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56話

翌朝。フィンカはキャンプにて留守番とする。

昨日一緒にヒドラの確認をしたので物分かりは良い。

あの巨大な蛇の相手に自分が混ざれると思える程、獣人の戦闘センスは腐っていないらしい。

中々にお利口な反応にパパは嬉しいぞ。


キャンプ地は現場からそこそこ離れたところ。

洞窟のある場所の直ぐ上が高台のようになっているので、遠目に現地を見下ろし観察もできる。

物の詳細な識別ができるかは怪しいが、それでも自分で視認可能なら、俺が近くから居なくなった途端に無茶な行動に走るって事も無いだろう。

序でにキャンプ地附近の防衛性も現状で可能な限り施した。例の魔物避けのカンテラもフィンカ自身に取り付けたので、まぁ、一人でも安心だろう。



単身にて移動中に本格的な対策を考える。

今俺が有する戦力で、あの怪獣が倒せるか?

単純な答えだけなら、多分、倒せる。

しかし昨日悩んだとおり、遺跡自体の破壊も含めてな問題付きで。


ではその、遺跡破壊の制限をクリアでの場合は……、で、明確な答えが出ない。

なんにせよ、情報が足りな過ぎるのが問題。

だからその情報収集を本格的にしてみようか。


昨日観察した位置に到着。

相変わらず、何が目的かも判らない動きで塔に絡まっているヒドラの姿が。

現状見える首の数は四本。昨日と合計数が合わないので、他の首は塔内にあると思われ。

ピット管で体温感知されてるかは判らないが、特に反応されている気配は無い。

では……、まずは感知範囲の確認へ。


全力で駆けでの接近。時速何kmかは知らないが数秒で塔の間近まで。

ヒドラには感知された。そして離脱。

MAP内に他の魔物が居ない位置は事前に確認済みで、元のスタート位置とは別の場所まで、最初に居た距離程度離れて逃げる。


……ふむ、感知したヒドラが一瞬は追いそうな気配も見せたが……塔を離れる気は無いと。


そして接近時の感知距離は50mくらいだった。

4本の頭の内感知するのとしないのに分かれたので、意識が連結してる風でも無いと。

そして今は……。

感知された頭に視線を向けられている感じはするが、完全に見送り警戒モードだなぁ。


……となると。

あのヒドラは遺跡を守るために置かれた守護者の役割な魔物……な仮定か。

その仮定が正しいとしたら、まぁ厄介過ぎる。

遺跡と一体化した守護者とか。

しかし仮定は仮定。もうちょっと推測のネタを仕入れよう。


同様に接近後に離脱を繰り返す。

接近時の追加調査で、反応されて敵対行動を取られる最接近距離や、物理な攻撃が通じるか等を確認。最終的には接触して鑑定での情報が得られるかまでを試してみた。

結果は……芳しくない。


まず敵対行動は、された。

どの頭からも離れた胴体に向かったのだが、接触まで5m程なとこで複数の頭が鎌首を此方に向けて伸ばしてきた。

正直なとこ全てを回避は可能だったが、それより前に塔自体がギシギシと怖い軋みを上げたので慌てて離脱。

そしてこの離脱ものんびり逃げてたら追跡行動を誘発して……塔は崩れてたろう。

加速装~置な移動を可能とした自分のチートな身体能力に感謝の精神。


物理攻撃は……、うん、効くには効いた。

接近途中で射た矢は見事に刺さったし、今度は頭に反応される前に離脱のつもりで入れた剣での一撃も外皮の……鱗を割り砕いた。

しかし見てしまった。その鱗の下に、同様に別の鱗が有った事を。

積層装甲かよ、な感想だ。

しかも血は一滴も出やしない。正確には、やたらと粘度の高いものが傷口周辺に盛りあがる感じには出ていた。

つまり流血ダメージを期待できる傷は与えれないって感じで。


最後に鑑定は……無理だった。

[収納]へと回収しての鑑定は一瞬で反応するが、手で触れた程度だと無理なようで。

辛うじて判ったとことしては、魔物の個体名が本当に[ヒドラ]だった事。


後は……。

首の数が8本までは確認できたとか。

塔周辺の土地の荒れっぷりから、何か毒持ちの気配はするとか。

過去に冒険者の到来は有ったらしき骨や武器の残骸が散乱してたとか。

とにかく巨体ではあるが、窓から出入り可能なので胴周り自体はそう太くないとことか。前に電車の長さに例えたが、あれは嘘だった。もっと長い。電車は電車でも外国の貨物列車な感じに異様に長い。

