第二十二話:クリスマスの朝に
翌朝、朝食会場で、灯は、昨夜、対応した客たちと、それぞれ、顔を合わせる機会があった。
プロポーズを終えた男性と、その婚約者は、幸せそうな笑顔で、朝食を共にしていた。灯に気づくと、二人は、揃って、深く頭を下げた。
「昨夜は、本当にありがとうございました。一生の思い出になりました」
「おめでとうございます。末永く、お幸せに」
少し離れた席では、母子が、楽しそうに、朝食を取っていた。子供は、昨夜のケーキの余韻からか、上機嫌に、母親に話しかけている。
「結城さん、昨夜は、本当にありがとうございました」
母親が、灯に、深々と頭を下げた。
「娘と二人でも、こんなに楽しいクリスマスを過ごせるんだと、初めて実感できました」
「お子様の、素敵な笑顔が見られて、私も、嬉しいです」
「実は……夫にも、この話をしたら、来年は、絶対に一緒に過ごせるよう、頑張ると、約束してくれました。今夜の出来事が、良いきっかけになったみたいです」
その言葉に、灯は、静かな喜びを感じた。
朝食会場を後にし、控室に戻ると、桐生が、労いの言葉をかけてくれた。
「昨夜は、良い仕事をしたな」
「桐生さんの、後押しのおかげです」
「いや、結城さんの、日頃の観察力と、気配りがあってこそだ。ただの飾り付けやルームサービスの手配だけでは、あそこまで、お客様の心には、届かなかっただろう」
その評価に、灯は、少し照れくさそうに、微笑んだ。
「この仕事を始めて、もうすぐ、一年になります」
「早いものだな」
「最初は、ただ、夜の時間に、興味があっただけでした。でも、今は」
灯は、窓の外の、朝の光を見つめながら、続けた。
「一人一人の、言えない事情に、丁寧に向き合うことの、大切さを、実感しています。そして、時には、自分自身も、誰かに支えられることがあるんだと、この一年で、たくさん教えてもらいました」
桐生は、静かに頷きながら、灯の肩を、軽く叩いた。
「これからも、その調子で、頼むぞ」
「はい」
窓の外、クリスマスの朝の光が、ホテル・ノクターンのロビーを、いつもより、少しだけ、暖かく照らしていた。
深夜という、特別な時間の中で、灯は、今夜もまた、様々な事情を抱えた客たちと出会い、そして、その一つ一つに、丁寧に寄り添っていくのだろう。
結城灯という、一人の夜間コンシェルジュの物語は、こうして、これからも、深夜のホテルの片隅で、静かに、そして、温かく、紡がれ続けていくのだった。
(第六部・完)




