66話
嫌な予感は当たると言うか、ほぼ確信した通りと言うか。
到着した現場は戦場、しかも完全に負け戦な情景を晒していた。
戦力は増援されたものの既に二割は減少。しかも減少分の半分は……、反応自体が消えてるので死亡と認めていいようだし。
致命的に対抗戦力としての域に無い。夜の焚き火に飛び込む羽虫な感じに、ただ、魔物に遣られるために存在するとしか思えない兵士達の処刑場。
……これ、30分と掛からず全滅する流れだよなぁ。
状況としては、魔物一体に対し冒険者を装った兵士40名弱が討伐中といった雰囲気。
魔物は大型一歩手前の、俺の経験を元にするなら双頭の犬の魔物にサイズは近い。
ただし、こっちはサイのような形態。しかも角の先がカブトムシ風に広がっているやつ。
首の後ろに襟巻き状の甲殻も有る事から、サイよりもトリケラトプスと呼んだ方が近いかもしれない。
見た目どおりの頑丈そうな体躯にリーチの長い角が槍のように振るわれる。確か地球の偉い学者さん達の講釈によると、草食恐竜は今生きてる草食動物に準じて気性と行動が非常に攻撃的だったか無かったとか。
……時代的に順序が逆じゃね? とつい突っ込みたい気持ちだったな当時の感想を今、思い出したり。
兵士達の武装はロングソードばかりで、しかも片手剣な仕様。
たぶん遺跡内でファンガスに対応するための装備に特化、な感じなんだろうな。
あの魔物には完全に役不足だ。
大型の魔物に人間が対抗する様子は冒険者達の姿で知っているが……、この連中は技量の方でも劣っていて、駄目だ。
と言うか、おそらくは対人間への戦いが専門なんだろう。包囲戦への行動だけは集団の強みがでている……ようには見えた。
攻撃した方の武器が壊れる状況じゃ無意味でしかないがな。
集団行動自体では無能って訳でもないのに、何故撤退の指示が出ないのやら?
そんな疑問付きで観察してたら答えが出た。
隊長が既に倒されてたようで。幸い死んではいないが、戦闘の現場からやや離れた位置で横になり、補佐に支えられての指示出しをしていた。しかし伏せた状態では戦いの全容が確認できない。補佐役がそれをおぎなえてる様子も無いので、結果的に無意味な指示が出てるようだった。
勇気ある撤退って選択肢自体が無いんだろうな、あの補佐役。
魔物を倒すための方法は幾らでも模索するが、それが不可能って状況は認めれないタイプの人間か。
得られる情報が偏ってたら、あの隊長も正確な指示は出せない訳だ。
さて現状確認は終わり。
自分の対応としては……二択か。
救出活動か、放置か。
討伐自体は問題無い。単純な物理攻撃しかしてない魔物だ。総合戦闘能力なら今の俺の方が高いとみた。
そしてこの選択の決定は……クライアントに頼みたいな。
嫌な言い方なのは確かだが、俺たちの今の立場だと両方が敵性勢力なんで。
「同じ人間だから助けないと」な精神は、適さない。下手すれば魔物を倒した後に疲れた状況のまま対人戦が始まる。
結果的に問題は無いと提案はできる。ただし、その場合はフィンカにも人殺しへ参加させる流れもあるよ、な感じで。
速攻で「放置してください」な指示が来た。
流石はミラテル嬢。状況を正確に判断できるようで。
万が一の事として。
此処が俺たちの目的と関係無い場所なら救出劇の選択も有ったろう。
だが現実にはその可能性は無い。
最終的には俺たちが此処を、この地点を確保するのが目的なのだから。その支障になる要素は完全に排除する必要が有るのだから。
ただね。
その部分の追加情報をまだ伝えてなかったのだなぁ。
この現場。やはり遺跡ではあるのだが砦と言うには少々小さすぎると言うか。
様式としては神殿と言った印象を感じる。
石造りの三階建て、外観はマヤ式のピラミッドのデザインで、ギリシャ神殿構造の柱が多用された風の物だから戦闘には絶対適さない。
戦闘自体は建物からやや離れた場所で起きてるが、それ以前に魔物の破壊行動があったのか、建物の数割は崩れているようでもある。
そして其の崩れた地点のとある物体。
目の良いフィンカが指差す箇所には大量の繊維の塊。
おそらくはファンガスだった物の残骸だろう。
