81話
彼方を立てれば此方が立たずな感じにて、人柱の塔内に籠もる事が多くなったせいで、今度はフィンカの不満が溜まる。
流石に最高位の魔術士限定の場所に獣人奴隷の同行は無理だったので。
せめて食欲に関しては不満が出ないようにと、ミラテル嬢の私邸で食っちゃ寝でも可な判断も裏目だったようで。
同じく、新しいボス認定のミラテルが消えた事からポメたちの「フィンカがボスに返り咲き」と認識されたようで、常時付きまとわれる環境がストレスと化したらしい。
と言う訳で、色々便利な存在として主張してしまった俺が師匠とは無関係な魔術士から余計な面倒事をな部分を避けるために私塾へと避難したタイミングに合わせてフィンカも帰還し、一緒にいる間はずーっと片腕に抱きついてくる始末。
少女の其れの表現だけなら愛らしいとも感じれるだろうが、抱きしめるにしても全身で、もはや俺の片腕に貼り付いて浮いてる状況なので、非情に厄介でしかない状態。
序でに唸り声付きの噛み付きもある。非情に痛い。チートの耐久性が頑張って貫通には至らないが、肌の表面は確実に牙の形に凹んでるので。
さらに言えば、獣人の顎の力だ。筋肉や骨への負荷が体内の軋む異音として感じられるのでスゲー怖い。
……早く何とかしないと。
そんな定型文が何度も脳裏に浮かんで来る。
地味にエマージェンシー。
キッチンや通信機を作ったのが許可な感じで、暫くは冒険者家業に戻る事とする。
スケジュールとしては、三日冒険して一日人柱の塔に行く感じに。
本来はもうちょい平均な配分だったが、何にしても可愛い娘の優先度が高いので。
まぁ、冒険といっても内容はフィンカのストレス発散だし。
誰も受けない難易度の討伐系なら、少々地域災害な感じに被害が出ても許容範囲だろう。
少なくとも、フィンカの実戦の様子を見てるとそのくらいの覚悟が無いと不完全燃焼で終わるから発散の意味が無い。
また俺自身に関しても用事が無いでもない。
魔導国関係で怪獣サイズの魔物を相手にした時の多くが、魔王関係の魔物だったな記憶から。
意外と初代王関連での魔力のラインから外れた地点での遭遇の例もあるし、そのあたりの理由があったら知っときたいな精神でもあったので。
……そうして、一週間程動いてみての感想。
どうも……、魔導国関係の大型の魔物は、いわゆる魔獣型のタイプが多い事。そして、其の多くは古来より魔導国関連での高級素材を産出していると言う事。
どうも、初代王の慎重な気質が反映してるのは確実な感じのようで。
自分自身の消滅に関する問題でも、何かしら周囲に利益を生むような手筈を整えてたようで。
最初の討伐依頼は日帰りも可能だったが、連日暴れ続けると直ぐに遠征に近い感じになる。流石に大型の魔物を相手にの精神だと仕方が無い流れで。
野宿モードで二人きりな状況にフィンカの機嫌は回復済み。
此方は性格が単純な分、行動での結果も出やすくて実に助かる。
俺としても、久しぶりに一人飲みができる状況は良い感じで。
化学系の作業も増えて酒の出来がアルコール分高濃度の蒸留酒に偏り始めてたし。あまり宴会モードでガバガバ流し込む飲み方のもんじゃ無くなってたので。
焚き火を囲んで一人ちびちびと、が良し。
まぁ、個人的なイメージでの感想でごぜーますが。
肉の取れる魔物や地産の野生動物の肉が食事の中心。
バランスの良い食事も大事だが、時にはこうした極端な逸品物も良いもんで。
すっかり甘味に関する舌を鍛えたフィンカは、肉と同量の脂身を好む風になってたり。今は引き締まった体型だが……将来的にはやや不安な?
