↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちいさなぼくのまもるもの  作者: 星乃いりす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/94

045 ぼくの仕事の値段

――ぼくの仕事の値段――


女性は急かさず、こちらの返事を待っている。


いくらにするのか。


それを決めるのは自分だ。


さっき行商人のおじさんから聞いた値段を、もう一度思い出す。


狼と同じくらいまで綺麗に作れたなら、銅貨九十枚から百十枚くらい。


でも。


今回作るのは、先に作っておいたものを売るのとは少し違う。


「…………」


女性を見る。


「これ、とくちゅうひんだよね?」


「そうね。私がお願いして作ってもらうんだから」


「ほしいの、きいてからつくる」


「ええ」


「しろいねこで、あかいくびわで……」


指を折りながら、今まで聞いたことを思い出す。


「オオカミさんより、ちょっとちいさくて、かわいいの」


「そう。それでお願いしたいわ」


「ひとつだけ?」


「一つでいいわよ」


頷く。


同じ白猫をたくさん作って、その中から一つを買ってもらうわけではない。


この人が欲しいものを聞いて、この人のために一つ作る。


「じゃあ……」


少し考えてから続ける。


「ふつうにつくるのより、ちょっとたかくなるけど、いい?」


女性はすぐには頷かなかった。


「どのくらい?」


「…………」


そこで止まる。


高くなると言っただけでは駄目だった。


いくらなのか分からなければ、女性だって頼むかどうか決められない。


行商人のおじさんを見る。


けれど、何も言わない。


さっき値段の目安は教えてもらった。


今度は自分で考える番らしい。


女性は狼のあみぐるみへ目を向けた。


「これと同じくらい丁寧に作ってくれる?」


「うん!」


答えてから、少し考える。


「でも、ねこははじめて」


「そうなの?」


「うん。だから、ちゃんとねこみてからつくる」


町には猫がいる。


近くでよく見て、狼との違いを確かめるつもりだった。


「一か月以内にはできそう?」


「うん」


「じゃあ、白い猫で、首には赤いものを付けてほしいわ。娘に渡すものだから、できれば可愛らしい感じがいいの」


「かわいく……」


さっきより一つ増えた。


ただ猫に見えればいいわけではない。


娘がもらって喜ぶようなものにしてほしい。


忘れたら困る。


「おじさん、かみかして!」


「おう」


紙と書くものを借りる。


聞いたことを忘れないように、一つずつ書いていく。


『しろいねこ』


『あかいくびわ』


『オオカミさんより、すこしちいさい』


『むすめさんにあげる』


『かわいく』


『ひとつきいない』


一文字ずつ、確かめながら書く。


途中で分からなくなった文字だけは、行商人に聞いた。


書き終えると、指で一行ずつ追いながら読み返す。


「これであってる?」


女性も紙を覗き込む。


「ええ。それでお願いしたいわ」


「よし!」


これなら、作っている途中で忘れても確認できる。


          ◇ ◇ ◇


「私のお願いに合わせて作ってくれるなら、少しくらい高くても構わないわよ」


女性が言った。


「ほんと?」


「ええ。でも――」


女性が笑う。


「値段は先に教えてね」


「…………うん」


当然だった。


完成してから、


百枚。


二百枚。


好きな値段を言われても、頼んだ方は困ってしまう。


作り始める前に決める。


「おじさん」


「なんだ?」


「とくちゅうひんだったら、たかくしていい?」


「高くする理由があるならな」


「りゆう?」


「『一点物だから高いです』だけじゃ、客は納得しないってことだ」


「…………」


難しい。


「じゃあ、なんで?」


「それを考えるのもお前だ」


また教えてくれない。


狼のあみぐるみを見る。


あれを作るときは、自分の作りたい狼を作った。


失敗しても、自分が困るだけだった。


頭が大きければ、ほどけばいい。


脚がおかしければ、また作ればいい。


完成する日だって、自分で決めていなかった。


でも、今度は違う。


一か月以内。


白い猫。


赤い首輪。


大きさも決まっている。


それに――。


「かわいくしないとだめ」


小さく呟く。


女性が希望したものだ。


自分が「これでいい」と思うだけではなく、この人が頼んだものへ近づけなければならない。


「……だから?」


