第五話 ギプスと見えない傷 (2/5)
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「おい、聞いたか、コーラ爆弾事件」
「何それ」
「コーラ爆弾って何だよ」
「コーラって爆発すんだぜ、知らねーの?」
「俺、夜警察が学校に来てたの見たよ!」
「知ってるか? 五年生の中に犯人を捕まえた奴がいるって噂」
月曜日、学校は『コーラ爆弾事件』の話でもちきりだった。
あの一件は、どうやらそう呼ばれることになったらしい。
下駄箱のところで千山くんが靴を履き替えていた。
「いてて……」
大きな独り言が耳に入る。そっか、足の裏もケガしてたもんね。
そこへ、三組の男子がやってきた。
「なんだ千山、何でそんな全身ケガしてんの?」
それからハッとした顔で、慌てて声をひそめる「まさか、噂の五年ってお前……」
「転んだ」
千山くんがいつものようにぶっきらぼうに答えると、声をかけた男子は「だよなー。ダッセー」と笑って千山くんの肩をべしんと叩く。
千山くんは「ってーなぁ、ケガ人にはもっと優しくしろよ」と文句を言っていた。
どうやら千山くんは他の人に言う気はないみたいだ。
まあ、私もあんまり騒がれても困るし、自分から言うつもりはないけど……。
三組の前を通ると、私より前に来ていた咲歩が「みこちゃん!」とかけてきた。
「首は大丈夫ですか?」
「うん、もうほとんど痛くないよ。ギプスが邪魔なだけ」
このギプスも、今日病院に行けば外してもらえると思う。
お医者さんも「念の為、次の受診までつけておいてください」って言ってたし。
「よかったです」と咲歩はホッと息を吐く。
咲歩は昨日も一昨日も、お見舞いと言ってうちまでお菓子やお花を持ってきてくれた。
どうやら、咲歩なりに私がケガをしたことに責任を感じているようだ。
その気持ちはぞうさんの事で私も良く分かるから、気にしなくていいよなんて言うより、咲歩のためにも早く元気になろう。と思う。
「あ、わたしより、千山くんが結構あちこちケガしてるからさ、なんか困ってることあったら助けてあげて」
「千山さんは、みこちゃんたちを危ない目にあわせた原因なんですから、ちょっとくらい痛い思いをすればいいんですっ」
咲歩は私の話を聞いてから、ずっとこの調子だ。
事実しか言ってないとはいえ、千山くんの恋心を考えるとちょっと申し訳ない。
ごめんね。千山くんのカブ、下がっちゃったかも。
咲歩と別れて自分の席に座ると、斜め前の席から谷口さんが話しかけてきた。
「樹生さん、その首どうしたの?」
「ああ、ちょっと痛めちゃって……」
珍しいな。谷口さんが声かけてくることって、あんまりない気がする。
「何かあったの?」
「え? な、なんで?」
言い訳を考えてなかった私が思わず聞き返すと、今度は谷口さんが慌てた。
「あ、ううん。どうしたのかなって思って。その、樹生さんたち内野さんの写真をとった人を探してたでしょ?」
「うん」
「それと関係あるのかなって……」
「あー……。確かに、関係あるって言えばあるかな」
私たちは違うってわかってたけど、千山くんはあの不審者さんが写真をぬすむかもって追いかけたんだもんね。
ん?
そう考えると、千山くんのケガは私たちにも責任があるのかも?
だって、私たちが知ってることを千山くんに全部伝えてたら、千山くんはあの不審者を追いかけたりしなかったんだし……。
「……やっぱり、そうなんだ……」
谷口さんの声が少し震えた気がして、私は顔を上げる。
「じゃあ、三組の千山くんのケガも……?」
え。えっと……。これって私が頷いてもいいのかな?
私が返事に詰まっていると、ガラッと扉の音がして先生が入ってきた。
「皆さん、席についてください。今日はこれからテレビ放送で校長先生から大事なお話があります」
そう言って、先生はテレビの電源を入れる。
校長先生の話というのは、まさにコーラ爆弾事件の事だった。




