↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちいさなぼくのまもるもの  作者: 星乃いりす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/92

049 ねことオオカミのちがうところ

――ねことオオカミのちがうところ――


翌日。


白い毛糸と紙を持って、玄関へ向かう。


昨日も猫を見た。


けれど、まだ一匹を少し観察しただけ。


あれだけで作り始めるには、分からないことが多すぎる。


「おかあさん、ねこをみてくる」


母親が振り返る。


「また猫?」


「うん。ちゅうもんのねこ、ちゃんとつくりたいから」


「ああ、昨日の続きね」


母親は納得したように頷く。


ただし、そのまま送り出してはくれない。


「町の中だけよ。森の方には行かないこと。それと、よその家の猫を勝手に連れてきちゃ駄目よ」


「うん!」


以前の狼のこともある。


一人で歩ける範囲について、母親が慎重なのは変わっていない。


          ◇ ◇ ◇


向かったのは、昨日とは別の場所。


何度か猫を見かけたことのある家の近くだ。


「…………いた」


石垣の上。


一匹の猫が丸くなっている。


白ではない。


茶色と白のまだら模様。


注文された猫とは色が違うけれど、身体の形を見るには問題ない。


近づきすぎないよう、少し離れたところに座る。


紙を膝の上へ置く。


すぐには描かない。


まず――見る。


「…………」


耳。


昨日見た猫もそうだった。


狼より、頭に対して大きく見える。


紙に線を引く。


次は鼻先。


狼のように長く前へ伸びていない。


頭は丸い。


身体も、狼を思い出して描いたときより輪郭が柔らかく見える。


そして――。


「しっぽ……ながい」


昨日もうまく描けなかったところだ。


あみぐるみなら、細長い棒のように作ればいいと思っていた。


でも、本物を見ると違う。


身体から自然に伸びて。


途中で曲がり。


先端の向きも変わっている。


今の形を紙に描いておく。


すると。


猫が立ち上がった。


「!」


紙から顔を上げる。


今度は身体全体が見える。


立っている姿。


身体に対して、脚がどれくらいの長さなのか。


前脚と後ろ脚。


背中の高さ。


頭の位置。


忘れないうちに線を引いていく。


上手に描くためではない。


あとで見たときに、


「どんな形だったか」


を思い出せればいい。


猫が歩き始めた。


「あ……」


思わず立ち上がりかけて――やめる。


追いかければ、逃げるかもしれない。


そのまま待つ。


猫は数メートル先まで歩くと、また座った。


今度は横向き。


「…………」


さっきとは、形が変わった。


前脚は地面へ真っ直ぐ伸びているように見える。


後ろ脚は身体の下へ折り畳まれている。


背中は緩く丸まり。


長い尻尾は身体の横へ置かれている。


また描く。


立っている猫。


座っている猫。


同じ猫なのに、身体の見え方が全然違う。


「むずかしい……」


小さく呟きながら、それでも紙へ残していく。


しばらくすると。


猫がこちらを見た。


「…………」


こちらも見る。


目が合う。


猫がゆっくり目を細めた。


でも、近づかない。


狼のときにも覚えた。


自分が触りたいからといって、相手も触られたいとは限らない。


そのまま座っていると――。


今度は猫の方から動いた。


ゆっくり近づいてくる。


「…………!」


じっとしている。


猫は足元まで来ると、膝の上にある紙へ鼻を近づけた。


すん。


すん。


次に、持ってきた毛糸。


また匂いを嗅ぐ。


「これ、ねこさんつくるの」


もちろん返事はない。


少しすると興味を失ったらしく、離れていった。


また少し先に座る。


今度は顔がよく見えた。


「め……」


注文されたのは、


可愛い猫。


本物そっくりに作ってほしいと言われたわけではない。


だから、本物をそのまま再現する必要はない。


それでも。


猫に見えなければ意味がない。


狼のあみぐるみに使ったボタンの目を思い出す。


同じ付け方でいいのだろうか。


紙に丸を二つ描く。


少し近づける。


「…………へん」


離してみる。


「…………」


今度は耳との位置がおかしい気がする。


猫を見る。


紙を見る。


