第十九話:知らせを受けて
検査結果が出る日、灯の携帯電話に、再び、母からの着信が入った。
「もしもし、灯。結果、聞いたわよ」
母の声には、これまでの緊張が、嘘のように和らいでいた。
「大丈夫だった。念のための、経過観察が必要だけど、大きな問題は、なかったって」
「……本当に?」
「ええ、本当よ。お父さんも、随分と、ほっとしてる」
その知らせに、灯は、思わず、その場に座り込みそうになるほどの、安堵を覚えた。
「良かった……本当に、良かった」
「あなたも、心配かけて、ごめんなさいね。仕事、頑張ってね」
電話を切った後、灯は、しばらく、その場で、静かに涙を流した。安堵の涙だった。
その夜、フロントに立った灯の表情は、これまでとは違う、晴れやかなものになっていた。
「結城さん、何か、良いことがあったようだな」
桐生の問いに、灯は、素直に頷いた。
「はい。父の検査結果、大きな問題はなかったそうです」
「それは、良かった」
桐生は、心から安堵したように、微笑んだ。
「この一週間、大変だったな。だが、よく、乗り越えた」
「桐生さんの、言葉のおかげです。辛い時こそ、誰かのために動くことが、自分自身を支える力になる、という」
「役に立てたなら、何よりだ」
その夜、灯は、いつも以上に、丁寧に、そして、心から、客たちと向き合った。不安を乗り越えた経験は、灯自身の中に、これまでとは違う、確かな強さを、育んでくれたようだった。
深夜、フロントを訪れた常連客の一人が、灯の様子に、ふと気づいたように言った。
「結城さん、今日は、いつもより、表情が明るいですね」
「そう見えますか」
「ええ。何か、良いことがあったんじゃないですか」
灯は、少し照れくさそうに、微笑んだ。
「はい。大切な人の、無事を、確認できましたので」
「それは、何よりですね」
その客が去った後、灯は、静かに、フロントの窓の外を見つめた。冬の夜空に、星々が、いつもより、輝いて見えた。
(この仕事を続けていて、良かった)
誰かの言えない事情に、丁寧に寄り添うこと。そして、時には、自分自身もまた、誰かに、そっと支えられること。その両方があってこそ、この仕事は、成り立っているのだと、灯は、改めて実感していた。
ホテル・ノクターンの夜は、今夜も、静かに更けていく。様々な事情を抱えた人々が、この場所で出会い、それぞれの物語を紡ぎ、そして、また、それぞれの明日へと、歩き出していく。
結城灯という、一人の夜間コンシェルジュもまた、その物語の一部として、これからも、深夜のフロントに、静かに立ち続けるのだった。
(第五部・完)




