80話
魔導国全体を揺るがしかねない大問題。
その発端となるミラテル嬢は、とりあえず何を置いても、初代王である魔王と魔力的に繋がっているな危機的状況から人柱の塔へと強制移動に決定した。
人柱の塔は本来の機能として魔王を封印するために存在する。
其処ならば、魔力の繋がりが断てないながらも魔王側からの干渉の問題は避けられるかもな想定での判断で。
また、見ようによっては魔王自身の魔力を封印に直接回せるかな打算の案も有るそうで。
流石は魔術士。実験対象には容赦ない姿勢が表に漏れてる感じに。
そして俺だが。
当然のように依頼の案件は凍結だ。
少なくとも行動できるだけの根拠が生まれないと……やる事全てが裏目の懸念が大いに有るので。
だがしかし、何故か解放はされない流れで。
まぁ、今回の問題の中心に居たし、直の実行犯でもあるし、見た目が子共のミラテル嬢がウル目で俺を付き添い指定されたら……関係者に強制連行される流れにも妥協せんとならんのかなーっとな精神に。
と言うか、ほぼ確実に依頼者が変わるだけで、似たような依頼を押しつけられそうな予感も有るので。
とは言え、そんな状況で俺が最初にしたのは……結界内での魔道具創造。
ちょっと作成の域を超えたので。
と言うか構造の細かい部分など全く知らない[IHシステムキッチン]など「こんな機能のある謎機械ができろ」な感じでしか作れんわ。
こんなもんを作った理由が、塔内の食事事情が世間様から見ても独創的過ぎるやつだったから。
……すっかり、魔導国にあった旧態化学風味の食事センスは駆逐したと思ってたのに。
なまじ世間から隔絶された環境だったせいだろうか、いまだに現役で、塩素消毒液っぽい香りを醸すスープとかが提供されてる魔境だった。
……味覚改変済みのミラテル嬢が長年暮らした地は、既に彼女には許容できない拷問の塔と化してたのである。
そんな訳で。
地球産の料理を作れる環境を泣いて頼まれた訳でして。
其れを無下に断る気力は奮えない立場な訳でして……。
……いや、洗脳した責任とかは感じてないし、罪悪感も微塵も無い訳だが……。
ともかく。
何と言うか。
そんな、訳なのでっ。
とりあえず、試運転がてら大量の小麦粉の活用でパンケーキをば。
ふくらし粉の成分は皆無なので、其処を創造の部分で補間……も特になく、単にかき混ぜる時に十分過ぎる空気を含ませてで、済ます。
味のコクの方は卵にて。甘みを出すのにミルクもと思ったが、そちらはシロップの方で済むので。
と言うか、テストだテスト。
火加減の微妙な調整と馬鹿でも火傷無く安全な調理かせ可能と判れば良いのだから、今回は味の方を拘る理由は無い……と思いつつも。
途中から背後に感じる餓えた視線がそれを許してくれない感じに。
僅か一日、何かのヤクの中毒患者が如し奮える指先と病んだ視線は何たる事か?
……流石に此処まで貴族のお嬢様を調教した記憶は無いのだが?
すると、つまみ食いの一件以降不思議と所構わず背後に居る事の多くなったメイド隊の一人から御忠進が。
どうやら、俺の意識越しに覗き見した地球食レシピを実家総出での再現に奔走してたようで。
しかも魔術効果の影響で外見が変化し難いのを良いことに、一日三食どころじゃない試食も繰り返してたのだとか。
そんな訳で、我が知らぬ所にて立派な重篤患者が誕生していたと言うオチである。
ブツが違えど堕落の道はみな同じ。
大体傾斜52度くらいの下り坂?
