第二十七話:それぞれの持ち場で
翌朝、灯が三笠に、昨夜の対応について尋ねると、彼は、まだ、少し興奮した様子で答えた。
「救急車の手配、初めてで、緊張しましたけど……なんとか、落ち着いて、対応できたと思います」
「三笠さんの、迅速な連絡のおかげで、対応がスムーズにいきました。ありがとうございます」
「いえ、結城さんの、現場での対応があってこそです」
その日の夜、桐生が、二人を労うように、声をかけた。
「昨夜は、良い連携だった。それぞれが、自分の持ち場で、冷静に、対応できていた」
「桐生さんの、的確な指示のおかげです」
灯の言葉に、桐生は、静かに首を振った。
「俺一人では、あそこまで、スムーズにはいかなかった。結城さんの、現場での対応、三笠くんの、迅速な連絡。それぞれが、揃って初めて、成り立つものだ」
数日後、フロントに、一本の電話が入った。あの夜、倒れた男性の妻からだった。
「先日は、本当に、お世話になりました。夫は、幸い、大事には至らず、無事に、退院できることになりました」
その知らせに、灯は、心から安堵した。
「それは、良かったです。ご無事で、何よりです」
「あの時の、皆様の、迅速な対応がなければ、どうなっていたか、分かりません。本当に、感謝しております」
電話を切った後、灯は、その報告を、桐生と三笠にも伝えた。三人で、静かに、安堵の笑みを交わした。
「こういう瞬間のために、この仕事を、続けているのかもしれません」
灯の言葉に、桐生は、深く頷いた。
「普段は、静かに、事情に寄り添うだけの仕事だが、時には、こうして、命に関わる場面に、居合わせることもある。その時に、冷静に、的確に動けるかどうかが、この仕事の、もう一つの大事な側面だ」
「これからも、日々の心構えを、大切にしていきます」
灯の言葉に、桐生も、三笠も、静かに頷いた。
窓の外、朝の光が、ホテル・ノクターンのロビーを、いつも通り、静かに照らし始めていた。深夜のホテルには、今夜もまた、様々な事情を抱えた人々が訪れることだろう。穏やかな日常も、時には訪れる、非常事態も、その全てに、丁寧に向き合っていくこと。それこそが、結城灯という、一人の夜間コンシェルジュの、変わらぬ使命だった。
(第八部・完)




