84話
魔王ご謹製の情報サポートツールな[トウテツの壺]。
その機能の一つである、サポートユニット創造生成。
それがエルフとフェアリーの作り出した機能の名称。
考えてみれば、短時間の間、魔物を作る機能を披露したのだから、そう驚く事でも無かった訳だ。
自意識はほぽ無し。有機質系の体組織で構成された生命としての機能は十分に有していても、その精神面での存在はAIとも呼べない稚拙な活動管理機能を持つだけのロボットのような物でしかない。
生命活動中の間はその機能を維持しようとする意識は持つ。
だが生存本能とも呼べる程強くもなく、自己防衛の面では皆無とも聞いた。
まぁ、基本的に安全な場所で使う仕様なのだから、別におかしい部分でも無い。
また創ったあとの処理に関しても聞いた。
どうも……作動中の品質は魔力的な補修が常時機能し、ほぼ永遠に使えますな感じだったので。
そのくせ、使用者がその環境を離れる時点で魔力的な繋がりは遮断するらしい。つまり燃料補給も絶たれる。其の時点で、其の個体の寿命は終了だ。
大概は魔素へし還元されて塵も残さず消える事になる。
まぁ、あまり感情面での共感性を築いていい相手でも無いと言う訳で。
今回は場所が人柱の塔内な事もあり、魔素の濃度はもの凄く異常。クス代の計算だと放置しても三時間程度は活動可能なのだとか。
ただし、一度切れた魔力のパスの再接続は無理なので、どっちみち崩壊するのは同じらしい。
……序でに……、魔素のみを素材に創るのが基本なのだそうだが、どうもクス代の気遣いが無駄に発揮された感じらしく……、あの二体の素材には[収納]内の余剰廃棄物を使ったな……事後報告が。
確認してみる。
……ああ、確かに、在庫カウント数が五体ほど減ってるねぇ。
うん、確かに、俺の意識としは廃棄物だなぁ。
ただ、捨てるとは決めてても、埋葬くらいは必要かなあとは考えてたつもりだったのだが。
実の所は、案外ドライに何時でも何処にでも捨てようの精神だったらしい。
つまりの答え。
エルフとフェアリーを各一体ずつ作成するのには、人間の死骸が五体前後を消費する。と。
……ふ。また無駄な雑学を知ってしまった。
せめてな、素材的に等価交換で一体分から一体で、そして生前の意識とか復元できたら「やぁ、君はちょっとTSったけど生き返れたよ」な解釈も可能だったのに。
実に残念。
……え、まだ生存中の個体なら其れも可能とな?
ああ、瀕死で収納中の奴も数体は居るんだった。
そうかそうか、此奴らが素体なら其れも可能と。
……いや、しないから。
折角生き残れた彼、彼女等は、そのまま何処かで放流するから。
ただ、そのチャンスが今は無いから保留してるだけだから。
そんな訳で、魔術士たちのサンプルとして活躍中の彼女等の未来は消滅で確定。
むしろ、僅かでも存在するらしい自我を育てる愚策とか踏みたくないし。
サラリーマン時代の定時行動に習ったわけでも無いが、その日塔から出るタイミングで処分はした。「ああっ」と周囲から残念がる嘆きが聞こえたが知らん。
欲しけりゃ自分で創ろうな精神でヨロシク。
あと、もう勝手に死骸を素材にはしないようにとクス代にも釘を刺しておく。
仮に数年先まで死蔵となっても、其れは其れでの判断なので。
エルフたちを消したのは、ちょっと最近気になる部分もあったため。
どうも……この世界に来てから周辺に増える知人友人の類いが女性に偏っている気配を感じるから。
これはアレか。異世界定番アレ。
異世界補正かチートか知らんけど、ハーレム要員の追加導入の作用だろうか。
単純にキャバ嬢が増える程度なら、その補正は許容範囲なのだがな。
しかし現実は……ちょっと個性と評するには難易度の高いぶっ飛んだ性能の者ばかり。
しかも俺の好みからは微妙に配球が外されたデッドボール的な存在ばかり。
此処で直球の肉人形の追加とか。
全力で避けようの精神は当然の判断でしょう。
と言うかなぁ、成長変身少女、獣人娘、喪女商人にヒモ入りOKな婆さんと正直、色物チョイスしかされてない感じもある。
何処の運命が悪戯してるのかが謎だが、悪質なのだけは良く判るレパートリー過ぎて……。
此処は、一度ハッキリと、自分の好みの対象を実例としてあげといた方が良いのかと不安になった俺である。
……行くか。夜のお店。
行く理由が運命への反逆のための妥協って部分が、我ながら非情に情けない理由だが。
だが、前世のピンクのネオン街に該当する異世界に到着する前に大いなる生涯に出会ってしまった俺だった。
これも運命の悪戯か?
