62話
さて、フィンカと会話が可能になって初めて知った事として。
獣人社会……と言うかフィンカの属する集団は野生動物のハーレム社会に近かったと言うもの。
いわゆる、ファンタジー解釈のハーレムとは別物のそれだ。
群れのボスが全てを決めるな集団。
実の親であれ、それがボスなら将来的には旦那にもなるっていう、あれ。
ミラテル嬢の翻訳が微妙な解釈になる訳だ。
同時に、地球で言う近親相姦的な問題は特に無い……か、まだ血統的な問題以前の種族的な濃さなのか?
下手すると遺伝子とか存在しない可能性もある。
だって魔力とか物質化してない回路が成立するのだし。遺伝情報自体が魔力回路で成立するなら、何か致命的な欠陥が発生する前に修正とか出る気も。
と言うか、他の動物の特性付きな人間形態自体が、俺的には立派にふざけた産物なのだし。
まぁ、そんな訳で。
完全に「パパ」と呼ばれつつも反応は父親以上の対象にされつつあるのが、良く判ってしまった。
……とは言え、それはもうちょっと育ってから相手な精神で。
実際、添い寝だ抱き枕だと言っても行動自体は小娘以前の子供のそれだし。
少々困る寝相の悪さは、人間、不思議と慣れるもので。
なんせ今朝の目覚めは、「何処の死遇いの殺陣の一瞬」と問いたい感じの其れだったし。
状況は物騒極まりないが、寝てる赤ん坊の周囲をデコって面白可愛い画像を創るあれに近い。
ホント、下手すれば腕や首があり得ない角度に曲がってそうなくらい物騒な要素は有るけれど。
脳内経由と傍にべったりな少女二人に、好き放題使ってる[収納]の能力バレるのは必然。しかし他言は無いようでの安心感も出たので、今も好き放題に使っている。
野外で、出立前の朝飯だと簡易が普通なのに豪勢な展開なのもそれが理由で。
真実を知っているフィンカは平然と山盛りのロースト肉のバゲットを頬張り、トロトロのコーンスープをお代わり前提でグビリ中。
日の出前に起きだし旅立ちの支度をしていた連中からは呆れ顔。
まぁ、気軽な二人旅にも写るので出立の時間が遅いと解釈されてるのだろう。
昨夜の話で獣人奴隷は有能な護衛役と言った印象なのも納得される理由かな。
こういう時ばかりはフィンカの「パパ」呼びが他人に通じないのが非常に助かる。
ああ、そうそう。
奴隷魔術での契約の一部に、主人との意思疎通を可能とする部分も有るそうで。
そのお陰でか、フィンカの謎言語にふんふんと対応する俺が完全に主人認定はされてたり。
事実は微妙に違うが、まぁ、そう間違ってもいないから良いかの精神。
さて、MAP内の反応で一番近い方向の貴族領は……。
えーと、なんたら子爵の領地だっけ? と悩んでたら「タラナン子爵です」の訂正が来た。
いやだってさぁ、今回の貴族遭遇率の高さが異常で。
数も異常って意味なんで覚えきれていない。流石に前日情報で三桁手前の貴族の名前の全部は無理。
この地方、独立採算が合うならと、バチカン市国並の小領地が乱立し過ぎだよ。
ああ、採算の面は魔導国中央の算定で決定って事で、贅沢が好きだと公言する連中だと赤字だそうだ。
だからこの地方では共食い的な内戦っぽい争いも(自分達解釈で)密かに有るそうで。
遠く離れた他の領地に難民が流れる時点でバレてるのだが、其処に中央が強権発動的に介入すると一致団結されて面倒だからと放置らしい。
……なんたる蠱毒の地である事か。
最終的に最強木っ端貴族に成長する気配も無いのが実に悲しい。
また馬鹿貴族の習性は抜けなくても、共倒れの未来しか無いのも当人達は理解してるので、ある程度利権の奪い合いが済んだら派閥化して落ち着くそうで。
現在はそんな沈静化の時期らしい。
だから街道を一般人が移動する余裕も有るし、同時に面倒な連中が次の共食いの下準備で周辺に散っている可能性も有ると。
そのせいだろうなぁ。
朝食を終えて街道を進み、途中から魔力ラインに沿った森林部の横断を決めた直後に変な集団の反応を見つけてしまった。
人数は25体。視認できる距離まで行って[25人]と訂正を入れた。
