70話
台座をずらし隠し階段を露出させて下りた場所は……、前回程生々しい犠牲者を発見しなかったのは良かった部分か。
逆に……ちょっと魔力に属性を変質させようって意図の部分の解読には悩む事然りな感じだが。
状況を確認しての素直な感想を言うと……、標本倉庫。
どんな原理でとなると良く判らないが、様々な生命体が結晶柱に封印されて置かれている。
腐ってたり枯れたりな変化も無く、たぶん生きてた頃のままの姿で封印されてるせいか悲壮感は少ない。
……一部、当時の感情を連想できる風な表情が出てるとこは見なかった事にするフィルターの精神が必須だが。
デザインや配置から上の部屋との相似性はある筈。
すると占星術との関連性も有る内容と思える訳だが……、此方は数が12体って訳でも無いしなぁ。
軽く流して見てもその十倍以上の数は有りそうだし。
……強いて拗つけるとしたら、逆に種族関係無しの生命その物の括りになっている?
標本のイメージが俺の勝手な思い込みじゃないって感じかな。
ミラテルからの情報を元にの占星術の解釈。
簡単に言えば未来予知に関する魔術。時空系の系統の魔術とも。
……となると……、まだあまり習ってはいない魔術の講釈の記憶から言葉を引っ張り出すと、物体化しない概念の魔術属性か。
正確には、この世界でも何らかの物体化が関係するとは思うのだが。
地球でのものだと、サイエンスが拗れたら物理現象は無視しましょうなフィクションに跳ぶが、例え時間の概念が逆転しようと起きる事象は物質が未来方向に変化し続けるだけのものになる。
見た目の観測で過去に戻ったようでも、新たに作られた未来側での物理的な現象。
情報的に過去の物と同じなら、人間の感性なら過去でもいい気ははする訳だが。
……おっと、思索が過ぎて脱線した。
えーと、占星術が未来を観測って意味で情報を扱うなら、その情報源も必要な訳だ。
情報源か……、標本ってのは立派に情報源だよなぁ。
そして此れだけ生命の形を集めたって概念となると……。
あー、「ノアの箱船」とか連想したよ。
一度は滅びの行程を経て、その次に残す命の情報群。
前世でも遺伝子業界や何かで似たような事は山程やってたし。ビジネスとして関わった部分も結構あった業界だ。
特定品種の新種集めとか終わりの見えない仕事とか、成果報酬なんか成立しないから確実に期間拘束される案件で酷かった記憶が。
と言うか、諸外国には結構マジ物の箱船も作られ済みなのが業の深い業界で。
俺の思索が漏れ伝わったか、フィンカが頭を抱えて蹲ってたり。どうやら理解の限界突破に挫折したようで。
かたやミラテル嬢からは「箱船伝説ですかー」な、何か面白いものを見つけた感の雰囲気が返ってきている。
ただ、向こうでも其れが完全な的外れでも無いものを感じてるようで。
また、今回は現場を放置しない方針でのか、俺の視界が乗っ取られてるような気配つきで観察もされてる様子が。
10分前後は自分で視線も変えれない強制力に従い凝視を続けてたら、「破壊しても問題無いと思われます」と彼女の意識が届いた。
向こうで何かして、遠隔でも危険度の程度を測ってたらしい。
「その都度、調査隊の派遣をというのも現実性が無いのです」との事で。
確かにね。直の面倒事は俺が担当するとしても、事後処理での面倒も意外に多そうなのを実感してたし。
むしろ、俺のペースでの探索に向こうが組織的な追随ができないようだったので。
こうした簡易対応が可能になるだけでも助かると言えば助かる。
試しに、一番小型なタヌキっぽい物を[収納]へと格納。
……特に状況が変化した気はしないなぁ。
序でに鑑定での確認は……。
……は?
