第五話 ギプスと見えない傷 (1/5)
「みことー、首は大丈夫ー? お母さん行ってくるからね。ご飯出してあるから早めに食べなさいね」
お母さんの声がする。私は布団の中から眠たい声で答えた。
「んー、大丈夫ー。はーい、いってらっしゃーい」
時計を見れば、いつもなら学校に向かっている時刻だ。
今日学校は臨時休校らしい。
警察が写真を撮ったり、指紋を取ったり、先生達が片付けをしたりするとかで、一般生徒は一日立ち入り禁止になっている。
確かに、窓ガラスも割れてたし、結構派手に散らかってたもんね……。
靴下で校舎に上がっていた千山くんは、割れたガラスの破片で足もちょっとケガしてたみたいだけど、私はセオルに言われて靴を履いてたので大丈夫だった。
「みこちゃん、おはよー?」
「……うさぎちゃん、おはよう」
うさぎちゃんの頭を撫でる。そっか、昨日は一緒に眠ったんだ。
「マイレディ、よく眠れたかな?」
セオルは私のベッドボードの上で、短い足を組んで座っていた。
「うん……まあ、ぼちぼちね」
体を起こすと、ちょっとだけ首が痛かった。
元気に動き出す気にはなれなくて、布団を巻きつけたまま座り込む。
ふわぁと大きなあくびが出た。
眠いのは仕方ない。だって昨日私達が家に帰ってきたのは十一時に近かったから。
あくびで滲んだ涙をこすると、目の周りがヒリヒリしてまだちょっと腫れぼったい。
昨日はいっぱい泣いてしまったから、これも仕方ないか……。
あんなに泣いたのはいつぶりだろうか。
私も千山くんも、昨夜はあれから警察の人に話を色々聞かれて、病院にも行かされたし。
養護の先生も校長先生も教頭先生も担任の先生も学校に来ていた。
職員室はあの爆発があった一帯がベタベタびしょびしょになったらしい。
あ、でも、千山くんが写真はセーフだったって言ってた。
昨日、妹ちゃんのプール写真は職員室にあったらしいけど、私達がコーラ爆弾をほとんど捨てたから、被害は職員室の端の方だけで済んだんだってさ。
爆弾から職員室の大部分を守って、犯人逮捕にも協力したんだし、これはもしかして表彰ものなのでは? なんて、私はちょっと期待したのに、警察の人と教頭先生には、今後二度と危ないことはしないようにってガッツリ叱られてしまった。
私だって、千山くんがあんな無茶しなければ、こんな事絶対しないのに。
でも校長先生からはこっそり、職員室が全部やられてたら大損害だったから、とっても助かりました。とお礼を言われた。
これは結構……ううん、ものすごく、嬉しかったんだよね。
「みこと、まだ眠ければもう少し寝ていてもいいんだよ?」
苦笑するようなぞうさんの声に、私は自分の腕の中を見た。
ぞうさんは、昨夜駆け付けたお母さんがすぐ預かってくれて、私が警察の人たちから解放された時にはケガしたところを全部縫い合わされていた。
ぞうさんが「もう大丈夫だよ」って笑ってくれて、私はホッとしてまた泣いてしまった。
「仕事道具持ったまま来ちゃったけど、役に立ってよかったわ」と笑ったお母さんが、私には神様みたいに思えた。
「ぞうさんは、もう本当にどこも痛くない?」
「もちろん」
ぞうさんが私の腕の中で元気に腕を振り上げてみせる。
その姿に、私はもう一度腕の中のぞうさんを優しく抱きしめた。
私がこうやって今、ちょっと首が痛いくらいで済んでるのは、全部セオルとぞうさんのおかげだ。
ううん、すぐに警察を呼んでくれた咲歩や、ぞうさんを助けてくれたお母さん、それにお母さんをすぐ学校に向かわせてくれたうさぎちゃん。みんなのおかげだ。
千山くんは……まあ、あれからめちゃくちゃ謝ってくれたし、悪気がないのも知ってるし、今回のところは許してあげることにする。
セオルは何やら物騒なことを言ってたけどね。
どっちにしろ今日はお休みだし、明日と明後日は土日だから、学校で会うのは月曜日だ。
私はお医者さんが「念の為に」と付けてくれたギプスに苦戦しながらパジャマを着替えた。




