表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真夜中ホテルの、言えない事情  作者: わがままな饅頭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/32

第六部:クリスマスイブの奇跡 第二十話:予約が重なった夜

十二月二十四日、クリスマスイブの夜。ホテル・ノクターンのフロントは、普段の深夜とは違う、独特の華やぎに包まれていた。


「今夜は、予約が随分と、埋まっていますね」


「ああ。クリスマスイブは、毎年、こうなる」


桐生が、予約表を確認しながら、答えた。ロビーには、小さなクリスマスツリーが飾られ、控えめながらも、温かい灯りが、辺りを照らしている。


深夜零時を回った頃、フロントに、一人の男性が、大きな花束を抱えて現れた。


「チェックインを、お願いします」


「かしこまりました。ご予約名を」


「……いえ、実は、予約はしていないんです。空いている部屋は、ありますか」


灯は、慌てて空室状況を確認した。幸い、一部屋だけ、空きがあった。


「一部屋、ご用意できます。お一人様でしょうか」


「はい。……その、実は、恋人に、サプライズで、プロポーズをしようと思っていて」


男性は、少し照れくさそうに、花束を見つめた。


「彼女とは、このホテルの近くにある、レストランで待ち合わせをしています。食事の後、この花束を渡して、プロポーズをするつもりなんですが……その後、泊まる場所を、まだ決めていなくて」


「かしこまりました。お部屋を、精一杯、素敵に整えさせていただきます」


灯は、丁寧に手続きを進めながら、ふと、提案を思いついた。


「もしよろしければ、お部屋に、ささやかながら、お祝いの飾り付けをさせていただくことも、可能ですが、いかがでしょうか」


男性は、驚いたように目を見開いた。


「そんなことも、していただけるんですか」


「はい。当ホテルでは、特別な記念日のお客様に、簡単な装飾のサービスを、ご用意しております」


「ぜひ、お願いします!」


男性が、感激した様子で答えた。


その後も、フロントには、様々な事情を抱えた客が、次々と訪れた。一人で静かに過ごしたいという、疲れた様子の会社員。家族との時間を求めて、遠方から訪れた老夫婦。そして――


「あの、すみません。今夜、泊まれますか」


フロントに現れたのは、小さな子供を連れた、若い母親だった。子供は、まだ、五歳ほどだろうか。少し疲れた様子で、母親にしがみついている。


「かしこまりました。ご予約は」


「……いえ、していません。急に、決めたので」


母親の声には、どこか、切実な響きがあった。灯は、それとなく、事情を尋ねてみることにした。


「クリスマスイブに、急に、お泊まりを決められたんですね」


母親は、少し躊躇った後、静かに答えた。


「実は、今夜、夫の帰りを、家で待つのが、辛くて。仕事の都合で、今年も、クリスマスに、家に帰れないと言われて……この子と二人きりで、家で過ごすのが、なんだか、寂しくて」


その言葉に、灯は、静かに耳を傾けた。子供は、少し不安そうに、母親の服を、ぎゅっと握りしめている。


「それで、思い切って、ホテルで、特別な夜を、過ごそうと思ったんです。子供と二人だけでも、楽しい思い出を、作れたらと」


灯は、その母親の想いに、胸を打たれた。


「かしこまりました。お子様と、素敵な夜を、お過ごしいただけるよう、私たちも、精一杯、お手伝いさせていただきます」


灯は、丁寧に手続きを進めながら、この夜の、様々な"言えない事情"を抱えた客たちに、何か、特別なことができないかと、静かに考え始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