第22話 報告とよからぬ思惑
エリーゼさんの部屋を出てすぐ、ずっと待機していたのかそこには執事のギルバートさんが待っていた。
「お疲れ様でございます。エリーゼお嬢様は?」
「とりあえず危機は脱しました。何事もなければ明日には目が覚めるはずですが、今日一日は様子見のためにアンナさんとうちの雛菊たちを待機させています」
そう伝えると、初老の執事ギルバートさんは安心したようにほっと息と吐いた。
「それはとても良い知らせでございます。旦那様も気が気ではなかったご様子。とにかく旦那様の執務室へ参りましょう」
実際にどのくらいの間専念していたのかはわからないが、屋敷内には人が少ない様子だった。
とはいえメイドさんや警備の兵士さんはいるわけで。
ふと歩きながら窓に視線を向けると、月は真上近くに上っているようだった。
「旦那様。詠春様をお連れしました」
しばらく屋敷内を歩くと1つの大きな扉の前にたどり着く。
ギルバートさんのやり取りからして、ここが執務室なのだろう。
ギルバートさんが声を掛けて少し、中からドタバタと走ってくる音が聞こえてきた。
「ど、どうであったか!」
執務室内から顔を出したマッシュさんの第一声である。
「旦那様。まずは落ち着いてください。まずは室内へ」
「う、うむ。そ、そうであったな」
よほど大切だったのだろう、マッシュさんの慌てぶりは相当な様子だった。
「疑問に思われているかもしれませんが、エリーゼ様は旦那様の奥様の最後の忘れ形見でして……」
執務室に入る途中、ギルバートさんはそう口にした。
なるほど。
執務室内に入りギルバートさんが結果を報告する。
するとマッシュさんは今にも飛び上がらんとする勢いで大喜びをしたのだ。
そして少し後、執務机を挟み全員が座ると早速話し合いが始まった。
まずは最初に口を開いたのはマッシュさんだった。
「私には3人の子がいる。今は亡き妻アーシェと結婚したのはお互いが17歳の時だった。最初の子は私たちが18歳の時。今から17年も前の話だ」
「旦那様の長子は【アッシュ】様です。今は17歳になられました。旦那様に似た男の子でして、当家の跡継ぎと期待されております」
「なるほど。17歳であるならもう色々なことを知り、経験している年頃ですね」
「そうだな。いずれは跡継ぎにと思っているが……。長女の【アリシア】は私たちが20の時に生まれた子だ。この子もなかなかに聡明でな。女当主としての力量も期待しているのだ」
「公国には『当主は男性でなければならない』というような法律は存在しませんゆえ、女性の当主も存在しております。それゆえ旦那様もアリシアお嬢様の独立を考えておられるのです」
「結婚して嫁ぐのが先か、それとも婿を貰うのかといったところですか」
失礼かもしれないと思いながらもそう口にしたところ、マッシュさんがこちらを見てきた。
「うむ。そうなのだ。あの子ももう15。いつ嫁いでもおかしくない時期に差し掛かってきている」
「エリーゼお嬢様は現在10歳でございます」
「そうだな。今は亡き妻とエリーゼは瓜二つでな……。特に可愛がっているのだ」
「な、なるほど……」
私がそう口にした途端、今度はギルバートさんもマッシュさんと同じタイミングでこちらを見た。
なんだこれ?
「アリシアお嬢様もエリーゼお嬢様も素晴らしい才能と器量をお持ちでございます。どの国の姫屋どの国の領主の娘にも勝ると自負致しております」
「そうだな」
2人は再びこちらをちらりと見た。
えっ、なにこれ。
「私もアリシアとエリーゼのためを思えば、多少苦しくても幸せを願うつもりでいる」
「そうですな。ただエリーゼお嬢様はまだ年若く些か早い気がしますが」
2人は再びこちらを見る。
だからなんだこれ。
「旦那様。これは手強くございます。時間をかけて関係を築かれた方がよろしいかと」
「致し方なしか。私の勘が囁くのだ。この縁を逃してはならないと」
「別途戦略会議を行いましょう。まずはエリーゼお嬢様の治療のために詠春様にお預けになられるなど」
「詠春殿。改めて娘エリーゼを救っていただき感謝する」
「いいえ。たまたまそうできる状況に居たに過ぎません。気にしすぎませんように」
改めてお礼を言われると少し気恥しいものがある。
あとは定期的に雛菊を派遣して経過を見るくらいでちょうどいいだろう。
「そこでだ。エリーゼの経過観察も含めて今後もお願いをしたい。礼はいくらでもしよう」
「ははは。お礼は必要ありませんよ。1人の少女と家族を救うのもまたいいものです」
お礼などは不要だが、島の整備や輸出などのために鉱石類を融通してくれると嬉しいかもしれない。
交渉してみるか?
「でだ。お礼は別途するとして、エリーゼと話し合ってからになるのだが、詠春殿にエリーゼをお預けしたい。もちろん術後の経過観察でだ」
「それは……。エリーゼさんの気持ちを考えませんと答えられませんね。さくらたちは近い年齢の子が増えると喜ぶでしょうが」
マッシュさんには事前にさくらたちについて問題ない範囲で話している。
使い魔に近い従者的な存在であると濁してはいるが。
「そうだな。だがもしエリーゼが望めば、頼めるか?」
「それは……。うーん……。可能ではありますがまだ拠点としている島にはまともな設備がありませんよ? 今後増やす予定はありますが……」
もし治療のために預かるとなったら場所を考えなければいけないだろう。
はてさて、どうしたものか。
「融通できるものはするつもりだ」
「ふむ……。必要なものについては調べます。ある程度産業も興したいので取引ができる街があるのは嬉しいですしね」
「そうだな。まずはそのように取り計らおう」
エリーゼさんの療養の件は置いておいて、とりあえず合法的に物資の取引ができる街ができたのはいいことだ。
こっちの島の産業はどうしようかな?




