72話
唐揚げのお代わりが更にもう一度追加され、流石に一度の食事量としては腹の許容量も超えたためか、ポメの毛玉がコロコロと毛毬が如く丸くなった惨劇の頃。
ようやっと目覚めた店主は、そんな惨状に換気の悲鳴で再び意識を飛ばしかけたり。
お約束とばかりに後頭部にチョップを入れて正気に返せれたのは幸いなるかな。
正気の精神でこの状況を見て、案外冷静な対応をして来たのには素直に感心の気持ちで。
拘束付きでも平然としてる部分み含めて、だな。
彼女の名は、エイギー。
ミナトモ共和国出身の奴隷商人で、此処は彼女の師の店の支店に当たるものとの事。
ちなみに店名の「クロマニャオン」には特に意味は無し。
むしろ経営者を連想させない感じの意味で付けられたのだとか。
奴隷商会は合法の存在だが、多少でも意思疎通が可能な者が商品な都合、様々な方面に変な恨みも買いやすいのだとか。
また彼女の南国風……と言うか、混血の進んだ黒人系の容貌は出身地を代表する主要人種のもの。ただし、此方の地方では異邦人認定確実のもので、周辺部では目立つ有名人な扱い。
ある日、パッと消えたら……。まぁ、それだけで話題のネタを生む存在との自己紹介。
……結構、荒事には慣れた感じの人物のようで。
現在はこの地域を中心に、珍しい獣人の売り込みの最中との事。
しかし、使い勝手の良さげな奴隷は即効で売れて今あるのは残り物のポメ獣人の幼体のみ。
しかもこの子達は、本来の売り物だった親が何時の間にか産んでた現地産の未登録個体で商会としては売れないもの。
何より基本的な躾けを付ける筈の親が契約上既に売られてしまったために、人間社会の常識すら教えれていない危険物との事で。
今はまだ幼体なので実害は無いが、このまま教育無しに成長させたら廃棄決定まっしぐらのヤバいブツらしい。
……脳内で既に五月蠅い反応が鳴っててててて……。
エイギーも商人以前に女性由来の母性もあるため、自分也の手法で躾の模索をしていたのが現状。
しかし獣人奴隷の気質を理解しきっていない未熟者で、結果的に自分が楽しむだけの駄目飼い主に傾倒したのが現実だったと。
……まー、社会的な飼い主を主張する別の意味で駄目な飼い主を脳内で主張する者は出たので、とりあえず処分は無いと安心してもらおう。
問題は、お持ち帰りの手段が全く思いつかないとこだがな。
流石に小型犬を15体持ち帰るのと子共を15人連れ帰るのじゃ労力が桁違い。
と言うか、仮にケージに押し込んでも移動手段が無いわ。
もう立派に、内側からは勝手に開かない仕様でスクールバスが一台要るレベル。
「スクールバス、創れますか?」な質問が本末転倒なので。
創れないとは言わないが、俺の隠密行動の方針が全部放棄の方向になる。
それ以前に、まず確実にこの世界の理が反応して以後の人生が「死ぬまで戦え」的に物騒になるから。
それも個人的な都合の範疇かもだが、最優先事項なので全力で拒否らせてもらう次第。
……と言うか。
何時もは外見の割に理知的な行動のミラテル嬢だが、可愛い物系の話題に関しては途端に駄目貴族と化すとこか要注意と。
改めて肝に命じないと。
ちなみに、[収納]内で昏睡中の某兵士たちの処遇は「証言情報が得られそうな対象以外はお好きに」で済んでいる。
生きてても死んでても構わないな感じにて。
実にクール。
俺もまぁ、もし収納に量的上限が有ったなら積極的に廃棄の対象にはするけども。
人情とは好意的な相手に使うだけで十分なものだし。
と言うか、現実的な話。
死体として収納してる兵士は本気で近い内に適当に遺棄したい。
