第四部:消えたネックレス 第十四話:宝石箱の異変
冬の気配が漂い始めたある夜、フロントに、青ざめた表情の女性客が、慌てた様子で駆け込んできた。
「大変です! 部屋に置いていた、ネックレスがなくなっているんです!」
「落ち着いてください。詳しく、お伺いできますでしょうか」
女性客は、五階のスイートルームに宿泊している、高橋という客だった。夕方、外出する前に、化粧台の上の宝石箱にしまっておいたはずの、母の形見のネックレスが、部屋に戻ると、忽然と消えていたという。
「外出されている間、お部屋には、どなたか、出入りされましたか」
「……清掃の方が、入られたはずです。夕方、外出前に、清掃をお願いしましたので」
その言葉に、灯の胸に、嫌な予感が広がった。清掃スタッフが疑われるとなれば、事は穏やかではない。
「かしこまりました。至急、確認いたします。少々、お待ちいただけますでしょうか」
灯は、すぐさま、桐生に事情を報告した。桐生は、険しい表情で、清掃記録を確認した。
「本日、五階の清掃を担当したのは……新人の、瀬戸さんだな」
瀬戸は、灯と同時期に入社した、若い清掃スタッフだった。真面目な性格で、これまで、トラブルを起こしたことは一度もない。
「瀬戸さんに、事情を伺いましょう」
呼び出された瀬戸は、事情を聞くなり、顔面蒼白になった。
「わ、私、盗んでなんかいません! 確かに、清掃はしましたが、宝石箱には、一切触れていません!」
「もちろん、疑っているわけではありません。ただ、状況を、整理させてください」
灯は、努めて冷静に、瀬戸から、当時の状況を聞き取った。清掃時間、部屋の状態、何か気づいたことはなかったか。瀬戸は、震える声で、丁寧に答えてくれた。
「そういえば……清掃中、窓が、少しだけ開いていました。換気のために、開けたままにしていたんですが」
「窓が、ですか」
「はい。五階なので、まさか、そこから何かが起きるとは、思っていませんでしたが」
その情報に、灯は、何かが引っかかった。だが、それが何なのか、まだ、はっきりとは掴めなかった。
「瀬戸さん、ご協力、ありがとうございました。他に、何か気づいたことがあれば、また、お聞かせください」
瀬戸を見送った後、桐生が、静かに口を開いた。
「どう思う、結城さん」
「瀬戸さんが、盗んだとは、思えません。それに」
灯は、考えを整理しながら続けた。
「もし、本当に盗難だったとしたら、もっと、慌ただしい形跡が残るはずです。でも、瀬戸さんの話を聞く限り、部屋は、いつも通り、整然としていたようです」
「つまり?」
「盗難ではなく、別の可能性があるのではないかと、思っています」
灯は、高橋の部屋を、改めて確認させてもらうことにした。