さてと、関係者以外居れない筈の場所にメイドを見つけたのがこれ幸い、用意したキッチンの操作と慣熟担当者に抜擢しておいた。
当人もメイドの本分はあるのか積極的に覚える姿勢。
と言うか、たぶん。試作作成担当者で立派に共犯者な気もしてるので。
……因みに、何時までも「メイド」呼びもなんなんで個人名を聞いたのだが、「ただのメイドでございます」と素っ気ない対応で。
なんでも次に応対するのがこの当人とは限らないとかも追加で言われた。
……そう言えば。
メイドが複数といった記憶は有るが、個性に関してだと其の違いが非常に曖昧で。
結局、髪色が青っぽい灰色で色素薄い系の方なので、勝手に脳内で[0・1号]と呼ぶことにした。
「ゼロ・イチゴウ」呼びである。
「レイ」と呼んではいけない。
と言うか、アレを意識したとかは公言してな……じゃない。偶然である。偶然。
……何時の間にか意識の隅っこから覗かれてる感触が。
ミラテル嬢、今は単に調理のレクチャー中だ。
特に新しいレシピとか考えてないから。
おおっと。
鬱憤の溜まってる対象には失言だったか。
どうにもミラテル嬢には似つかわしくない黒い感情が噴き出してきたり……。
……これ、まさか魔王からの浸食じゃないよな?
まぁ、火加減を見る甘い系でなんか作るか。
今度はお嬢様の機嫌を取るだけの物なので小ロット、単品の想定で……。
ああ、アレが良いか。
専用道具は流石に無いから一番小さいスキレットで代用しよう。
やっぱり膨らし成分が無いので……卵白で代用。
予め混ぜた素材を適量投入し、弱火で焦げないよう匙でかき混ぜ続けて空気を含ませる。ドトロトロの感触がドロドロに、更にネトネトと化して匙を動かすのも辛くなるまで続ける。パステル風味の薄茶色なメレンゲと化すのが終わりの合図で。
最後に、匙を中央にして、そのまま練った物を持ち上げる感覚で上に引くと……、実際には持ち上がる事は無くメレンゲの角を生やす感じに匙が離れる。
すると、成功すればそのまま風船のように膨らみ始め、表面にひび割れを刻みながらも瞬間的に固まり始めて……、カルメ焼きの完成となる。
まぁ、やっつけながらも成功したようで。
これなら食感もカリフワの範疇に収まるだろう。
失敗して萎まれると、カリバキな歯応えを生む代物と化す事もあるし。
中々に職人気質を刺激させる菓子であったり。
前世での難民キャンプとかで散々実演した腕は、まだ鈍ってなかったようで。
少量の素材でボリュームのある見た目の食い物が好まれたんだよなぁ。
そんな連中から更に搾取するような仕事内容だったんだけど。
とりあえず、この面白パフォーマンス付きの実演調理はお嬢様の不満解消に貢献したようで。
一応は成功としておこう。
その後に、其れもメイドにレクチャーかよ、な想定外はあったが。
だがしかし。
この駄菓子作成を意識したのがある意味拙かった。
ひとまず満足したミラテル嬢から「ポン菓子とは何ですか?」な質問が。
ああああっ、同時代の同類だからつい連想してしまった。
だが此れは流石に道具が無い。
ポップコーンのようにスキレットや鍋で代用できるもんでもなし。やるなら特殊な圧力釜からの作成に……。
……。
……。
……結局、創るとこからになったよ。
多くは語るまい。
甘く下味を付けた大麦や小麦を密封した鉄釜に収めて熱するだけだ。
俺が知ってるのは、それが据え置きの先込め大砲のような大掛かりの器具で設えられてた物だと言う事。
中身がムラに焦げないよう回転しながら直火で炙られる鉄釜式の圧力釜。中は高圧力の中で熱せられ、最後にその釜の蓋が弾けるように開けられる衝撃で習慣的に一粒一粒が膨張した形に変化する。
その作成の様子が正に「大砲発射」なイメージなので「ポン」。
其処からの「ポン菓子」呼びが由来となる。
なんせ、蓋が弾けると同時に中身が散弾が如く吹き出すからね。子共の前でやったら面白い遊びの要素になること受け合い。
実は普通に圧力釜としても使えるので、ポン菓子に拘らなくても蒸し野菜風に重宝する調理器具だったりもする。
作動が非常に大掛かりだけどな。
さて……何回ポンポン鳴らしたかねぇ。
状況的には、結構緊迫感がある事態の筈なんだが……。
不思議と
俺の周辺はこんな感じですよ?




