表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真夜中ホテルの、言えない事情  作者: わがままな饅頭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/32

第七話:夜が明けるまで

朝の引き継ぎを終え、灯が控室で帰り支度をしていると、桐生が、珍しく話しかけてきた。


「結城さん、少し聞きたいんだが」


「なんでしょう」


「この仕事、続けられそうか」


不意の問いに、灯は、少し考えてから、はっきりと頷いた。


「はい。むしろ、続けたいと、強く思っています」


「理由は?」


「昼間は見えない、人の"本当の顔"に、寄り添えるからです。それに――」


灯は、控室の窓から差し込む、朝の光を見つめながら続けた。


「一つ一つの出来事は小さくても、その小さな謎や事情に、丁寧に向き合うことで、誰かの一晩を、少しだけ良いものにできる。それが、この仕事の醍醐味なんだと、実感しています」


桐生は、しばらく灯の顔を見つめていたが、やがて、満足げに頷いた。


「いい心がけだ。これからも、その調子で頼む」


「はい。よろしくお願いします」


控室を出て、朝の光の中を歩きながら、灯は、これまでに出会った客たちの顔を、一人ずつ思い浮かべていた。


家族との向き合い方に悩んでいた田中。就職活動に追われていた女性。長年の月命日参りに区切りをつけた東條。資格試験に苦しんでいた長期滞在の客。そして、施設への入所を前に、最後の思い出を作った老婦人。


誰もが、それぞれの事情を抱えながら、深夜のホテルを訪れ、そして、朝と共に、それぞれの日常へと帰っていった。


(今夜も、また、新しい誰かが訪れる)


灯は、そんなことを考えながら、まだ静かな早朝の街を、家路についた。


深夜のホテル・ノクターンは、今夜もまた、静かに扉を開き、様々な事情を抱えた人々を、迎え入れる準備を整えている。


そこには、昼間には見えない、人々の"言えない事情"が、そっと寄り添われるのを待っている。そして、そのすべてに、丁寧に向き合う夜間コンシェルジュが、今日も、フロントカウンターの内側で、静かに客を待っているのだった。


(第一部・完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