58話
台座を動かそうとはしたが、今回は無理。
孵化前のヒドラの幼体(?)が収まるサイズだ。無理で当然。
いやチートの怪力でなら動かせるが、それ前提の構造とか、余り想像するもんじゃ無いし。
フィンカの魔力の臭いチェックによると確かに台座の下に空間は有るみたいなんで、隠し通路が発見できなかったら、まぁ、最終的な手段として。
空間越しに臭いが伝わるなら他のルートも嗅ぎ分けれる訳で、特に問題無く、壁の一角に隠し扉も発見と。
フィンカのドヤ顔も当然の成果なので褒めてやる。成果を出したなら直ぐ褒める。これ大事。知識や理性の程度に関係無く大事な部分。
MAPでの確認も追加すると……、少なくとも生きてる何かが待ち伏せっいう展開は無いようで。
しかしヒドラと同じ性質の何かだった場合は、その保証も無い。生命反応、生体反応? どういった基準が判別してるのか、自分でもいまいち具体的な区別が判らないのが困る。
しかし、余り良い物じゃ無いのだけは予想できるか。
また怯え始めたものな、フィンカ。
今度の下りルートは螺旋階段を下りていく形で。
俺も濃くなる魔力の影響をやっと自覚できてきた。一定の間隔でリズムを刻んでいるようで……。数分、それを受け続けていると唐突に元凶の想像がついた。
心音だ、これ。
しかも聞き慣れた感覚と言うか、普通な体格の人間の鼓動と……実に良く似ている。
そして階段を下りきったところで、その想像が正しいと理解した。
ああ、この世界では。
こんな感じの状態異常は生きているのと死んでいるのの中間なのか?
若しくは、両方同時の状態であるのか?
上の部屋と同じ様式の空間内、しかし台座はちょっとした演劇すら可能な巨大なものへと変わっていて、正に群像劇の舞台のように使われていた。
たたし、役者は人間では無く、その成れの果ての一形態。
石人形。
石化によって変化したらしき、人間だった者達で。
蛇の繁殖行動を、俗に[ヘビ玉]と称する事がある。
形態としては、鰯や蟹なんかが大量に集合して排卵と受精を一気にやるのに似ている。
つまり、大量のヘビが一箇所に集まって互いに絡み合う様子で。
それがヘビで編まれた毬のように見える事から、ついた名称って事。
うちの父方の祖父の田舎は過疎化した山村部で、春頃の繁殖期、特に雨上がりの直後に良く遭遇した事がある。まだ年齢一桁くらいの頃の話なんで、芯から恐怖して泣き叫んだ。
ただし、そんな現場に俺を連れ出した祖父の話によると、この状況のヘビは完全に異性にしか関心が無い発情状態なんで、楽に捕獲が可能だそうで。
野生での春先で、労力皆無で貴重なタンパク質を得られると大ぶりな個体をヘビ玉の中から選び引っこ抜いてたり。
その日の晩はヘビ肉の蒲焼き風で実は素揚げ。ハモと同様に小骨が多いので、適当に骨切りしても食感が固いので、揚げてカリカリのスナック風味へ。
そしてカルシウム補給を合理的にの精神な料理だったり。
案外ふっくらして美味でした。
しかし捌く現場で同様にギャン泣きもした俺。
……うん、過ぎてみれば良い経験。
と言うか、食材の大半は村内唯一のコンビニに依存してたくせに、何故にそういう部分には拘ってたのか?
