65話
屋外に戻ると兵士達の準備も終わり一休みの雰囲気になっていた。
数人が食材を出してる事から夕飯の間近らしい。
これこれ、あのご飯は俺たちとは関係無しだから。
どうもキャンプご飯への反応が過敏になっているフィンカを自制させる。
前の旅の同行人だった行商人は料理とは無縁……と言うか獣人並みに野趣溢れたキャンプ飯が好みだったようで。
フィンカと共に狩った獲物を生肉で豪快に……な日も珍しくなかったのだそうで。
いやまぁ、新鮮ならそれも有りとは俺も思うが。
現代人基準の俺の舌だと、それだと完全に肉の味すら感じれないだろうな感想で。
大概の動物の肉の旨味は、熟成させるか凝縮しないと感じれない程度のものだし。むしろ臭みばかりが強くて美味くないとすら感じるだろう。
と言うか、塩振りくらいはしろよ、と言いたい。
付近に幾らでもハーブ類が自生してんだから臭み消しもしろよ、とも言いたい。
更に欲を言えば、そういったハーブで香辛料成分の補間もできるんだから自分ルールのガラムマサラくらい常備しておけと……。
……いかん、欲求にきりが無い。
まぁ、どうにもフィンカはフィンカ基準のままの生活環境で此処まで来たらしいので、俺の下で変化した食の環境には一気に染まったと言う訳だ。
同時に、食事自体に貪欲にもなったようで……。
其処の野性味は出逢いの頃より増した感が。
本人から聞いた感じ、原始寄りの生活から文明寄りの生活にした筈なのに、何故増したな不思議。
とにかく、折角兵士連中と接触せずに行動してたのがそんな部分でバレるのは困るので、早々に現場からは移動する事に。
時刻的にはそろそろ夜間な感じだが仕方が無い。
暗くなれば焚き火の光源でも遠くから確認されるし、煮炊きの臭いでも感知されやすい。地味にチートの移動力を発揮して、数キロは離れた場所でキャンプを置く方向に動く。
一応は、目的地の方面に向けて。
魔物との遭遇も避けたが、驚異にならない野獣はすれ違う時に[収納]入りに。
自分基準では毛皮以外に価値が無いな感じだったが、フィンカ基準では食用らしい。涎が出ている。と言うか溢れかけている。
収納に収めると同時に、移動中のまま自動解体し肉は合成の範疇で下味処理。
ううむ、……扶養するようになったら時間の効率的な使い方に追われるか。
と言うか別にフィンカが望む訳でもないのだが。
俺の勝手な養育方針になるのだが。
……何処が放置教育の精神なんだか。
我ながら呆れる。
……だからと食の妥協って選択は無いけどな。
今晩の飯は獲れ立て新鮮の肉を様々な焼きダレで調味したものがメイン。
単に、辛みに弱い本物の子供舌用に甘味タレ、オッサンの偽の子供舌用にスパイシーをと両立させたが故の豪華風。
トロミを緩めた水飴を塗って焼いたせいか、気分的には北京ダック風になった感じ。
外はカリカリ、肉はジューシーさが際立つ。作法は丸かじりなんで本物には似つかないが、まぁ良いだろう。
どうせキャンプ飯だし。
一食分は丸かじり、お代わり分はパンとスープを追加して。
フィンカ独りで大人数人分の食材が消えるのはもう慣れた。
キャンプに選んだのは獣道すら無い本当の森の中。食い物の臭いを盛大に発したせいで周辺の野生を刺激したのは確認したし、MAPにもそこそこ反応が出た始末。
仕方が無いのでフィンカから一時的に魔物避けを預かり、自分の魔力を補充する序でに再起動。途端に反応の中から魔物が減った。
……やっぱり、使用者によって効果に変化が出てるようで。
想像すると、起動した時の魔力の質で変化が起きている?
