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63話

魔物避けをフィンカに渡したのが幸いか。

効果が薄まったので監視の近くに結構寄っても訝しがられない。

また連中の戦闘の程度の確認もできるし。


遺跡は廃墟化した砦のようで……廃棄された期間は其れなりに永そうだが時代様式としては現代風。これはミラテル情報での補間なので確かだろう。

破壊された痕から直接の原因は魔物の襲撃か。

剣などの武器での破壊痕は微量だが、天井付近に爪痕とかが派手に刻まれてるし。


爪痕は四本から五本が並んだもの。自分の記憶にあるものを上げると熊の類いの其れに似ている。

それが天井近くか……、体高が4m近い熊かー。

魔物としてはどうなんだろう?

そのサイズだと地球でも怪物扱いはされるが、一応普通の熊の範疇でいたような?


……いや、いかんな。

最近怪獣サイズのばかりを相手してたせいか、魔物の概念が偏ってたらしい。

俺の求む最適な魔物を思い出せ。

角の生えたカピバラ、ホーンラビット様だろう。

脆弱極まりなく、数さえこなせば美味しい肉と暖かい毛皮を無限に与えてくれる無限の天然資源。正に偽り無いネズミ講すら成立させる魔法の資源。

これこそ異世界と言える代表だ。

凄いよなぁ、クジラだミンクだアザラシだと好きなだけ狩った後に絶滅だなんだとか自責の馬鹿騒ぎをしなくていい相手だもの。

もう人間とホーンラビットだけが居れば食物連鎖……とはちょっと違うかもだが生態ピラミッドが完成するとか。

流石異世界、俺の生存戦略的概念の根幹からして違う狂ったもんで成り立ってるし。


……とと、暇だからと意識の余所見は止めよう。


遺跡内の最強っぽい驚異は推定、熊の魔物らしいが、兵士連中が相手をしているのはチンパンジーに近い雰囲気のもの。

亜人枠っぽいがゴブリンとは少し違う。頭部が犬っぽかったらコボルドか、とか架空の知識は俺にも有るが、類人猿が人間の代わりに支配者化した世界の話っぽい情景の設定になる幻想生物のネタまでは無い。

相手してる数が多いので、連中の隙を見て死骸を回収でもできれば正体が鑑定できるんだけども……。

どうやら、立派に回収素材のようで。倒したら連中自身が余さず管理するので無理だった。


……ふむん、ならば独自に討伐して回収してみるか。

そう思案しても、不思議と魔物の出現方向が連中に近い方向ばかりで駄目。

MAP反応でも進行方向前方側からの接近のみだし。


まだ入り口から30分しか離れてないし、生息域はもっと奥の方って事かね?


因みに、フィンカも初見の魔物なようで。

この子の移動の痕跡からしてこの地域は初めてじゃない筈。つまり、屋外には出ない類いの魔物とも推測できると。


体格は成人男性とほぼ同じ。全身に体毛、姿勢は上半身が前屈みなのが普通の様子。頭蓋骨の上に厚皮を貼っただけのような顔面なので表情とは無縁の仮面のような面。

捨てられた武器の再利用っぽい剣で武装はしてるが、歪な姿勢で使うのに適しているとは思えない、そんな稚拙で大雑把な動き。激しい動きの割に漏れる呼吸は空気が抜けた感じの間抜けなもの、もしかして声帯が無いとか?

まぁ、総じて弱めかなな印象。


……魔物としても……、なんか、仮初めでも生き物の雰囲気が薄いなあ。


一瞬、魔王由来の魔物かとも思ったが、しっかり死骸は残る。

少なくともこの世界の理は壊さない枠の魔物と。


ううむ、情報が増える事で余計に謎も増えると言うか。

ただ悩むのもようやっと解消できるようで。

10体程倒したあたりで一度外に帰還するらしい。人員の半分が荷運び役となり、残りは護衛として逆戻りに移動し始めた。


此処は穏形でやり過ごすと意識でフィンカに伝え、気配を消した。

視覚的に透明とかはなれないので、ちゃんと物陰にも隠れる。瓦礫は結構多いから隠れ場所に苦労も無いし。

其処そこ広めの通路なので、すれ違うと言っても肌触れあう訳で無し。特に危険も無く見送れた。

最接近時に微かに血の臭いが漂った事で、あれ等が魔物なのだとも確信はする。見た目のゴアっぷりに反比例して血生臭さは案外無い。其処は俺も散々経験した魔物の共通点なので。


連中が離れた時点での選択としては……。

再び後に着いて行き、回収した物の結果を知る。

多分解体するんだろうし。


もう一案は、このまま奥に行ってみて、あの魔物の情報を自分で得る。

これはもう、最初の監視対象から相手を変えるとかな愚策そのもの。しかし、なんかもう得る情報も無さげだしー、本心言えば飽き始めててるしーな感情の面も強いので。


とは言え、生粋のハンターには初志貫徹以外の意思は無いようで。

特に異変も無く監視の続行の方向へ。

普通に、フィンカの方が正しい行動と俺の理性も認めてるので。



極秘任務中の自分達が監視されてる対象とも思ってないのか、表にでたら警戒心皆無で次の作業に入る連中。

魔物の荷運び班はそのまま解体作業になる様子。残りは……キャンプの設営か。

……え、今から?