多分、俺の妙に拘りを我慢しない部分はこの祖父からの遺伝だと思う。
まぁ、そんな現実逃避っぽい邂逅が出るくらいに、今回の儀式魔術の様相は異様だった。
小さいお子様には言うのが悩む、まるでインドの交合壁画群を見るような内容の、石像群だった。
正に人間ヘビ玉。
隣にはフィンカ、脳内越しには淑女のミラテル。今の俺には地味に乙女成分が近いので、絶対、場末の温泉秘宝館的な単語は言葉にしない精神で。
と言うか、フィンカはその反応から理解の外の異様な現場な感じでしかないし。ただ石像と化して生きるのは止めてても、身に纏い渦巻く魔力は生者のそれといった異様さに怯えてるだけ。あまり其れぞれの体勢自体には興味なし、と。
問題は、既にそれを理解してるらしき、もう一方。
ミラテルさん、ミラテルさん。
別に恥ずかしがる事じゃないのだよ。これも自然の摂理也。
むしろ、成長し次代を産む人間の理としては正しいポージングの彫像達なので。
……まぁ、少女(外見)故の共感性で自分がそんな格好してるのを想像すりゃ、羞恥するのも仕方が無いが。
……程度の良い情操教育を受けたご様子で。
と言うか、大人の都合には良いが、当人には迷惑成分も多い教育とも言うが。
……さてと。
俺自身にしてみれば今更感も強いので気にするポイントは別のとこで。
因みに、格好が怪しいだけで石像の大半は着衣状態な。多分、捕まって無理矢理ポージングさせられたまま石化って流れだろう。
男と女での密着状態には配置されてもいるが実際に合体もしていない。
あくまで、このオブジェの印象的な状況を造るのが大事で、行為自体は抽象的な感じで済む問題ってとこか。
俺がこの状況を「ヘビ玉」と連想したのはヒドラと対決したのが理由だろう。
其の部分は、多分、意味が有るだろうし。
おそらくは、此処の儀式魔術の「コンセプトは其れ」なんだろう。
生命流転。
そんな感じの意味を内包する魔術。
これを魔力の属性変換と称して良いかは、少々悩む。
まあ、繁殖に傾倒した魔力となると……妙に生命力に溢れてそうな心象にはなるが。
また、其れに蛇の要素が加わるとあれだな。
輪廻転生を具象化したようなデザインのやつ。「自らの尾を噛む蛇」とか「互いの尾を噛む二匹の蛇」とか。
共に終わりの有る命ではあれ、直ぐに次の生を得る感じの意味も有る。
不死性の一形態と言うか?
それが特定の魔物の誕生に繋がる理由はやっぱり判らないが、此処の存在価値の有り様としては理解できた気がする俺だった。
……と、なると問題は。
どうやって魔力の属性の偏りを止めるか……、だよなぁ。
簡単な手法としては、この石像を全て破壊すれば済むんだろう。
防衛システムの懸念は当然有るが、今回は魔力の供給ラインを閉ざす魔石という要素が無いので、そもそも他に止める手段が判らない。
また、前の遺跡でも確認してた、あれ。
偏った属性を満たす段階からして止めないと、結局はヒドラの登場が終わらない可能性の部分。
その部分だけは、今回はしっかり処理せんと。
となると、やっぱり。
この石像の処理か……。
観察してみると服装の印象から冒険者以外にもいる様子。
何処かの村人か?
この付近の村の状況から、一つか二つ全滅しても気にされないとも思うので、それが理由か。
例によって手での接触での簡易鑑定を試してみると……おおぅ、[ジロウ:村人]と個人名が出た。
実は前回の時の鑑定結果は[死体]か[死骸]か[屍]。個人名は出なかった。
……つまり、蘇生が可能かもしれない対象と。
ううむ、己の微量な善性が反応はしてるか。
そのあたり、ミラテル嬢へと対応の丸投げ……あ、そうなの。
考えてる途中で応えが有った。
石化の状態異常は基本的に回復が可能。
神官達の程度と頑張りと信心で左右するもんらしいが。
ただし、石化の期間の長さも回復の成功率に影響すると。
その部分は、身元は予想できても時期の方は無理っぽいので答えは出ない。
ただ、破壊して死亡の扱いにするには罪悪感が増した。
……と、悩んでた時にあっさりと解決策が。
褒められた事では無いが、長々と悩んでた俺の様子に飽きたフィンカが石像の一つに悪戯。
彼女の力でも移動は簡単だったようで、疑似な男女のカップルが解消される。
同時に、周辺の魔力の濃度が露骨に減少した。
それは実に良い情報だった。
壊す必要なし。
少しの労力で済む簡単な対処。
しかし俺の関心は別のとこで。
儀式魔術の場を壊した事で、フィンカに何か防衛機能が働いたかな心配。
……。
ペタペタと何処かに異常が出てないかの容赦ない検査がスキンシップな遊びと感じたらしい。
フィンカの反応としては、特に変化が有った様子も無し。
……とりあえずは一安心。
しかし、拳骨の一つは落としといた。
危険に注意。
あと、自分の注意散漫に反省。
ただまぁ、それでも解決案の提示には褒めとこう。
身をもって示した結果なのだからして。




