↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちいさなぼくのまもるもの  作者: 星乃いりす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/95

034 売るために考えること

――売るために考えること――


「…………」


できあがった小さなマフラーを、両手で持ち上げる。


柔らかい。


少しでこぼこ。


でも、ちゃんとマフラー。


「…………」


今は夏。


外は暑い。


これを首に巻いたら、きっともっと暑い。


「…………」


でも、秋になったら少し寒くなる。


冬になったら、もっと寒くなる。


そうしたら、みんなマフラーを使う。


「…………!」


母を見る。


「おかあさん」


「なあに?」


「あきと、ふゆはね」


「うん」


「あきと、ふゆに」


マフラーを持ち上げる。


「ぼく、けいとのものうって、おかねかせぐ」


母の手が止まった。


「秋と冬に?」


「うん!」


「どうして?」


「さむくなるから」


「…………」


母が少し驚いたような顔をした。


「なるほど」


「いま、あつい」


「そうね」


「マフラー、あつい」


「うん」


「でも、ふゆはさむい」


「そうね」


「だから、ふゆにうる!」


「うん。考えたね」


「…………!」


合っていた。


でも、母が続ける。


「ただね」


「?」


「冬になってから作り始めたら、遅いかもしれないよ」


「なんで?」


「だって」


母が手の中のマフラーを指差す。


「これ、一日で作れた?」


「…………」


違う。


いっぱい失敗した。


何度もほどいた。


三週間練習して、やっと一本。


「できなかった」


「でしょう?」


「うん」


「もっと上手になったら、今より早く作れるようになるかもしれない。でも、すぐに何本も作れるわけじゃないでしょう?」


「…………」


冬。


寒くなる。


そのときに作り始める。


一本作る。


次に、また作る。


時間がかかる。


「じゃあ……」


考える。


「いま、つくる?」


「そういう方法もあるね」


「!」


夏。


暑い。


まだマフラーを欲しい人は少ないかもしれない。


でも、今から作っておく。


秋。


寒くなってきたら、売る。


「いっぱいつくる!」


「待って」


「…………」


また止められた。


「どうしたの?」


「毛糸」


母が籠を指差した。


「…………」


見る。


少なくなっている。


何度も練習した。


ほどいて、また使った。


それでも、短すぎて使えなくなったものもある。


完成したマフラーにも毛糸を使った。


「これだけで、何本も作れると思う?」


「…………」


籠を見る。


少ない。


「むり?」


「たぶんね」


「…………」


毛糸。


なくなったら買う。


前に教えてもらった。


「けいと、かう?」


「たくさん作るならね」


「ぼくのおかねで?」


机の上には、小さな入れ物。


銅貨五枚。


母が少し考える。


「その五枚じゃ、まとまった毛糸を買うには足りないかな」


「…………」


足りない。


また、足りない。


魔法の本にも足りない。


毛糸にも足りない。


「…………」


どうする?


作るには毛糸がいる。


毛糸を買うには、お金がいる。


でも、お金を増やすためにマフラーを作りたい。


「…………」


困った。


          ◇ ◇ ◇


「じゃあ」


母が籠を持ち上げた。


「最初だけ、お母さんの毛糸を使ってもいいよ」


「!」


顔を上げる。


「いいの?」


「うん」


「もらっていい?」


「ううん」


「…………?」


違う?


母が机へ行く。


計算の練習で使っている小さな石を、いくつか持ってくる。


「プレゼントじゃなくて」


一つ置く。


「貸してあげる」


「かす?」


「そう」


「…………?」


聞いたことはある。


でも、よく分からない。


「もらうのと、ちがう?」


「違うよ」


母が小石をこちらへ動かす。


「たとえば、これがお母さんの毛糸」


「うん」


「今はお金をもらわないで、あなたに渡す」


小石がこちら側へ来る。


「でも、その毛糸で作ったものが売れたら」


今度は別の小石をいくつか置く。


「使った毛糸の分は、お母さんに返してね」


「…………」


もらう。


作る。


売る。


お金をもらう。


その中から、母に返す。


「おかあさんのけいとのおかね?」


「そう」


「…………」


少し考える。


「のこったの、ぼくの?」


「そうね」


「!」


分かった。


ような気がする。


「でもね」


「?」


「売れなかったら?」


「…………」


止まる。


売れない。


でも、毛糸は使った。


マフラーになっている。


「けいと、なくなる」


「そう」


「…………」


「だから、作れば絶対にお金が増えるわけじゃないの」


「…………」


前にも似たことを教えてもらった。


作っただけでは、買ってもらえない。


今度は、それだけではない。


作るために使ったものもある。


「毛糸を買うのにかかったお金みたいに、物を作るために必要なお金のことをね」


母がゆっくり教える。


「原価っていうの」


「げんか」


「そう」


「げんか……」


新しい言葉。


まだ全部は分からない。


でも。


毛糸は、ただではない。


売れたお金が全部、自分のお金になるわけでもない。


それは分かる。


「むずかしい」


「ふふ。少しずつ覚えればいいよ」


「うん」


          ◇ ◇ ◇


「それで」


母が籠の毛糸を見る。


「最初からたくさん作る?」


「うん!」


「もし誰も買ってくれなかったら?」


「…………」


また止まる。


いっぱい作る。


いっぱい毛糸を使う。


でも、誰も買わない。


「…………」


困る。


「じゃあ、どうする?」


「…………」


少しだけ?