久しく合ってない神様経由の作為の結果か?
[おでんのキタサブロウ]
ピンク街手前での飲屋街の外れで、そんな看板を見つけてしまった俺が速攻で予定変更したのは、まぁオッサンホイホイに掛かったな精神にて。
高層建築主体の魔導国では建物の外見で中身の店を想像するのは無理に等しい。
そのため結構目立つ看板が各店舗の自己主張として在るのだが、全ての店が似たような事をすれば結局は情報の海に沈む感じで目立たなくなる。
実際、過去に何度か通った事のある道の筈なのに、今日の今日まで気付かなかった。
たぶん、時間帯も大きい。
昼間から夕方だと、日陰の出来やすい路地だと文字の判別も難しくなるし。
だが今回は、完全に夜の街。
むしろお泊まりの可と意気込んで来たので、時間的には夜中に近い。
だからか、看板の多くが前世の世界よろしく煌びやかにライトアップされるって仕様も初めて知った事だったので。
だからこそ、目立った「おでん」の文字。
しかも完全に日本語表記。
序でに場所が三階なせいだろう、雑居ビル風の階段のみの入り口ではなく、その階の窓枠に飾る感じで設置されてる暖簾の演出。
何処を起源にしたものかは知らんが、明らかに異世界日本に関連するものな判断はつく、其れ。
なんかもう、警戒心とかが霧散するレベルで其の店に誘われる感性が止めらんなかった。
キャバ嬢、デリ嬢、そんなもんは後で。
道端のお嬢ちゃん方、誰か別の拾う神様を充てにしておくれ。今日の俺は捨てる神してきたので。
入り口を潜り、直ぐに階段を上る。
一階分を上がっただけで「ふわん」と実に懐かしい香りが鼻に届く。
おお、これぞ懐かしき……っ、関東風か?
微かに魚介の独特の臭気の混ざる出汁のもので。
もう一階分上がると、今度は目当ての店の扉が。
表の看板と同筆の書体で書かれた店名が、藍染め風の暖簾に染められているもので。
実に中々、芸が細かい。
はっきり、カツオ出汁の香りも感じる。
むしろ濃すぎる程に。
建物の仕様上、バーかスナックの扉に近い其れじゃなく和風赤提灯の引き戸とかならもっと強く香っただろうか。
ここまで、自分以外の異世界風味の演出も初めての事。
ちょっと、自分でも呆れるくらいに期待が膨らみ、ガチャリとドアを開ける手が震えた。
……そうして。
「へいっ、いらっしゃい!」と、野太いダミ声で威勢良く迎えられる。
よかった、此処で美人女将の登場とかなら一瞬でマジ惚れする自信があったから。
内装は純和風のカウンター式。
白木作りの其れは寿司やで見た方が親近感の湧くやつで。
そして、何故かそれまで鼻腔を誘惑していた香りが数倍に濃度を上げて、むしろ濃縮されすぎて目が刺激に涙する程にと変化して……。
「創業三年、初のお客さんは運が良い、丁度煮込みに煮込んだ伝説の三年出汁が食べ頃だぁぜ、お客さん!!」などと素っ頓狂な出迎えを食らったりして。
「馬鹿野郎っ、関東風なら継ぎ煮しても三日だド阿呆ぅっ!」
つい、脊椎反射で食の冒涜者を物理的に成敗してしまったりな顛末である。




