第四話 夜の学校と爆弾 (4/4)
どのくらい待っただろうか。
「……破裂しねーな……」
千山くんの言葉に、私も「ほんとだね」と答える。
「そんなにギリギリの退避では、安全とは言えないからね」
「ってことはまだ間に合うんじゃねーの?」
言うが早いか、千山くんは駆け出した。
「いけない!」
セオルが叫ぶ。
私は、千山くんを連れ戻そうと慌てて走り出した。
千山くんの背中に手を伸ばして、服が指先に触れた時、すごい音がした。
何かが顔に当たって、私たちはまとめて廊下の壁に叩きつけられた。
私の顔に当たったのは、千山くんの背中だった。
爆発、したんだ。
頭がくらくらして、真っ暗で、息が苦しくて、右も左もよくわからない。
「ってぇ……! っ、悪ぃ! 樹生さん大丈夫か!?」
私の上から重い何かがどいて視界が開けた。息が楽になる。
「マイレディ、頭を揺らしてしまったようだね。急に動くと危ない。ゆっくり、起き上がれるかい?」
あ。セオル。
千山くんも心配そうに覗き込んでいる。
よかった、千山くんも無事みたいだ。あちこち小さな傷があるのは、爆発で散った瓦礫の破片だろうか。
血が出てる傷もあるけど、大丈夫かな……。あ、でも顔は怪我してないみたいだ。
セオルの言った通り、職員室のボトルに近かった場所の窓ガラスは割れてそこらじゅうに飛び散っていた。
「え? は? さっきから喋ってんのって、これ……セオルのぬいぐるみじゃねーのか!?」
「ようやく気づいたのかい?」
「お、俺頭打ったから……? いや、打ってねーな。じゃあまさか、今の爆発で俺は死んで……!?」
「君は生きているよ。だが、君の軽率な行動のせいでマイレディもボクの仲間も大変な目に遭った。この責任については後程しっかり問わせてもらうよ?」
セオルは冷たくそう言うとまた窓際に飛び乗って……叫んだ。
「いた! 犯人だ!」
千山くんが窓に飛びつく。
「どこ!?」
「あそこだ」
きらり、と月光にセオルのかざしたステッキが光る。
下では警察官が数人校内に入ろうとしている。
けれど校舎に沿って校庭の隅を走る黒づくめの犯人に警察達は気付いていない。
すうっと千山くんが息を吸う音がして、私は反射的に両耳を塞いだ。
「おまわりさんっっ!! 校庭!! 逃げている奴が犯人だ!!」
千山くんの声が校庭中に響き渡る。
警察官が手にしたライトを校庭に向ける。
照らされて、犯人が飛び上がる。警察官が走り出す。わぁ、速い……。
犯人は必死で逃げていたが、フェンスをよじ登ろうとしたところで追いつかれて、警察官たちに取り押さえられた。
ホッとして私は視線を校内に戻す。あれ? ぞうさんは……?
「立てるかい?」というセオルの声がした方を見ると、そこには廊下にぺしょりと潰れた何かの塊が……。
「ぞうさんっ!?」
ぞうさんはお尻と背中のところが大きく裂けてわたがのぞいていた。
「……みこと……」
ぞうさんの声は、とても小さかった。
どうしよう。どうしたら……。
私は震える手でポケットからハンカチを出して、ぞうさんのケガしたところを包んで結んだ。せめて、わたがこぼれないように。
「ぞうさ……」
涙が溢れてきて、息が詰まる。
「そう、か……そのぬいぐるみも、樹生さんのだったのか……」
千山くんが、爆発の時このもふもふが顔にくっついてきたと説明した。
千山くんの顔にケガが無かったのは、ぞうさんが守ったからだったんだ。
「ぞうさんごめんっ。ごめんね……。ぞうさんはダメだって、危ないってずっとわたしを止めてたのに……。わたしのせいで、こんな……」
涙がぽたぽたと落ちて、ぞうさんに結んだハンカチに吸い込まれる。
「みことが無事ならいいんだよ……。うさぎちゃんが心配してる。家に帰ろう……」
ぞうさんは小さな声でそう言って、私の手を撫でた。
「マイレディ、警察が上がってくるようだ。ボクはランドセルに入らせてもらうよ」
セオルはそう言って私の背中側に回る。
ランドセル……? そっか。私が壁に当たっても、頭や背中を打たなかったのは、ランドセルのおかげだったんだ。
「みこと、首は痛くないかい……?」
ぞうさんが弱々しい声で、それでも私の心配をする。
「い……痛いのは、ぞうさんの方だよ……」
「確かに、今痛くなくても、マイレディにはむちうちの症状が出るかも知れないね。むちうちというのは……」
セオルがむちうちの説明をして、それから千山くんにも傷の中に瓦礫の破片が入っているかも知れないので病院に行くようにと細かく指示を出している。
「ぞうさん、本当に……ごめんなさい、痛いよね……」
すぐ家に帰って、ぞうさんを治さなきゃ……。
でも、縫うために針を刺したら、ぞうさんは痛いんじゃないかな。
でもこのままじゃずっと痛いままで……。
「痛くないよ……。僕は……ぬいぐるみ、だから……」
ぞうさんは今にも途切れそうな声で、優しくそう言った。
そんなの嘘だよ。
だって潰されたら苦しいって言うじゃない。
うさぎちゃんに尻尾引っ張られて、痛いって言ってたでしょ。
痛くないはずなんか、ないよ……。
「樹生さん……、ぞうさんと、セオルも。その、本当に、ごめん。俺が……」
「君たち、大丈夫か!?」
千山くんの声を遮って、二階に上がってきた警察官のライトが私たちを照らした。