行商人を見る。


「俺に聞くな」


「…………」


もう一度考える。


「ほしいのきいて、そのとおりにつくるから?」


「それも一つだな」


「それと……ひとつだけつくるから?」


「それもある」


「ねこ、みて、おぼえて……」


作ったことのないものを作る。


そのために猫を観察するところから始める。


「いっぱい、かんがえてつくる」


行商人が頷いた。


「だったら、それがお前が少し高くしたい理由なんじゃないか?」


「なるほど……」


やっと少し分かった。


一点物という言葉だけで値段が上がるわけではない。


一人の注文に合わせて、いつもとは違うものを作る。


そのために必要な手間が増えるから、その分を値段にも入れる。


「じゃあ……」


もう一度、値段を考える。


さっき聞いた目安なら、九十枚から百十枚くらい。


でも、それはあくまで目安だ。


今回は、この人の希望を聞いて一つだけ作る。


なら、もう少し高くしてもいいのだろうか。


「ひゃくごじゅうは?」


「俺なら勧めないな」


今度は行商人が答えた。


「なんで?」


「お前は狼を一個作っただけだろ?」


「うん」


「猫はまだ一個も作ってない」


「うん……」


「百五十枚払ってくれって言うなら、それだけの物を作れるって客に思ってもらわなきゃならん」


狼は上手くできた。


でも、それだけだ。


同じ品質のものを何個も作ったわけではない。


猫なら、なおさら初めてになる。


「高くするなとは言わん。ただ、自分がまだどれくらい作れるのかも考えて決めろ」


「…………」


百五十枚はやめる。


では、いくらならいいだろう。


九十枚。


百枚。


百十枚。


さっき聞いた目安を、一つずつ思い浮かべる。


そこから、注文に合わせて作る分を少しだけ上にする。


「…………」


女性を見る。


「ひゃくにじゅうまいは?」


初めて。


自分から値段を言った。


女性はすぐには答えなかった。


狼のあみぐるみを見る。


こちらを見る。


「銅貨百二十枚?」


「うん」


「白い猫で、赤い首輪を付けて、一か月以内に?」


「うん!」


「これと同じくらい丁寧に作る?」


狼を指差している。


少しだけ迷ってから頷く。


「おなじくらいになるように、がんばる」


「絶対できる」とは言わなかった。


まだ猫を作ったことがないから。


それでも、狼と同じくらい丁寧に作るつもりはある。


女性はもう一度考えて――。


「分かったわ。百二十枚でお願いする」


「!」


決まった。


銅貨百二十枚。


自分で決めて。


相手がその値段を聞いて。


それでも作ってほしいと言ってくれた。


「やった!」


思わず声が出る。


「まだ完成してないぞ」


横から行商人に言われた。


「…………あ」


「喜ぶのは納品して、残りの金をもらってからにしろ」


「うん!」


でも、少しくらいは嬉しくてもいいと思う。


「じゃあ、手付金はどうする?」


行商人に聞かれる。


さっき教えてもらった。


全部で百二十枚なら、いくら先にもらうのか。


「…………」


さっきの例では、百枚のうち二十枚だった。


同じくらいの割合にするなら――。


まだ割合の計算は難しい。


銅貨を並べながら考える。


「にじゅう……」


そこで止まる。


材料を買うなら、それで足りるのだろうか。


まだ材料の値段も確認していない。


「おじさん」


「今度はなんだ?」


「しろいけいとと、あかいけいと、いくら?」


行商人が笑った。


「やっとそこに戻ったか」


「?」


「先に必要な材料を確認するんだっただろ」


「……あ!」


また忘れていた。


女性も笑っている。


恥ずかしくなって、紙を見る。


作るもの。


値段。


納期。


手付金。


決めなければならないことが、まだいくつもある。


初めての特注は、注文をもらっただけでは終わらない。


むしろ――。


ここからが、本当の始まりだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます☺️ 少しでも「続きが気になる」「この子をもう少し見守ってみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。 皆さまからの応援を励みに、これからも小さな主人公の物語を大切に書いていきます。 次のお話も楽しんでいただけますように。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。