「すこし、つくる」


「うん。お母さんもその方がいいと思う」


「なんこ?」


「そうねえ……」


母が考える。


「まず、子供用のマフラーを二本」


指を二本。


「大人用を一本」


もう一本。


「三本くらい作ってみる?」


「さんぼん!」


「それを見てもらって、欲しい人がいるか確かめてみたら?」


「うん!」


三本。


今度は練習ではない。


売るために作る。


「ぼうしは?」


「マフラーを作りながら、もう少し上手になってからね」


「てぶくろは?」


「もっと後」


「…………」


やっぱり、手袋は遠い。


でも、順番。


まずマフラー。


「おじさんのは?」


「行商人のおじさん?」


「うん!」


一本あげる。


決めている。


「それも今作る?」


「…………」


考える。


今でも作れる。


でも、秋までまだ時間がある。


その間にもっと上手になったら、今より綺麗に作れる。


「あとでつくる」


「どうして?」


「もっと、じょうずになってから」


母が笑った。


「そうね。その方が喜んでくれるかもね」


「うん!」


          ◇ ◇ ◇


やることが増えた。


まず、マフラー。


子供用を二本。


大人用を一本。


それを、売れるか確かめる。


売れたら、毛糸に使った分を母へ返す。


残ったお金は自分のもの。


それで、また毛糸を買えるかもしれない。


そして、もっと作る。


「…………」


全部は、まだちゃんと分からない。


でも、一つずつなら分かる。


          ◇ ◇ ◇


「でもね」


母が、最初に完成した小さなマフラーを机に置いた。


「町には、お母さん以外にも編み物ができる人がいるでしょう?」


「うん」


知っている。


冬には、帽子やマフラー、手袋を町の人が使っている。


全部、行商人から買ったものではない。


自分で作る人もいる。


「その人たちも、冬になったら作ると思うよ」


「…………」


「だったら、みんながあなたのマフラーを買ってくれるかな?」


「…………」


考える。


自分のものは、少しでこぼこ。


ほかの人は、もっと上手。


同じマフラーが二つあったら。


「…………」


どっちを買う?


「じょうずなほう?」


「そう思う人もいるでしょうね」


「…………」


「安い方を選ぶ人もいるかもしれないし、好きな色を選ぶ人もいるかもしれない」


「いろ?」


「赤が好きな人に、茶色しかありませんって言っても困るでしょう?」


「…………」


確かに。


自分にも、好きなものはある。


「じゃあ、いっぱい、いろつくる!」


「だから待って」


「…………」


また止められた。


「いっぱい作って売れなかったら?」


「…………」


さっき聞いた。


毛糸がなくなる。


「すこし」


「そう。まず少し作ってみる」


「うん」


「それで、どんなものなら欲しいと思ってもらえるのか、考えてみたら?」


「…………」


どんなもの。


綺麗。


安い。


好きな色。


ほかにも?


分からない。


「おかあさん」


「なあに?」


「ほかになに?」


「それを自分で考えるのも、お店をする勉強じゃない?」


「…………」


自分で考える。


すぐには分からない。


でも、秋までまだ時間がある。


          ◇ ◇ ◇


次の日から、また編む。


今度は練習だけではない。


誰かが使うかもしれないマフラー。


だから、間違えたらそのままにしない。


ほどく。


やり直す。


編み目を見る。


同じくらい?


きつすぎない?


緩すぎない?


母にも見てもらう。


文字も続ける。


計算も続ける。


動物の本も読む。


遊ぶ。


昼寝もする。


そして夜。


目を閉じる。


魔力かもしれない、あの感覚。


今日も確かめる。


「…………」


全部、すぐにはできない。


編み物も。


計算も。


魔法も。


一日ではできなかった。


でも、秋はまだ来ていない。


それまでに、どれだけできるようになるのか。


今は、誰にも分からない。


だから今日も。


できることを、一つずつ続けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます☺️ 少しでも「続きが気になる」「この子をもう少し見守ってみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。 皆さまからの応援を励みに、これからも小さな主人公の物語を大切に書いていきます。 次のお話も楽しんでいただけますように。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。