ロシア美女の食生活を彷彿させるな感じなんで。
さて、討伐をしつつ、その魔物の移動方向の確認や逆探も可能ならやっている。
其れにて二箇所程、魔王の墳墓らしき場所を特定した。
片方は……魔王関連にしても初代王とは無関係の場所らしい。
しかしもう片方は、ほんの僅かではあるが強く意識すると魔導国の方向へと魔力のラインが繋がっているようだった。
どうやら、付近の全ての物が初代王関係の線は無いようで。
また関係のある場所にしても全てが同じ品質で作られた物のようでは無いようで。
作った時期か品質か、魔物を創る工程に限度数が有るのかもしれないし、経年劣化で減少していく問題が有るかもな推測が出て来た。
現場の確認はしたが、特に処置の方向は無し。
其処は初代王の魔力消費システムの維持が優先だ。
ただし、うま味の有る魔物の発生しやすい地点な感じで冒険者ギルドには情報を上げておく。遺跡はともかく、魔物の放置はしていい選択でもないので。
もし魔物の発生が累積じゃなく補填なタイプだったら、これで魔力の消費ペースも上がるだろうな感じに。
遺跡の方は魔術士ギルドに提出。調査隊を出すも良し、そちらの判断で冒険者ギルドに破壊を指示するも良しの流れで。流石に、今の時点でまた別の魔王と関係する面倒は避けたい。
移動途中で、また隠れ里を一つ見つけた。
今まで発見してきた物と同じで、避難民が発祥の比較的新しい村だった。
開墾も進まず、生活の基盤は狩猟と養殖モドキの様子。
近くに沼地が在り、其処の生き物をある程度計画的に増やしてる感じのやつ。
驚いたのは、その中に貝類が有った事。
まぁ、淡水環境でもタニシとかの例もあるし。要は水中に近い環境で有機系の栄養に富んだ土地なら良いのであるし。最悪、カタツムリのように陸上を昆虫っぽく動く貝だって居る訳だから。
見せられたのはサザエに近い貝殻を作るもので、面白いのはその貝の中に鉄成分を含む事。
どうやら沼地の成分に泥鉱物が多いようで。水溶化した鉄分を貝が吸収し、殻の中の構造材として利用してるっぽかった。
村では、その貝殻を利用して鉄製品の作成すらしていた。
殻を焼いて砕き、更に熱すると見事なインゴットと化す。
いや、炉の規模が小さいから出来は玉鋼に近い。細胞に蓄積可能な程鉄成分が小さく均質化したサイズの……自然の研磨でなった砂鉄に近い状態なのが偶然の一致と言うか。
また低温焼成の都合でか鉄以外の補強鉱物成分も含まれているようで、それが上手い具合に配合された合金とも化していた。
たぶん、単純な鋼鉄よりも性能は良い感じに。
面白いので、民芸品レベルの武器と、その素材になったインゴットを幾つか鵜入しておいた。[収納]に入れたので、後でじっくりと鑑定しよう。
特に玉鋼。もし前世のに近い構造なら日本刀の素材に丁度良い。
玉鋼の場合は普通のインゴットと同質に語れない構造素材だからなぁ、例えるなら……普通の鉄のインゴットは必要素材を全部混ぜて溶かして均一化させたアイスクリームのような物。
対して玉鋼は、原料的には前者と同じでも、一度完全に凍られてそれを砕き、砕きに砕いて、小さな氷の粒となったものを溶かさないように集めて押し固めたようなもの。その違いが剣と刀に必要な条件の違いになるのだとか。
そんな感じの事を、日本で刀匠でいる制限を面倒と嫌って外国に行った匠から聞いた事がある。
概念としては知っているが、実際のところは全く意味がわかってない。
それを異世界で実感するのも楽しいって感じになれるかもな?
伝統工芸って意味では国内に居る事は大事だが、芸術性を持っての武器職人でいたなら、むしろ外国の方が自由にできる部分とか、妙に共通性も有るようだし。
とりあえず、異世界玉鋼製のダガーはフィンカのお眼鏡に適ったようで。
と言うか、同質素材の板金やら試し切りのマネキンやらをサックリと貫通させてる手腕には売り手の親父も目を剥いてたが。
ひょんな事から、新武装への更新ができたと言う事で。