鑑定結果 → 死骸
あー……、もしかして、属性変化の前提が成立してないってオチか、これ。
この山程ある標本の全部が死骸と一括りなら、内容的には前回の遺跡の属性と被る内容でしかない。
となると……類似点を見つけるなら前回の四方位に習って、何処かの一方位のみ集中的に回収して配分を欠けさせるって感じか。
……まとめて回収してデータ性を損なうのも何なんで、チマチマと状況変化の観察をしつつつつつつつつつつつ……な、非常に手間取る作業になったり。
ううむ、終わった頃はフィンカが完全に寝落ちしていた。
図らずも前回の遺跡の内容の調査な感じになったが、得られたデータから儀式魔術に防衛機構は組まれていないのは判った。
加えて想像どおり、一方位にあたる部分の標本数を欠けさせたら儀式効果も消えたようで。
詳しい解析はできてないが、魔力濃度の変質くらいは感知できたので。
内容を確認したミラテル嬢も、もう一つの遺跡でやるだろうな調査結果と照らし合わせてみるそうだ。
同じ内容の遺跡であった事から、今後の対応も少しは楽になる気もする。
だがしかし、現状特にミラテル嬢自身への魔術的な変化は起きてないようで。
まあね、魔力のラインの総数が酷いから。
今のとこ一本や二本減ったところで効果が薄れる気もしない。
……ん?
ちょっと気になる部分を見つけたかも?
魔導国、ミラテル嬢を中心に全方位から集められる魔力。
全方位とは言うが、其れが四方位の拡散した配置って可能性は無いだろうか?
特に今回の遺跡に注目すると、四方位が12方位に拡散した事になっているとも言える訳で。
そういった変化も許容可なら、全方位も立派に同質の魔術とは言えないだろうか。
……ふむ。
俺が確認した魔術の現場はこれで三例。
まだ結論を出せる程の内容とも言えないが……、少なくとも二例目の石人形を集めた儀式との共通性を確かめないと……全ての儀式に共通性が有るとは言えない。
ミラテルに与えている効果から同じ系統の魔術であるな仮定は……外れでも無いとは思うが。
ただ、複数の要因が重なっての効果であの魔術効果を生んでいるな可能性も捨てられないしか。
今の考察も勿論当人に送っておく。
あくまで魔術の素人の考察……と言うよりは思いつきだ。
専門家にしっかり精査してもらわないとな内容でしかないし。
さて、やっとこさ、最初の依頼目的は達成。
この地域には他のも在るから完全達成にはほど遠いが、次の場所への移動途中で生き抜きくらいは許せるの精神で。
そして……その範疇で良いかは悩むが、先に発見した獣人案件のチェックもしましょうかね。
と言うか、その脱線がどの程度になるか未知数だが……良いのかね? 依頼者さん。
……速攻で「許可です」と来ましたか。
念のため言っとくが、鎖付きの獣人だろうな予想は意識越しに言ったが、それが奴隷商人に可哀想な目に遭っているケモノっ子な保証は無いから。
逆に言えば、鎖で拘束される必要性は立派に有るからね、獣人ってだけで。
フィンカの性能を見た以上、野放しでも可愛ければ許せる的な判断は無いから。
順当に言うなら面倒率の高い案件なんで、このまま放置でも良いのだし。
幸い、移動ルートの選択肢はフリーの物を一つ得てもいるのだし。
残念ながら、脳内にてその意見は即座の却下が下されたり。
……行くか。
後付け依頼の多い仕事だが、こう言ったものは前世でも何度も経験済みだ。
と言うか現場を知らない依頼者の仕事は大概こうなる。
それを依頼内容に無いからと全て蹴っていたら、最終的にできあがるのはその業界に敵を多く作るだけで此方の人生的な撤退しかないのである。
おそらく、俺の前世の死因はそうな予感もあるのだし。
けど、今のチート対応が可能な状況と違えば「無理です、できません」と言うしかない場合も多いのだしね。
まぁ、しかし。
確かに今なら可能な部分も多いのは事実。
利己的な善意で自己満足な結果を生んでも、バッドエンドを回避できるならそれで良い気もするわけで。
寝惚け気味のフィンカを背負い、元来た道を三度戻るルートを開始。
んー、移動中に収納の中で肉類の下拵えくらいはしておくか。
たぶん、これから向かうとこには腹減らした子がたんと居るようなのだし。