「私兵です」のミラテル補正が即座に入ったが、あまり兵士には見えない装備だな。普通の革鎧だし。
しかし「隠し印がありますから」との説明も。
貴族の身内を指す印章の存在は俺も知っている。
と言うか、俺でさえ知っている。下手に相手すると面倒なのが出てくる危険な対象だし。
ただそんな貴族共食いのある地域で証明書を着けて動くのは本気で馬鹿なので、別の判る者には判る符丁に変更してるのだとか。
それを総じての[隠し印]と。
その情報は前もってミラテル関係者が調査済みという訳だ。
いや実に有能。……何と言うか、これ本当に俺が必要な案件? と悩む程に。
エーデルワイス公爵の暗躍のみでこの地域の安定は可能な気がする。割と本気で。
この状況にフィンカからも「不味い?」の疑問の言葉と脳内には「無力化する?」の副音声的な意識が同時に来るが、正解としては「現状待機で監視」なので。
いやね、いくら大掃除して良い免罪符は貰ってても見敵必滅とは行かないよ。
俺たちは木っ端貴族の殲滅部隊じゃないんだから。
いやいや、何シーディスから仕込まれてんのかな、この娘は。
なんか女子会の時に「今度のお仕事ではパパの敵を滅殺しましょうね~」な洗脳がちょくちょく行われたらしい。
……おのれ、あのポンコツ騎士崩れが。
我が可愛い娘になんたる凶育を施したのか。
しかも獣人気質に最適な雰囲気なのか、それが俺が喜ぶ正しい行為と捉えている節すら有るようで。
……おのれぇっ、あんのモンスターペアレンツ侍女モドキがっ。
帰ったらミラテル経由でなんかしてや……、ああ、了解っす。
俺の意識を受信したミラテル嬢より返信。
危うくフィンカをキルマシーンにしかけた罰を、現在進行形で当人に執行中との事で。
流石は有能なミラテル嬢。
と言うか、愛で対象の問題なんで他人事じゃなかったようで。
良かったなぁ、フィンカ。
例え元の故郷に帰れなくとも立派に居場所はできたようだぞ。
しかもかなり過保護な感じで。
……馬鹿な掛け合いやってる内に監視対象が動いていた。
どうやら休憩してたようで、隊長っぽいのの号令で整列、動きは完璧に兵士のそれで移動を開始していた。
あれ、冒険者か狩人っぽい偽装してる意味が無いな。
いや、人前では演技してるって感じか?
知らないが。
かなり好意的成分含めての推測だが。
結果的に見当外れな事を言ってショボンとしてるフィンカを慰めつつの追跡開始。
折角遭遇した仮定・敵勢力の不穏な行動。追跡しない理由が逆に無いだろう。
……ああ、うちの娘を弄んだ脳筋召使い女を見逃す理由も無いぞ。勿論。
追跡を始めて二時間余り、ちょっと精神的に……長かった。
と言うか、自分のペースで動くのに慣れすぎてて、監視相手のトロいペースが非常に苦痛。
行動のパターンは結構好みの純粋な探索と言うやつ。
未開の地を行く某個人名探検隊の雰囲気と言うか、実に懐かしい。
何かと先行するカメラ目線担当が自分達ってあたりにも特に。
進みが鈍くてヤキモキさせる部分にも既視感満載な空気を感じて。
例の隊長っぽいやつが頻繁に根性エールを部下にしてる部分の被りとか。
……非常に、非常に突っ込み入れたい精神ががかががっ。
フィンカの不思議そうな表情に、この俺の感じる焦燥感の説明が絶対通じない無力感とか……もうもう色々とストレスが出て困る。
だがそれも、一段落。
ようやっと連中の目的地に到着したらしい。
密かな希望としは、今回の目的地の一つにでも案内されたらと思ったのだが……残念ながら違ったようで。
一番近い魔力ラインとは微妙にズレてるとこがやるせない。
しかも場所としは遺跡の様相だし。
……さて、どうしよう。
このまま、地元貴族の情報の突端を知るのは……重要との確約はないが無駄では無いだろうし。
ただ寄り道としてみると……、此処まで使った時間だけでも、結構「無駄かも」な気持ちも大きい。
因みに、俺以上に堪え性の無さそうなフィンカは……。
……あ。
うん、追跡続行で。
どうやら、獣人の狩猟種族の血を甘く見てたようで。
今のフィンカの目の色は、もう完全に、連中を獲物として視てる其れだったり……。