また猫を見る。


目。


耳。


鼻。


頬の丸み。


少しずつ直していく。


そうしているうちに、昨日はまだ曖昧だったものが、少しずつ見えてきた。


狼とは違う。


ただ鼻を短くすれば猫になるわけでもない。


頭の丸さも。


耳の位置も。


目の見え方も。


身体の形も。


いくつもの小さな違いが重なって、


「猫らしく」


見えている。


          ◇ ◇ ◇


どれくらい経っただろう。


紙を見る。


猫を見る。


もう一度紙を見る。


「…………?」


さっき何を確かめようとしていたのか、一瞬分からなくなった。


同じところばかり見ている。


集中できなくなってきたらしい。


まだ見ていたい。


でも、このまま続けても意味がない。


「きょうは、ここまで」


立ち上がる。


「ねこさん、ばいばい」


当然、返事はない。


猫は気にした様子もなく、前脚を舐めている。


何枚かの紙を大事に抱えて、家へ戻った。


「ただいま!」


「おかえり。どうだった?」


「いっぱいみてきた!」


紙を机へ広げる。


正面から見た顔。


横から見た身体。


立っている姿。


座っている姿。


尻尾。


どれも上手な絵とは言えない。


線も歪んでいる。


身体の大きさがおかしいものもある。


それでも、それぞれの横には自分なりに気づいたことも書いてある。


母親が一枚ずつ見る。


「……ちゃんと調べてきたのね」


「うん!」


自分でも、もう一度見返す。


昨日見た猫と、今日見た猫。


似ているところがある。


頭は狼より丸く見えた。


鼻先も短かった。


耳の大きさや位置にも違いがある。


座ったときには、脚の見え方が大きく変わる。


尻尾も、いつも同じ形ではない。


けれど。


二匹を見ただけで、


「猫は全部こうなんだ」


と決めることはできない。


大きな猫もいるかもしれない。


もっと毛の長い猫もいるかもしれない。


耳や顔の形だって、少しずつ違うかもしれない。


だから。


今分かったことは、


「今日までに見た猫には、こういう特徴があった」


というところまで。


それでも、何も見ずに作るよりずっといい。


狼のあみぐるみを作ったときは、頭の中に残っていた姿を頼りにして、何度も失敗した。


今回は違う。


見る。


描く。


比べる。


それから作る。


作る前にできることがあると、少しずつ分かってきた。


白い毛糸へ手を伸ばしかけて――。


止める。


「…………」


これは本番用。


失敗すれば、買った材料を無駄にしてしまう。


代わりに、家に残っている余り毛糸を持ってくる。


色は白ではない。


でも今は、色を見るために作るわけではない。


「まず、あたま」


猫の頭だけ。


試しに作ってみる。


毛糸を編んで。


少しずつ丸くして。


鼻先を作る。


耳を付ける。


机へ置いた。


「…………」


正面から見る。


横から見る。


そして、今日描いた猫の紙と並べる。


「…………オオカミさん」


猫を作ったはずなのに。


どこか狼に見える。


「ちがう」


ほどく。


一個目はなくなった。


でも失敗ではない。


どこが違うのかを見る。


鼻先が長い。


頭も少し細い。


耳の位置も違う。


もう一度。


今度は鼻先を短くする。


頭を少し丸くする。


「…………」


さっきよりは近い。


「ねこ……?」


でも、まだ何か違う。


耳を付けてみる。


「…………へん」


片方を外す。


位置を変える。


もう一度見る。


「こっちのほうがいい」


まだ完成品には程遠い。


それでいい。


約束の日まで、一か月ある。


最初にできたものを、そのまま渡さなくてもいい。


試して。


失敗して。


違うと思ったら、ほどいて。


また作る。


今ならまだ――。


何度でも失敗できる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます☺️ 少しでも「続きが気になる」「この子をもう少し見守ってみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。 皆さまからの応援を励みに、これからも小さな主人公の物語を大切に書いていきます。 次のお話も楽しんでいただけますように。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。