第27話 三度の登録へ
領主関係者専用門をくぐるとその先は専用の道が整備されていた。
ここは領主の家族や領関連の軍などが主に使う道のようで、至る所にテントのようなものや馬小屋、簡単監視小屋のようなものが用意されていた。
どうやら街とは別の隔離された場所らしい。
しばらく進むと道は2手に分かれていく。
1つは市街地への道、もう1つはなぜか地下へと進んでいく道だった。
「ようこそ詠春殿。こちらの地下道は丘の上の領主邸の地下に繋がっております。軍の詰め所や司令部にも繋がっておりますよ」
そう説明してくれるのは飾りが多く付いた鎧を着た中年のナイスガイだった。
地球で見た渋めなハリウッドスターみたいな顔をしている。
さぞモテていることだろう。
「ご丁寧にありがとうございます」
「ライアンだ。領主軍の部隊長の1人でもあるが衛兵隊の指揮官でもある」
「狐塚詠春です。よろしくお願いします」
お互いに自己紹介しあい握手とハグをする。
どうやら歓迎されているようだ。
「今回は連れの登録に来ました」
「連れって、女性ばかりだな。あ、いや、女性が悪いってわけじゃないんだ。ただ領主様からは他にもいるって聞いてるのでね」
「あぁ……」
確かに今のところ女性しか連れていない気がする。
そろそろ懇意にしている男性陣を連れてくるべきなんだろうけど。
そういえばうちの従者はさくらの姉妹たちばかりなので男性が0だったっけ。
「男性もいるにはいるんですが、なんというか驚くと思いますよ」
「ほぅ?」
ライアンさんはダンディーな顔に興味の色を浮かべている。
うちの男性陣の部下は外見的に人当りに難があるのだ。
「そうですね、いずれ連れてきますよ。どちらにしても登録しておかないと活動できませんからね」
「楽しみにしてる。それはそうと詠春殿はいける口か?」
ライアンさんはそう言うと口元に何かを持っていき、くいっとあおる動作をする。
「弱いですが当然でしょう」
「おぉ、それは楽しみだ。しかし詠春殿は不思議だな。話していると心が温かくなる気がする」
「ふむ……」
初対面の彼らが友好的な理由は雛菊の影響が大きいだろう。
雛菊は私の影響を受けているのでこの世界の人々も薄々感じているのかもしれない。
まぁ安心できる存在に出会ったような感覚だろう。
「ではまた後程。一旦登録に向かいますね」
「あぁ、もし絡まれたらいつでも報告しに来てくれ」
「わかりました」
どうやら今日の私は人の運に恵まれているらしい。
彼らは心の底から本心で接してくれているのがよくわかる。
「詠春。また心の中読んだの?」
「裏があるかどうかの確認は必要だからね」
「ぽやっとしているように見えて案外しっかりしてるわよね」
「そうだろうそうだろう」
「お前ら、いちゃついてねえでさっさと行くぞ。ていうかくるみ、お前あたしには厳しいのにどうしてだよ」
「ふん。泥棒猫には厳しくして当然でしょ。椿は別に問題ないからね」
「はーい」
くるみたちはあれでいて案外仲が良いのだ。
本気で喧嘩したりはしないので安心してもいいだろう。
そのまま賑やかな声を聴きつつ街を歩き、探索者組合の建物にたどり着く。
そして全員で中に入ると突然好奇の視線に晒されてしまった。
「おっ、組合長に連れてかれた新人じゃねえか」
「組合長の執事さんと一緒に馬車に乗っていったってことは何か特別な事情でもあったの?」
「組合長とどんな関係!?」
どうやら興味の対象はエリーゼさんを治療しに行くときの件だったようだ。
「あはは。それはまた今度。ちょっとさくらの姉妹の登録に寄っただけですしね」
「ちぇっ」
「今度はちゃんと聞かせろよ?」
などなど。口々に好き勝手言いつつ彼らは解散していく。
「んじゃ登録始めちゃいますか」
「うん」
「はーい」
「おうよ」
早速3人を引き連れ受付へ。
すると受付の女性が私と3人を見ながら顔をしかめ、「また女性ばかり」と口にした。
やっぱりそう思いますよね。
次は男性も連れてきますから! 飛び切り怖い人を!
私は心の中で不動さんを連れてくることを誓った。
3人の登録が完了し、登録証が出来上がるまで情報を集めることにした。
「依頼ボードはっと。ふむ……」
依頼ボードには今まであった森狼の討伐依頼が消え、代わりに調査依頼が張り出されていた。
そのほか、ゴブリンの討伐依頼にオーガの討伐依頼などだ。
しかしそのオーガの似顔絵、体格だけは不動さんによく似ている。
連れてきたらひどく驚かれそうだ。
「いい依頼でもありましたか?」
「いえ、ちょっと見ているだけですね。ところでどちら様で?」
不意に女性に声を掛けられてしまった。
その女性は身長高めで狼のような耳を頭の上に生やしている。
狼系の獣人のようだ。
「あら、ごめんなさい。貴方を見ているとなんだか心が温かくなってしまって。私は【ハル】って言います」
「詠春です。女性に声を掛けられるとは思っていなかったので、少し驚きました」
「それは……。すみません」
「いえいえ。ところで見たところ探索者のようですね」
狼耳の女性ことハルさんの服装は動きやすそうなシャツとズボン、それに革製の防具を要所要所に追加したようなものとなっていた。
胸部分には革に鉄を仕込んだ胸当てを、肘やひざには革製のガード、腰回りにはスカート上の皮の防具、手には革の手袋、足には革のブーツと脛当てを装備している。
「C級の探索者をしていますよ。貴方は噂の新人さんですよね」
「あはは、噂……。あまりいい感じではないと思いますが」
依頼はまともにこなしているが最近は何かとトラブルに見舞われているので若干疑心暗鬼になってしまう。
「小耳に挟んだ限りでは、領主様のお嬢様をお救いになられたとか」
「それをどこで……」
顔にくっつくかくっつかないかの距離まで近づかれ小声で囁かれる。
いつの間にそんな話が出てきたのだろう。
「領主様のお屋敷に姉がいるのです。メイドとしてですが」
「あぁ、それで……」
マッシュさんがあれだけ大喜びしていたんだ。
知られていないわけがない。
「ということは知っていて近づいてきたってことですね。まぁいいでしょう。それでどんなご用件で?」
そうハルさんに伝えると、ハルさんは懐から1つの水晶のようなものを取り出してみせる。
それはどう見ても無色の空間結晶だった。
「この水晶なんですが、なんだか分かりますか? 姉に見せてみたところ、お嬢様の身体に生えていたものに似ていると」
「ふむ。どこでこれを?」
結晶のかけらは小さく、大した力を宿していないようだった。
だからと言って放っておいていいものでもないのだが……。
「森狼のいた森の奥の穴の中です」
「なぜそんなところに……。もしかして」
「はい。森狼がいなくなった件の調査を行っていまして。森の中で森狼たちの痕跡を辿っていたのですが、その時に巣穴跡で見つけたものです」
「ちょっとした緊急事態ってところか。すまないが場所の案内をしてもらってもいいか?」
「えっ? えぇ。予定もないですし大丈夫ですよ?」
「それじゃ、くるみたちの登録証ができたら出発しよう」
「えぇ」
どうやら急ぎ森の中に調査に向かわなければいけないようだ。
結晶の状態からして育つことはないが出てきた穴は防がなければならないからね。




