第二十四話:塩梅を掴むまで
それから数日、三笠は、少し慎重になりすぎたのか、今度は、客の様子に、あまり踏み込まなくなっていた。
「三笠さん、さっきのお客様、少し様子が、気になりませんでしたか」
灯が、静かに尋ねると、三笠は、少し困ったように答えた。
「気になったんですが……この間の失敗を思い出して、踏み込みすぎるのが、怖くて」
「なるほど。今度は、逆に、慎重になりすぎているんですね」
灯は、少し考えながら、続けた。
「大丈夫です。焦らなくても。この塩梅は、場数を踏むうちに、少しずつ、掴めるようになっていきますから」
その夜、深夜三時頃、一人の女性客が、フロントに、思い詰めた様子で現れた。
「あの……少し、相談してもいいですか」
三笠は、緊張した様子だったが、灯の教えを思い出すように、慎重に言葉を選んだ。
「はい、どうされましたか。よろしければ、お話を伺います」
過度に踏み込まず、かといって、素っ気なくもない、絶妙な距離感だった。灯は、少し離れた場所から、その様子を、静かに見守った。
女性客は、少しずつ、事情を語り始めた。長年勤めていた会社を、リストラされてしまい、これからのことが、不安でたまらないという。
「今夜は、一人になりたくて、衝動的に、ここに来てしまいました」
三笠は、丁寧に耳を傾けながら、灯に教わった通り、余計な口を挟まず、静かに、相槌を打ち続けた。
「お話しくださり、ありがとうございます。何か、私にできることがあれば、いつでも、お申し付けください」
その一言に留めた対応に、女性客は、少し安堵したような表情を見せた。
「……ありがとうございます。少し、話を聞いてもらえただけで、気持ちが、楽になりました」
女性客が部屋へ戻った後、三笠は、灯の方を振り返り、少し誇らしげな表情を見せた。
「結城さん、どうでしたか」
「とても良かったです。踏み込みすぎず、でも、きちんと、お客様の気持ちに寄り添えていました」
「良かった……!」
三笠は、心から安堵したように、胸を撫で下ろした。
その様子を見ていた桐生が、静かに近づいてきた。
「三笠くん、随分と、様になってきたな」
「桐生さん……! ありがとうございます」
桐生は、灯にも、視線を向けた。
「結城さんの、指導の賜物だな」
「いえ、三笠さんが、真剣に、向き合っていたからだと思います」
灯の言葉に、三笠は、嬉しそうに、はにかんだ。




