第十五話:窓辺の手がかり
高橋の部屋を訪れると、灯は、まず、化粧台周辺を、丁寧に観察した。宝石箱は、蓋が開いたまま、化粧台の上に置かれている。
「高橋様、宝石箱は、この位置に、間違いございませんか」
「はい、いつも、そこに置いています」
灯は、次に、瀬戸が言っていた窓辺へと視線を移した。窓は、既に閉められていたが、サッシの部分に、灯は、小さな違和感を覚えた。
「失礼いたします」
灯は、窓辺に近づき、サッシの溝を、丁寧に確認した。そこには、小さな、白っぽい羽根が一枚、挟まっていた。
「これは……」
「どうかしましたか」
「高橋様、この部屋は、五階でいらっしゃいますが、窓の外に、何か、目立つものはございますか」
「さあ……特には、気づきませんでしたが」
灯は、窓を開け、外の様子を、慎重に確認した。ホテルの外壁には、僅かに突き出た装飾用の庇があり、そこに、小さな鳥の巣らしきものが、作られているのが見えた。
(もしかして……)
灯の脳裏に、一つの仮説が浮かび上がった。
「桐生さん、少し、ご相談があります」
灯は、桐生に、窓辺で見つけた羽根と、外の鳥の巣について報告した。
「なるほどな。カラスか、あるいは、他の鳥が、宝石箱の中の、光る物に興味を持って、持ち去った可能性があるということか」
「はい。窓が少し開いていた、という瀬戸さんの証言とも、辻褄が合います」
「だが、鳥がネックレスを咥えて運ぶには、少々、重すぎるようにも思うが」
桐生の指摘に、灯は、少し考え込んだ。
「もしかしたら、巣の近くまで、一旦運んだものの、途中で落としてしまった可能性もあります。もしそうなら、庇の下や、周辺に、落ちているかもしれません」
「確認してみる価値は、ありそうだな」
翌朝、灯は、施設管理のスタッフに協力を仰ぎ、慎重に、外壁の庇周辺を確認してもらうことにした。
「――あった! ありましたよ、これじゃないですか!」
管理スタッフの声に、灯は、思わず駆け寄った。庇の隅、鳥の巣のすぐ近くに、絡まるようにして、一本のネックレスが、引っかかっていた。
「間違いありません、これです!」
急いで高橋に確認してもらうと、彼女は、安堵の涙を浮かべながら、ネックレスを受け取った。
「ああ、本当に、良かった……! 母の、大切な形見だったので」
「ご不安な思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした」
「いいえ、こちらこそ、疑うようなことを言ってしまって……瀬戸さん、でしたか、清掃の方にも、謝罪させてください」
高橋は、深く頭を下げた。灯は、その様子を見ながら、静かに安堵していた。
瀬戸に事の顛末を伝えると、彼女は、涙ぐみながら、何度も頭を下げた。
「結城さん、本当に、ありがとうございました。疑いが晴れて、心から、ほっとしました」
「瀬戸さんの、窓についての証言が、解決の大きな手がかりになりました。ありがとうございました」
その日の夜、桐生が、感心したように口を開いた。
「見事な、推理だったな」
「たまたま、羽根に気づけただけです。運が良かっただけかもしれません」
「いや」
桐生は、静かに首を振った。
「小さな違和感を、見逃さなかったことが、今回の解決に繋がった。それは、運ではなく、結城さんの、観察力の賜物だ」
その評価に、灯は、少し照れくさそうに、微笑んだ。




