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ちいさなぼくのまもるもの  作者: 星乃いりす


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031 僕にもできること

――ぼくにもできること――


「…………」


吸う。


吐く。


もう一度、吸う。


吐く。


魔力は、まだ分からなかった。


お腹の奥に何かあるような、ないような。


でも、分からないものを魔力だとは決めない。


今日は、ここまで。


目を開ける。


「…………」


立ち上がる。


机の上には、小さな入れ物。


その中に、銅貨が五枚。


ちゃり。


指で一枚、触ってみる。


「…………」


魔法の本。


銀貨八枚。


銅貨なら八百枚。


自分が持っているのは、五枚。


全然、足りない。


「…………」


どうしたら増える?


仕事をしたら、お金がもらえる。


それは、行商人のおじさんから教えてもらった。


でも、おじさんはもういない。


秋まで帰ってこない。


父の仕事。


木を削る。


大きな道具を使う。


危ない。


自分には、まだできない。


「…………」


ほかに、できること。


小さくても、できること。


家の中を見る。


そこで、ふと思い出した。


母が椅子に座って、何かを作っていたこと。


冬に使うもの。


柔らかい糸を、手で何度も動かしていた。


「…………」


あれ。


自分でも、できる?


分からない。


なら、聞く。


          ◇ ◇ ◇


「おかあさん」


「なあに?」


母のところへ行く。


「けいと、ある?」


「毛糸?」


「うん」


母が少し不思議そうな顔をした。


「あるけど……どうするの?」


「…………」


まだ、うまく説明できない。


「なにか、つくりたい」


「何か?」


「うん」


母は、しばらくこちらを見ていた。


それから棚を開け、中を探す。


「確か……」


布。


糸。


裁縫に使うもの。


いくつか動かして。


「あった」


小さな籠を持ってくる。


中を覗く。


「…………!」


毛糸。


赤。


茶色。


白。


ほかにも、少しずついろいろな色。


でも、全部同じ長さではない。


短いもの。


少し長いもの。


途中まで使ったもの。


「これならあるわよ」


「もらっていい?」


「これは余ったものだから、練習に使うならいいけど」


一本、渡してもらう。


「…………」


触る。


柔らかい。


指に巻いてみる。


少し引く。


曲がる。


軽い。


これなら、持てる。


「おもくない」


「毛糸だからね」


「…………」


木の箱は重かった。


大きな商品も持てなかった。


でも、これなら三歳の手でも持てる。


「これで、なにかつくれる?」


「作れるわよ」


「!」


「でも」


母がこちらの手を見る。


「すぐには無理よ」


「なんで?」


「編み方を知らないでしょう?」


「…………」


知らない。


毛糸はある。


手にも持てる。


でも。


持てることと、何かを作れることは違う。


「おかあさん、できる?」


「少しならね」


「おしえて!」


「やっぱりそうなるのね」


母が小さく笑った。


「いいわよ」


「ほんと?」


「ええ。でも、最初は難しいと思うわよ」


「だいじょうぶ!」


「まだやってないでしょう?」


「…………」


そうだった。


できるかどうかは、まだ知らない。


「やる」


言い直す。


「やってみる」


「うん。それならいいわ」


          ◇ ◇ ◇


母が籠の中から、短い毛糸を選ぶ。


「最初はこれを使いましょう」


「みじかい」


「練習だからね。失敗しても、ほどけばまた使えるから」


「ほどく?」


「間違えたら戻せるってこと」


「…………」


それなら、何回でもできる。


「これ、ただ?」


「余りものだから、お金はいらないわよ」


「!」


銅貨。


使わなくていい。


「でも」


母が続ける。


「たくさん作りたいなら、そのうち毛糸を買わないと駄目よ」


「かう?」


「そう。これだけじゃ、そんなにたくさんは作れないから」


「…………」


毛糸も、お金がいる。


何かを作るにも、何もないところからできるわけではない。


「これなくなったら、おかねいる?」


「新しい毛糸が欲しいならね」


「…………」


覚える。


毛糸を買うには、お金がいる。


今は余ったものだから、使わせてもらえる。


          ◇ ◇ ◇


母が今度は、別のものを出した。


細長いものが二本。


「これは?」


「編み針」


「あみばり」


「毛糸を編むときに使うの」


渡される。


持ってみる。


「…………」


少し長い。


いつも文字を書くときに使っているものとも違う。


母は、いくつかある中から比較的扱いやすそうなものを選んでくれたらしい。


それでも、三歳の手には大きく感じる。


右手。


左手。


一本ずつ持つ。


「こう?」


「まだ何も教えてないわよ」


「…………」


母が笑う。


自分も編み針を見る。


どうやったら、この毛糸が何かになる?


分からない。


でも。


文字も、最初は分からなかった。


仕事も、最初は分からなかった。


魔法は、今も分からない。


だから、これも教えてもらう。


「それで」


母が毛糸を手に取る。


「何を作りたいの?」


「…………」


止まる。


何を作る?


そこまでは、まだ決めていなかった。


お金が欲しい。


そのために、自分でも何かできないか。


そう思った。


毛糸なら、小さな自分でも扱えると思った。


でも、何を作るのか。


作ったものをどうするのか。


そこまでは、まだ考えていない。


「…………」


籠を見る。


いろいろな色の、柔らかい毛糸。


手の中には、二本の編み針。


そして少し離れた机の上には、自分で稼いだ五枚の銅貨。


「…………」


まず、何が作れるのか。


それすら、まだ知らない。


だから、母を見る。


「おかあさん」


「なあに?」


「ぼくでも、なにつくれる?」


五枚の銅貨から始まった次の勉強は。


魔法でも。


文字でも。


計算でもなく。


二本の編み針と、一本の毛糸から始まろうとしていた。

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ここまで読んでいただき、ありがとうございます☺️ 少しでも「続きが気になる」「この子をもう少し見守ってみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても嬉しいです。 皆さまからの応援を励みに、これからも小さな主人公の物語を大切に書いていきます。 次のお話も楽しんでいただけますように。
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