元々キャンプする気なら最初に潜る前にすりゃ、携帯してた荷も減ったろうに。

連中、しっかりと設営用の荷を背負ったまま戦ってたし。


……えー……。


あれ、俺の感性も随分この世界に馴染んだつもりなんだが、まだ何か変なズレが有るのだろうか?


まぁ、ズレと言うか。

連中の行動の理由を知らないが故の思い違いだったようで。

俺の疑問は解体班の雑談を聞き取った事で解消された。


その前に解体された魔物の正体も面白い。

あの人型のやつ、正確には人型を模していたという魔物だった。


一体目の胸元にさっくりとナイフが突き刺さり開かれる。

血は体液程度の滲む湿りで流血は無し。ただ、開いた傷を手で広げる時の「ミシミシベリリ」な乾燥物な異音が不思議なところ。

そして心臓付近から魔石が回収された途端、死骸は人の形を失いモフンとした堆積物へと変化した。

それでフィンカから「ファンガス」との言葉と「祖霊を堕とす魔物」の意識とイメージが来て、俺も納得した次第。


ファンガスの名は俺のファンタジー知識にも有る。確か寄生キノコで生物を魔物化する類いのやつだ。

俺の記憶だと、人が生きながら浸食されて精神を犯され狂う様子が売りのパニック系物語が有名。

しかし此方だと少々生態が違うようで。

確かに生体への寄生から始まるが、宿主を積極的に殺す風では無し。ただ、寄生なので衰弱はさせるって意味では早世させる。そして本格的な活動はその後。

死体を苗床に繁殖。その場を自分の繁殖領域(コロニー)へと変える。大体周囲5mの円周状に広がるらしい。

そしてそのコロニー内から、苗床にした存在のコピーのような個体を何体も作りだし、他の地域へと移動させていく訳だ。

今回の場合で言えば、誰か……人間か人型の何かが苗床になったための、ある形態だったというオチ。


純粋な生態としては菌糸類か胞子生命の活動に近いか。

自分の繁殖できる環境毎移動させてのってやつで。冬虫夏草からイメージされる其れにも近い。


フィンカの知識に合致しなかったのは、ファンガスが寄生する対象の大半が森林部の夜行性動物でサンプルを見てたせい。

ファンガスは日光に弱いんだそうで。紫外線を浴びすぎると枯れるってやつかね?

またフィンカの意識に上がった敬称は、時折野外で事故死した仲間がファンガスの苗床として利用された経緯があるからだとか。ある意味、ゾンビとも呼べる状態だしな。身内の尊厳を汚す相手って印象なんだろう。


さて、素材としての利用方としては。

魔石は魔石。魔力関係で大いに役立つ。

崩れた死骸は実は繊維の塊と言う事で。織物製品としての価値があるそうだ。外見がどんなもんでも繊維が擬態したものなのでそれ以外の素材に化ける事は逆に無し。武器に見えるのもそうなので。

ただ活動中は元の素材準拠の性質が有るとかで、剣の形は剣として使えるのだとか。

……ううむ、其処は流石に異世界常識。


さて結論を出してみよう。

つまり、連中は極普通に素材採集の仕事をしていた、と。

魔石は魔力的な燃料だし、製糸素材は生活に密着する必須なものだし。

冒険者が居ない環境じゃ、荒事案件に兵士を活用するのも……まぁ、為政者としては普通の事だなぁ。


……ふむ、じゃあ特に不穏な背景も無かったと?


……あれ、何か俺が見知らぬ異文化に勝手なイチャモンつけてたような展開?


ちょっとミラテルは正義と啓蒙し過ぎてたかな心配が内心浮かぶ。

だが、連中の雑談の続きでそれも消えた。

「今の苗床もそろそろ限界じゃねえ?」から始まった、此処の採集場所ができた理由。


どうやら、連中。

偶然にこの現場を利用してるって訳でも無さそうで。

どうやら、ちゃんと管理されてる養殖場の気配が濃厚のようで。



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