82話
冒険者ギルドに何時か討伐報告とその証明部位の提出をしていたら、ようやっとランクが一つ上がった。
これで一応、Cランク。
冒険者としは一人前な扱いになるそうで。
そうなったからな訳でも無いだろうが、担当してる受け付け嬢から妙な要望を請われた。
……「特殊加工済みの肉素材の納品」とな?
なんでそんな妙な案件が俺に来るのか?
冒険者ギルド関連の仕事でそんな職人気質の依頼など請けた記憶は一度も無いのだが。
そう聞くと、なんでも近隣都市部のギルド支店経由で「ショウガ納品の食材を求む」な広域依頼が出てるのだとか。
……はて?
単純に食材って意味でなら最近もちょくちょく出している。
フィンカの暴れ祭りの犠牲し……いや、魔物の在庫が洒落にならなくなったので。
と言うか、どうも周囲から俺の社会的地位を学んだフィンカが、「魔物ぶっ殺して上納すればパパが偉くなる」な主張をするので……仕方無く。
可愛い娘の要望には逆らえない精神と言うか。
結果的にでも、その成果を「パパ使え」と出してくるとこには応えんと、と言うか。
象数頭分のブロック肉とか、よく毎日毎日、価格破壊も起こさずに受け取るなと思ってたんだが……、更に妙な食材を求めるか。
業が深いなぁ、冒険者ギルド。
まぁ、何かの勘違いかと詳細だけは聞いてみる。
すると……、ああ、聞くんじゃ無かった。
最近は懐かしき、味付け武装でのアナフィラキシーショックかケミカルショック死させてた魔物の肉。
あれは味付けが伝染する感じに辛味成分の付いた肉とかになってたようで。
それをせっせと納品してたルビアルテの町経由で、周辺域にブランド肉な感じに広まっていたらしい。
……こっちに来てからは真っ当な冒険活動も増えたし。
特に最近はフィンカが代理で討伐する流れなので、市場(?)ではすっかり品薄で高騰化してる始末なのだとか。
……正直、「知らんがな」の問題で。
俺としては普通に納品してただけだしー。
それに勝手にブランド価格を設定したのはギルドだしー。
しかも、どうやら冒険者ギルドの共有情報にしないでルビアルテの支店で独占してた感じだし。
ブツが尽きかけてから各支店に泣きつくとは……、まぁ、人間味が実に深いな感じで。
流石は自称の交易都市。恥も外聞も損にならん程度に無視する頑健な精神の連中。
と言うか、さらっと「納品か帰還か、若しくは帰還要員の派遣か」な面倒な追記も混ざってたり。
特に最後の要項が酷い。
要するに捕縛人員を送る、な宣言だし。
……まぁ、当初の予定をぶっちした感じにしてるのはこっちだが。
しかしだ。
冒険者は根無し草の放浪者。
別段、特定の町に縛られる由来も無い訳で。
もし送られて来たら全力で排除しよう。
と言うか。
此処はより強い権力に丸投げもいいか。
魔術士ギルドにでもチクって盾にしよう。
今はどう考えてもあっちの方の優先度が高いし。
収入源としの格の違いとか、段違い過ぎだし。
……しかし、俺の皮算用は思案内容が浅かったようで。
魔術士ギルドに最低限の情報を流したつもりが不思議と味付け肉の方まで話が伸びて……結果的に、その「不思議食材とはなんぞや?」の探求心に火をつけたな感じに。
危険を感じて逃げようとしたら師匠という追手まで手配され、あえなく御用。
結局、[万色の調味能]を存分に使っても問題無い場所、つまり人柱の塔まで連行されての実験三昧となったり。
……何と言うか、見事な藪蛇。
とは言えだ、最初こそチート能力の産物で始まったが、十分な種類のスパイスさえ有ればこっちの世界でも可能な加工食品なのだ。
美味いと感じる感性さえ有るなら、別段、俺が手がけなくてもいい案件な訳でっ。
……ああ、「実に興味深い精製変化の実験」ですか。
いえ単に調理の世界の話で……
……え、「腐敗及び性質変化の乏しい魔物肉の効率的な変性手段の実例」っすか?
