第五話 ギプスと見えない傷 (5/5)
警察の人の話によると、あの不審者はこの学校の卒業生で、今は県外の大学に通っていた大学生だったらしい。
小学生の頃からいじられるようになって、中学、高校と地元の学校でそれが続いて、やっとの思いで今年県外の大学に進学したのに、いざ知り合いが一人もいない大学に通い始めたら、今度は友達が作れず大学を休みがちになっていたそうだ。
『すべての原因はいじられ始めた小学校にある。あの頃先生がもっと助けてくれたら、こんな事にはならなかったのに』というのが、犯人の犯行ドウキらしい。
爆破予告については全国的に各都道府県に似たような予告が送られているらしく、犯人はそれをネットで知って、わざわざ地元に戻りこの計画を実行したそうだ。
「じゃあ、爆破予告を送った犯人はまた別にいるってことですか」
え、颯太くんって、そんな丁寧に喋れるんだ……。
私が内心おどろいていると、警察の人がそうだと返事をしていた。
私と颯太くんは指紋も取られた。
犯人の物と区別するためだって、私たちは確かにボトルに触ったもんね。
ボトルはかなり木っ端微塵になっていたけど、警察の人が全部持って帰ったらしい。あんなに粉々になってたのに、全部拾い集めたなんてすごいなぁ。
犯人は一人での犯行だって言ってるけど、念のため確認する必要があるらしい。
今日保護者が呼ばれたのも、このためみたい。
お母さんも、颯太くんのママも、何やら書類を書かされていた。
警察の人の話が終わって校舎の外に出ると、もう校庭は夕焼けに染まっていた。
警察の人はまだ先生達と話があるらしいけど、私たちはもう帰っていいんだって。
これでようやく家に帰れると思ったのに、うちのお母さんと颯太くんのママは何やら話が弾んでしまっていて、校門の手前からちっとも動きそうにない。
「あの犯人も、あんな大学にいけるだけの頭があんのに、何でこんなことすんだって話だよな」
颯太くんが頭の後ろで両手を組んで、オレンジ色の空を見上げている。
「話終わんねーな。早く帰ってレース仕上げてーのにさ、もう俺だけ帰ろうかな」
相変わらず、颯太くんの独り言はよく聞こえるよね。
私も、早く帰ってセオル達に今日の話がしたいんだけどなぁ。
「えっ、中学受験するんですか!?」
お母さんのびっくりした声に、私は思わず振り返った。
「受験……?」
ってなんだっけ。大学生がやるやつ……。じゃないか、大学に入るのにやるんだから、受けるのは高校生……? あれ、高校に入るのにもあったっけ? 中学にも受験ってあるんだ?
なじみのない単語に私が首をかしげると、颯太くんがぶつぶつ文句を言っている。
「ったく、受かるかわかんねーのに、ホイホイ人に話すなよって感じだよな。……落ちた時、かっこわりーだろ」
そっか。中学生になっとき、私と同じ地域の中学に颯太くんがいたら、落ちたって分かるもんね。それは確かに、内緒にしたい気持ちわかるかも……。
「そーたくん、別の中学校に行くの?」
颯太くんは「受かればな」と前置きをしてから話し出した。
「掌明度中って知ってるか?」
「知らない」
「だろーな。俺、去年兄ちゃんについてって、あそこの文化祭行ったんだよ。兄ちゃんの友達があの学校行っててさ。そしたら手芸部の展示作品が物凄い大作でさ!」
颯太くんの声が大きくなる。
「中高一貫で高校生とも一緒に部活できるらしくて、俺らとは次元が違うっつーか。あーゆーの俺もやってみたいんだよなぁ……っ」
夢を語る颯太くんはキラキラしている。
私には、まだ中学校っていうもの自体もよくわからないのに。
颯太くんには『行きたい中学校』も『入りたい部』もあるなんて。
「へー、すごいねぇ」
「……悪かったな、興味ねー話して」
颯太くんはなにやらばつの悪そうな顔で、そっぽを向いた。
「え、ううん、面白かったよ?」
私は慌てて首を振る。ギプスが邪魔だ。
そういえば今日はこれから病院にも行くんだよね。
お母さん達、そろそろ話切り上げてくれないかなぁ。
「そういや、さっきの『ちゃんと言ってなかったこと』ってなんだ?」
私は、お母さんの方をチラと見て、二人が話に夢中なことを確認すると、颯太くんにここまで分かったことを話した。
「つまり……絞れてるようで全然絞れてねーんだな」
「そうなんだよねぇ。 髪が長い子とメガネの子じゃないってくらいかなぁ」
「メガネだって外そうとすりゃ外せるしな」
えー? そんなこと言われたら、いよいよ困るよ。
「セオルはその可能性は低いって言ってたよ……?」
私が言うと、颯太くんは手を口元に当てて考えるような仕草をした。
「ふーん、あいつが言うならそうかもな。しかし、内野さんまで動くぬいぐるみ……いや、生きてるぬいぐるみを持ってんだな」
千山くんの瞳が夕陽にきらりと光る。
「別に、ダメならダメでいーから、正直に言ってくれよ?」
な、なんだろう。この前置きは……。
私が半歩後ずさると、颯太くんが一歩詰めてきた。
「もしかして、樹生さんなら俺のぬいぐるみも動くようにできんのか?」
「え、うん」
「マジか! それってプラモとかでもいーのか?」
「それはちょっと、難しいかな」
プラスチックじゃ針が通らないもんね。
「ん? なんか前提条件があんのか」
条件……。
私の胸に、初めて魔法の針を受け取った日にお母さんとした約束が浮かんだ。
私は真剣な顔をしている颯太くんをじっと見る。
颯太くんには、これができるだろうか。
「条件はあるよ、一つだけだけど。絶対守らないといけない、大事な条件が……」
「大事な条件……?」
ごくり、と千山くんののどが動いた。




