74話
カッポカッポと馬車が行く。
荷馬にあたるものが馬じゃなくて山羊、しかもサイズは牛で、しかもバッファローのように長毛種のせいかモップの先にしか見えない異形の獣なのは置いといて。
とりあえず獣に貨車を引かせるものは馬車の単語で片づくらしい。
予定より二日早く到着した迎えの馬車は形は確かに馬車なんだが……、個人的な感想だけで物を言うなら馬車じゃない。
列車。そんな感じのものだ。
ジャバと呼ばれるモップ獣は、本来なら軍事物資を牽引するのに使用する超のつく高級家畜で一般が使用するものの何倍もの馬力を発揮するそうだ。
持久力も半端なく強力で、単体で攻城兵器すら引けるのだと言う。
それが三体。前世の港湾地で良く見てた巨大コンテナ規模の貨車を二台繋げたものを引いて来た。
空荷という訳で無く、七割を何かしらの資材で埋めてきた。
采配したミラテル嬢によると身元の怪しい飛び込み商隊登場の偽装が半分、もう半分は自分直下の調査団で此処の情報を得るための撒き餌という事で。
そして一週間程活動した後に、ポメ達を回収して帰還となった訳だ。
実行隊出発後の変更としては、其処に俺たちの帰還も加わった事。
しかし元々獣人を15人も連れ帰る予定だったのだから、あと数人が増えても誤差の程度となる。
今回は移動も早く済んだようだが、旅程はその逆の方が本来は多いのだし。
ならば必要な消耗品にも余裕は必須となる訳で。
……最も、俺の収納を知る物には非情に虚しい苦心でもある訳で。
積まれた荷の大半が食料とは無縁の何かだった部分には、ミラテルの細やかな意趣返しが有ったよーな気がしないでも無いでもなかったり。
まぁ、実は今問題と感じている部分は其処でも無い。
カッポカッポと馬車と進む。
行き先は魔導国。
根無し草の俺には、いまだに行きずりの町なれど。
自然と湧いた縁故に、今の帰郷の地にあたる場所也。
行きの偽装を脱ぎ去った貨車の中は、大人数が十分に寝泊まり可能な客車になっている。
野生を捨てたポメの子等は、昼間は騒ぎ夜は爆睡と普通に人の子と変わらぬ生活リズムへと調教済み。
同行者としては、五月蠅く落ち着かぬものの、まぁ許容の範疇に含めれるもので。
だが其の中に、何故売り主となった女店主までが含まれているのか?
此方のでっち上げた売買契約の書類に嬉々とサインし、拘束も解かれ、見送りすらされたよーな気もするのだが。
何故か帰還の半日後。移動途中の休憩で飯の準備を始めていたら獣人等に混ざってたエイギーが居たり。
そして俺以外の誰も、其処に不思議を思うやつが居なかったり?
極自然に問うてみたら。
「契約書は支店に保管してありますから後任が管理しますよ」と見当違いの返事しか来ないし。
意識越しでの依頼者への疑問も。
「流石に生後数ヶ月の子等の面倒が、フィンカちゃん一人で管理できるとも思えませんが?」と逆に何故俺が不思議に思ってるかを不思議がられたり。
いわゆる、要するに。
種族を超えた女性特有の共感能力の元で共有された重大な情報の部分だけ、俺にまるまる伝わらないまま、あの奴隷売買契約は成されてたようで。
ポメ獣人。
正式名称はポメラニアンでは無いので、正確には[サンピット系]ポポ族の子共ら。
この小型犬似の獣人は多産が特徴で、成人しても人間の14~15歳程度の体格ながら一度に最大20人を産んだ記録もあるそうで。
母体の神秘と現実を見ない解釈は置いといて、産後直後の胎児は正に猫の子のように大人の掌の半分にも満たないサイズでとなる。
それが僅か数日で人の胎児並に巨大化な成長を遂げ、二週間も過ぎれば立ち上がり初める。今の姿になるだけなら一ヶ月で十分なそうで、離乳どころかほぽ授乳期すら無いのだそうで。
大体、生後半年間の間に触れた環境を、其の群れの性質として本能に刻むらしい。
しっかり遺伝の対象のようで、案外獣人奴隷の中では管理しやすいのだとか。
ただ、当然のように後天的に覚える習性とは無縁の話。
具体的には、幼児関連の下の世話。
此方は人間種なら数年は面倒みないとな部分を、一年程度は、親か飼育者が管理してやらないと生活の場が色々とキチャナイ感じに汚れてしまうそうで。
エイギーはそのあたりの世話役として着いてきたとか何とか。
まぁ、確かに。
其処そこ広い客車内とはいえ閉鎖空間でお漏らし放題勘弁か。
店では普通の服のみだったが、今は全員、オムツ着用でコロコロ転がってるし。
因みに、素の容姿だと長毛で汚れやすい性質状、頻繁に水浴びなどが必須なのがこの種唯一の欠点だとか。
そう言えば毎日のように風呂には入れてたなぁと、ポメ獣人の日常生活の一端を思い出す。普段はあれで清潔性を維持してたと言う訳か。
この子達は時期的にもう半年は自分での管理は無理だそうで。その間をフィンカが親代わりに動くってのは確実に無理だ。
うん、納得した。
そしてエイギーとしては子共の管理を外れたら、今度は魔導国に支店と言うか、事務の窓口を置く算段とかのたまっていた。
なんとも自由な感じで。
このくらい無法の雰囲気で会社が維持できるなら楽だよなぁ。
俺の感性での会社では絶対無いのが問題だが。
旅の様子は……まぁ、移動幼稚園の一言で終われる内容なので割愛しよう。
せいぜい、旅の間に一匹か5~6匹が勝手に冒険心ょ発揮して迷子モードとならないよう、リード必須の拘束生活にプーたれてたくらいのもので。
其の様子を脳内で「はぁはぁカワユス」な感想つきで悶えてる未来の飼い主。
喜べガキ共、君ら愛玩物の未来は明るいと思うぞ。贅沢の上限が無い飼い主だしな。
……ああ、ミラテル嬢。
身内回りでも「生類憐れみの法」っぽい暴君は避けるようにな。
あれ、いろいろと面倒な不幸の原因になるし。
まぁ、既にフィンカ親分による上意下達の支配階級制度は確立してるんで問題無いとも思うのだけど。
そんな感じで、魔導国へと帰還。
手続きは恙無く済む。晴れて新たな飼い主がポメ共と対面。
今度は子共化した姿のミラテル嬢が毛玉の群れに埋もれていた。
どうも現状、主従関係の成立は成っていないご様子で。
だだっ広い敷地には何時の何か幼稚園のような建物すら建っていたり。
一応、サンピット族も獣人の端くれなので護衛任務も可能だそうだが、どうも用途は愛玩一択の感じらしい。
群れのボスとの別れに悲しむ子達の様子は、お約束の一場面。
たぶん明日には何でも無い記憶に落ち着くので問題無し。
逆にネコ科の気質のフィンカは、ようやっと五月蠅い環境から解放されて大満足。
今までお姉さんぶってた反動か、俺への幼児化したような懐きっぷりが再来してたり。
そんな感じで、今回の二次調査は妙な感じに終了した。