「現物での例が有るなら、それをサンプルにしての再現実験への足がかり」と。
……要するに、「もっとブツをよこせ」と。
ヤバい。
これ、マジ物の藪蛇だった。
現状、魔導国存亡の危機の案件背負ってる連中の筈なのだが……、それ以上に知らん事への好奇心だけは高い研究馬鹿だったらしい。
と言うか、味付けといった意味でなら調理段階でも済む工程なのだが、それを素材の段階で付加する部分が連中の研究精神を燃え上がらせたようで。
どうも、魔物肉はそう言った部分に独特の法則が有る様子。
よく知らんけど。
しかも、この件に関しては誰も味方がいなかった。
味覚の洗脳が完了済みのミラテル嬢は言うも及ばず。
師匠に関しても程度は似たり寄ったり。むしろ、老い先短い方が生涯食事数の残りが少ない分、そっちに貪欲なようで。
結局、泣く泣く創ったさ。
現実にはあり得ない、食あたり成分皆無の完全な熟成肉。
細胞の一片一片にまで浸透したニクニク醤油風味の漬け肉。
味噌風味、カレー風味のバリエーションも有り。
日本人的には敬遠しがちなフルーツソース風味も多数。魔物肉は臭みの少ないので必要無い処置でもあるのだが、単純に甘さを増した肉は熟成肉が好まれるのと同じ理屈で好かれるようで。
また、庶民には既に浸透済みのくず肉利用な加工肉も暴露させられた。
特にモツ煮系が。内臓肉は新鮮でないと食す機会は減るし。屠殺の現場とは縁遠い最高峰の魔術士たちには未知で独特の食感だったようで。
仕舞いには塔内に蓄獣まで連れてこられての解体ショーが始まったり、何処で用意したな感じの魔物まで持ってくる始末。
……いつの世も、何処の世界でも権力者の行動力は半端ない。
ああ、小さいながらも独裁国家との商談でそんな経験もしたっけなぁーな走馬灯が脳裏を過ぎったり。
出された珍味の食材に関しては絶対に黙秘する。
と言うか、今更だが記憶から消えろ。
何故思い出した、俺。
忘れた方が幸せだったと、思い出さない頃の感性が身をもって証明した内容だと言うのに。
ともあれ、この状況になったら嵐が沈静化するまで耐えるしか無いのは……前世で散々に経験済み。
ただ黙々と、自分は食品加工の器械でごぜーますの精神で頑張った。
流石に魔導国の中枢貴族が集まる場所と言うか、随分大勢の参加者が実演を見学はするものの……全然、我が身に習得という方向には行かないようで。
ちくしょう、これだから匙と実験器具より重い物を持った事がない連中はっ。
援軍の期待できない状況で孤軍奮闘で頑張ってたつもりだが、気付けばサポート要員が二名、何時の間にか参加していた。
……いや、二名?
と言うか、二体?
一体は色白の肌で金髪、青い目、長い耳をした……エルフさん?
ただし、外見のイメージはそのものでもサイズがね、2/3スケールと言うか、子共や少女ではなく、成人の印象のまま小型化したような誰某さん。
もう一体は、此方は完全に人外ので。
サイズは1/12な人形大で、背にトンボが生やすような虫の羽根を生やし、其れで宙を飛んでるやつ。
いわゆる妖精、フェアリーだ。
俺が気付いたのに釣られて周囲の連中も気付いたようで、実に静かに、その場が沈黙に包まれた。
しかし、当人(?)たちは我関せずと、何時の間に習熟したのか俺に劣らないレベルの作業を続けていたり。
だがやがて、まぁ、当然のように驚きからの沈黙も破られて。
その場は新たな未知への喧噪が支配する事となったのである。