……ああ、草食の恐竜風の魔物、ね。
こいつ、この場所に置かれたガーディアン役の魔物って訳じゃ無く、ファンガスを捕食するために現れた闖入者って立場だったようだ。
兵士連中にしてみれば収穫物を横取りしていた害獣と遭遇した流れだったようで。
まぁ、即座に討伐対象になるのは当然だろう。
彼我の戦力とか考えなかったか、誤算だったかは知らないが。
……自業自得でこの状況なら、本当に放置でも問題無いよね。
けどもだ。どうやらその課程で、遺跡への被害もまた出そうな感じで。
たぶんあの魔物。鬱陶しい兵士達をある程度倒したら食欲を優先して遺跡の破壊を優先すると思う。
だって自分への被害が無いし。食事を優先してその目的を達したら此処に居る必要すら無いのだし。無駄な命を殲滅するほど怒ってもいないようだし、移動して更に追ってこないようなら、兵士達を殺す行為自体を無駄と思ってる風でもある。
……つまり、状況を早期に安定させるには。
魔物を倒してから兵士を殲滅。
若しくは両方を並行して殲滅。
その二択と。
兵士を始末してから魔物の選択肢は無いと思える。
今兵士の「鬱陶しさ」が減ったら、その時点で魔物は遺跡内のファンガスの捕食を優先するから。
……うーん。
結局、今回は人殺しから避けれない精神で行かないと、と。
ちょいとフィンカに視線を送る。
うむ、完全にヤル気のようで。幸い、相手としては強そうな魔物に固定されてるか。と言うか、怖じ気づいてるでも無いなら勝算はある感じか?
意識で問うたら「ある」と簡潔に答えが来た。
……じゃあ、任せようかね。もし駄目だったら即座に助けを求めるように。
それに「判った」の返事を貰い、行動の覚悟も完了。
兵士の方は俺が殺るな精神で。
ああ、武器の類いは……、そう、自前で調達すると。
……え?
調達って?
俺の覚悟の意識がゴーサインと判断したのか、フィンカがその場からかき消えた。
辛うじて追えた動体視力の先には宙を舞うフィンカが。
周辺の木々が何本も派手に揺れてる事から、三角飛びの要領で木々の反発力を利用し大きく跳んだらしい。
着地点は魔物の先に遺跡をな配置の森の中。俺視点では随分と派手に動いたが、案外他の誰にも気取られてはいないようで。
着地後にまたその地点の気が何本か変な揺れを起こす。数十秒続いたそれが止むと、また木々の上を宙に飛び出す影が……数本?
ああ、あれ等は枝か。
どうやらフィンカは立木から生木の枝を刈り取ったらしい。獣人の爪の威力は高いそうだから、たぶんそれで。
枝と言っても太さは若木の幹程の太さ。細かい横枝や葉も選定されて槍のサイズの矢にも見える。
つまり、あの魔物のサイズに見合ったジャベリンを本当に現地調達した訳だ。
しかも連投用に何本も……いや訂正、十何本も。
個人で投げ槍部隊を再現したかー。
獣人の行動力って半端ないのだね。
高い場所からの落下の威力は十分。しかも即席ジャベリンは枝葉の選定の時に終端は少し残したようで、その空気抵抗と姿勢補助がしっかり働き、尖って鋭利な先端を魔物に向けて、落ちていく。
天空から飛来したジャベリンの局所爆撃は、人間の非力なロングソードでは引っ掛かり疵すらつかなかった分厚い皮膚を見事に貫通した。
初めての激痛に魔物の反応は明らか。
何処か余裕のある感じだった動きに露骨な怒りの感情が加わり、その元凶を探す。
流石は魔物の感覚かね、ほぼ躊躇い無くフィンカの方を向いたよ。
そして鈍重ながらも移動を開始。
周囲の兵士たちは突然起きた異常な状況に混乱しつつも、魔物の移動に巻き込まれないよう案外機敏な回避行動をとっていた。
……ううむ。
野生を発揮したフィンカの有能さに少し驚く。
俺と意識が繋がった影響でか、実に見事に、俺の目的沿った万全の行動を取ってくれた。
これで少なくとも、喫緊に遺跡が崩壊といった問題は無くなるだろう。
同時に「自分が遊ぶから邪魔しないで」な余裕の意識も飛んできたので、加勢も止める。
……で、さてと。
魔物の驚異が去って唖然と、あと安堵してる君らには悪いんだが……
これも運命と諦めてもらおうか。




