嬉しくなって、思わず一歩近づきそうになる。


でも。


足を止めた。


「…………」


狼のことを思い出す。


近づいてきたから。


逃げなかったから。


だから何をしてもいい。


そういうことではない。


ミーヤは今、ご飯を食べている。


だったら、邪魔をしない。


その場にしゃがんだまま待った。


やがて魚がなくなる。


「おいしかった?」


返事はない。


ミーヤは口元を舐めている。


これで終わり。


そう思って立ち上がろうとしたとき――。


ミーヤがこちらへ歩いてきた。


「…………?」


足元まで来る。


靴の匂いを嗅ぐ。


服の匂いも嗅ぐ。


それでも、手は伸ばさない。


じっと待つ。


すると。


すりっ。


「……!」


頬が脚に触れた。


そのまま身体を擦りつけるように横を通っていく。


「ミーヤ……!」


庭から見ていた女性が笑った。


「ずいぶん近くまで来たわね」


嬉しい。


触ってみたい。


頭を撫でたら、どんな毛なのだろう。


でも――。


手は出さなかった。


ミーヤが自分から近づいてきたのと、


触っていいのかどうかは、同じではない。


その代わり。


近くまで来たことで、さっきまで見えなかったものが見えた。


「…………」


頬。


思っていたより、ふっくらして見える。


耳も、遠くから見たときは薄い三角にしか見えなかった。


でも近くで見ると、ちゃんと厚みがある。


胸元の毛。


脚から胴体へつながるところ。


そして――。


ミーヤがその場に座った。


「…………あ」


紙を取り出す。


さっきまで、


前脚は真っ直ぐ。


そう思っていた。


でも、近くで見ると少し違う。


身体からそのまま棒のように伸びているわけではない。


肩から脚へ。


胸から前脚へ。


ちゃんと形がつながっている。


「まって、ミーヤ」


もちろん待ってはくれない。


紙へ描いている途中で、顔の向きが変わる。


「あっ」


今度は横を向いた。


なら、そちらを描く。


頬の膨らみ。


耳。


胸。


前脚。


さっきの紙に線を足す。


魚を渡しに来ただけだったはずなのに。


気づけば、また猫を見ている。


「…………」


ミーヤが立ち上がった。


少し歩いて、庭の方へ戻っていく。


今度は追わない。


紙を見る。


昨日より。


今日の最初より。


また少しだけ、描かれているものが増えた。


狼を作ったときにはできなかったことを、今はしている。


覚えている姿だけで作らない。


分からなければ見る。


遠くから分からなければ、見える機会を待つ。


一度見ただけで決めつけない。


それは、狼と過ごしたときにも少しずつ覚えたことだった。


帰る前。


庭にいる女性のところへ行く。


「おばさん」


「なあに?」


「また、ミーヤみてもいい?」


「いいわよ」


「ほんと?」


「庭にいるときならね。ただ、嫌がって逃げたら追いかけないであげて」


「うん!」


「それと、ご飯をあげたいときはまた聞いてね」


「わかった!」


これで、またミーヤを見ることができる。


毎日同じ姿を見せてくれるとは限らない。


近くまで来てくれるとも限らない。


それでも。


白猫を完成させるまでの間、本物の猫を見ながら確かめられる。


家へ戻る途中。


描き足した紙を何度も見る。


そして。


机の上には――。


まだ猫になりきれていない、小さな試作品が待っている。


「こんどは、もっとねこにする」


紙を隣へ置く。


ほどくために、試作品へ手を伸ばした。


まだ本番の白い毛糸は使わない。


もう少し。


見て。


作って。


比べて。


違ったら、またやり直す。


約束の日まで、まだ時間はある。

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ここまで読んでいただき、ありがとうございます☺️ 少しでも「続きが気になる」「この子をもう少し見守ってみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。 皆さまからの応援を励みに、これからも小さな主人公の物語を大切に書いていきます。 次のお話も楽しんでいただけますように。
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