最近は素材類の収納内での解体が通常化してるから。それらに混ざってある日「うっかり」とかやったら、俺の人間性の部分で重大な変化が有りそうな予感が有るので。
さて脱線を戻そう。
現状売れる物の無いエイギーは開店休業状態で日々保護犬……もとい、保護獣人の面倒を見ていたのが実状と。
本人曰く、モフモフを楽しむだけの駄目な日々ではなかったと主張はしている。
またこの店も、地下遺跡を都市化した折に商店街として設定された物を借りただけと言う事で、特に隠し通路に関する情報も知らなかったらしい。
因みに、店を借りた契約は10年は過去まで遡れるが、それ以上の記録は店側には無し。
エイギー自身は此処に来て半年も経っていないので設備自体に素人としか言えない状況。
何にしても、詳しい情報としてはトポックの都市としての管理側で調べないと判らない内容だらけな訳だった。
となると……さて、どうしよう。
エイギー視点だと俺たち側は完全な襲撃者だよな。
今は見た目に冷静で協力的な対応をしてるが、それは人質が犯人を刺激しないような行為ってのが正解だろうし。
下手に好意的な対応しても……それで芯から協力的な相手になる保証も無し。……だよなぁ。
むしろ、隙を見せたら即座に敵対されてもおかしくない。
ポメ獣人の子等が人質に……も期待はしない方向が無難と。
元々「商品じゃない」的な説明もしてきたし。情は有るのは嘘では無いだろうが、自分の命と天秤に掛けたら普通に見捨てそうだし。
今までの好意的対応が演技だったら完全にそうするだろうし。
まぁ、とりあえず。
周辺の情報を、少なくとも都市内を自由に移動できるだけの情報を得るまでは軟禁確定かな。
流れで申し訳無い部分も有るんで、ポメの面倒くらいは見ておこう。
と言うか、依頼者から買い取り方向の要望が五月蠅いので此方に懐かせとくのは必須だろう。
食い物で釣り済みとは言えるが洋犬の躾は容易じゃ無い……いやいや、洋犬じゃない、獣人だ。
まぁ、気分は似たようなもんと覚悟は必要な気にはしとくが。
それじゃまぁ、一応は立て籠もりの籠城誘拐犯の気分で行こうか。
幸い此処には既存の拘束器具も在庫がある。着装で奴隷契約の効果を発する枷も有るようだ。一度鑑定に掛けて機能の詳細を確認したらエイギーに取り付けて安全の確保をしとこうか。
そしてポメの子等は……、んん?
なんか、既にフィンカが教育中?
ああ、食事中に実力行使で優先度を頂点に上げたようで。イヌ科の群れる性質の中でそれをしたからかフィンカがボスの位置に立ったらしい。
未教育の幼児に通じてるかが疑問だが、汎用獣人語にて色々と必須な単語も教えていたり。
意識越しに翻訳された内容の中に「主人が俺」とか「如何に美食の日々」だとか、「逆らう事での真なる恐怖」など、一部いわれなき伝説も含めてな内容が語られてたりする。
それを「ふんふん」と意外に真剣な雰囲気で聞いているポメの子等。
隣を見ると、これも意外そうな表情で其れを見ていたエイギー。
……まぁ、じゃあ、とりあえず基本的な獣人情操教育もサービスしとくとしようか。
後は、まあ同じ理屈で懐柔とは言わんが、自分達の食事事情の世界に強制連行して後戻り不可能な感じに味覚の洗脳をしてやろうな精神になってみたり。
考えてみたら冒険者連中から始まり、俺の周囲は基本餌付けから人脈を築くといった悪辣なもんだった。
効果は抜群なのも確認済みだし。
個人個人の好みは有るにしても、相手は女。
必殺の甘味尽くしにどう抗うかも試してやろうぞ、の精神で。
……そしてこの後、エイギーに備考を添付。
「食い気が獣人並みにチョロイン過ぎるぞ」と、呆れの内容にて。