今のとこ、魔道具に魔力を貯めているのは俺だけだし。フィンカに任せているのは起動と停止の部分くらいだ。
貯めた魔力に違いが無ければ、出る変化の違いはそのあたりしかない。
そう考えると、この魔物避けは使用者の驚異度を拡散し、周辺一帯を自分の縄張りだと宣言するような効果って感じなのかね?
……しかも露骨に反応するのは魔物だけ。
別に驚異って意味じゃ魔物と野獣の凶暴さに違いも無いし。
ふむ……魔力に対する知覚の違いもそのうち確認したいな。
襲撃への対応は結構自動で何とかな実績も有る事から、特に夜番を組む事も無しで寝て過ごす。
元々眠りも浅い方だし。
そして、朝。
眠りの浅い……。
野性味多い獣人の警戒心は高い筈なんだがなぁ。
街道沿いのキャンプ地は言わば安全地帯。だから警戒心無く寝る様子もそんな気にしては、いなかったんだが。
今回は本当に野中の野営。
臍天爆睡中の何処に野生は残っているのか?
……いや、思い出してみればフィンカの眠りに野生を感じた事は殆ど無いか。
完全に家獣だなー。
食いっぷりは十分の野獣なんだが。
旅の再開は案外順調に。
MAP内の魔力ラインの終端が見え始めた頃までに、二つばかり兵士の集まる地点も確認した。其れらが遺跡を舞台にした同様のファンガス養殖場だとしたら、この地域には遺跡が異常に多いような気もする。
まぁ、遺跡と言っても砦だと戦乱が多ければ必要な施設だし。戦場は日々場所を変えるのだから数も多いのは変でも無いが。
反応は塊のまま動く気配も無いので、最初の連中と同じような収穫作業中なのだろうと放置した。
全体数が判らないまま一つ一つの確認をしても、それは本来の目的が遅れるだけな気がするので。
ただまぁ、其の目的地に問題が起きてる気配を感じてからは、そうも言ってられないかな状況かもしれないが。
目的地に他の反応が有るのを見逃したのは数が少なかったせい。
確認したのは四人からで、近づくに従い一人、二人と減っていった。ただし、総数としてはそのまま減って終わりとは行かないようで。
別方向から増員らしき反応が移動している。距離と今の俺の位置からして先に合流される流れだろう。
そうなると、目的地には50人程度の何かか、または誰かが居る事になる。
観察状況からして……、現場に何かの驚異が在って、先行していた集団は全滅寸前まで追い込まれていたって感じか。
増員が……、多分増員だとは思うが、それが合流してる事から早期から救援要請はした流れ。……となると、遭遇時から危険な相手って判断はしてたんだろうなぁ。
俺の中では、もう反応の正体が昨日の兵士連中と結びついてる。
いくら木っ端貴族が詰め込まれた地域とはいえ、こう狭い範囲で別勢力って展開も無いだろうし。
と言うか、そんな無差別展開だったら面倒以外の何物でも無いから人道精神は捨てて破壊神モードで行く。
単身で味方不在のデスマーチ海外赴任とか本気でリアルの無双ゲームをしてた気分だったし。向こうにしてみれば俺は身元の怪しい異邦人、独善の法の適用も面倒と物理で排除に来てたから此方も物理で消すしか対応が無かったし。
……当時の体制、文字道理闇に葬ったから国際手配は逃れれたけど。
あれは本気で、日本人がやっていい倫理の世界じゃ無かったよなー。
けどそんな経験者な俺だ。
必要なら破壊神にもなれますよ、の精神は既に有る。
「不味いの?」の疑問には「その通り」と返しておこう。
多分、既に戦闘は起きている。
現着はその修羅場の真っ最中。
魔物が相手か、人が相手か。もしくは両方の可能性も含めて。
フィンカに参加させて良いものかね?
なんか、単純に血は滾らせ始めてる気配は意識越しに来てるけど。
さっきまでの飼い猫精神は何処に消えたやら。
「ぐるんぐるん」と喉鳴らしの様子も見せられながら、物騒そうな状況に気を引き締める俺だった。