……と言うか、よく自分自身で絡まってないな、あれで。

蛇の胴体でチョウチョ結びが本気でやれそうなのに。


調査が一段落して俺的に最大の懸念が、ある意味俺の最大の特徴である能力が通じてなかった部分。

射って刺さった矢はちゃんと[味付け]済みのやつだった。

鱗が積層だったから痛覚の有る層まで届いてないのかの可能性は有るが、それでも効果が通じない状況にややショック。


しかし、其処でもう一案を思いついた。

「そうだ、今回は誘き出しの方法は試してないな」と。


魔物の前で[万色の調味能]を披露すると、正気を失わせて狂乱状態にできる。

今は其れが、俺が魔王の能力とも言う、違う世界の創造を見せて拒絶反応を起こさせてやってたのだと理解している。

これを頻発すると最終的に魔物だけでなく、この世界から直接の拒絶反応へと発展し、常時世界から敵対の攻撃に晒される訳だ。


……知って以降は自重と言うか、身の安全優先でセーブしてたり。

しかし他に手が無さそうな事態だもんなあ。

其処まで身を削る意味は正直無さげな気もするが……、簡単に結論の出ない問題を延々考えるのも馬鹿馬鹿しいと言うか……。

だからやってしまおう。


……まぁ、やるからには効率的な感じのやつで。



やたらと長い身体のヒドラを穏便に誘き出すのに最適な場所探し、苦労しました。

と言うか。

苦労しても見つからなかったので結局造った。

使いどころの意外に無い、全力の魔術にて。


とにかく他の魔物とリンクの無い広めの場所だけ探し、大地を破壊。

いまだ教師の矯正とは無縁な爆発系火の魔術で穴を開け、連発もして拡張による拡張。

それでもあのヒドラが収まる空間とは思えないが、やたらと深い縦穴型の空洞を用意した。

……後は……、いざの実演にどう反応してくれるやら。


感知範囲になると頭の数個が反応する。

流石に何度も何度もちょっかいかければ気にするようで。

しかし警戒はされても攻撃に移る気配は無しと。やっぱり誰かのシステム的なもんが組まれてる感じ有りだなあ。普通こうも警戒されたら攻撃まで続く反応と思うのに。


まあいいか。

予定どおり試してみようか。


[収納]内の大量の水を原料に別の物を創造。

其れを収納から垂れ流す途中でやってやる。

足下を濡らすそれは水とは違う微かな異臭を放つ物。

人によっては芳香と感じる奴も居るかも。特に「アル中」。

現実の理には無い奇跡の定番の披露。

ある意味、神の御業に魔物は反応せざるをえんかったようで。元々姿を出してた頭部は確実に此方を見つめ、其処此処の窓からは塔内に潜っていた残りの頭部も出て来た。

するとまぁ……。

いや凄い、首の数っすねー……。


……うん。

このヒドラ、確実に神話系統の出自のようで。

とにかく強さを盛ったのが一目で判る演出の精神と言うか。

塔の中の何処に収まってたな数が……。もう数える気も起きない感じで。


一応、指示格らしき一際大きな首は有る。

その周辺を囲む感じで、羽根の襟巻きを巻いた風に無数の他の首が……。

例えがモサモサなら現実はモジャモジャだが。

いや、俺の感想などどうでも良いが、とにかくそんな正体を現したヒドラが俺に向けて完全にキレた反応をしてたり。

一応、成功。

しかし同時に後悔しかない状況。

更には全力で逃げたいが、罠の場所までは追いつかれそうな精神の行動にて。



結果から言えば、討伐は想定どおりに成功した。

流石の巨体とはいえ、縦穴にまで誘い込んで首の付け根程度まで入りこんだら残りの胴体は続いてくしかなかったので。

想定より随分と狭い状況にはなったが、俺が自分で創った穴だけに撒くのは何とか。

後は、奴が狂乱した酒……もとい、消毒薬とも言うアルコールで縦穴を満たしてやり、完成しても誰も得の無い[ヘビ酒]の一丁上がりとなる。


本当のとこは麻酔薬と行きたかったが、あれ、自分の経験だと気化したもんで確実に自分にも影響出るんで。

細胞内に入れるとそこそこ危険なもんで代用させてもらった次第。


因みに、アルコールでも普通の酒飲みにはとても良い香りとは言えんだろう。だからアル中と例えた。酔えるならそのまま死んでも無問題な方々の感性が剛気過ぎ。

美味いからフグ毒満載のキモも食うな、食通の病んだとこに通じるような?


それでも、言葉にすれば簡単な仕事内容も実際の労働時間は半端ない。

単純に相手の巨体を何とかな必須な工程ががが……。

しかも、本物のヘビ酒よろしく、動きは収まったまた討伐しきれてはいないようで。

全身麻痺に近い効果で縦穴からは這い出てこないが、アルコールに満たされたままの状態でまだ動いてはいる様子。



……結局、その日一日はヘビ退治の日となった。

しかも最終的には随分とグタグダな感じで終わる。

麻痺らせたアルコールが大地に染みこんで減ったタイミングにて魔術の大爆発を再び。

だって酒漬けだけで死にそうになかったもんで。

そーだよなぁ。マムシ酒造る時も何日かは酒の中で無呼吸でも生きてたからな。

比して魔物なら何年か? な気持ちになった。


……いやぁ、麻痺って反撃がこない状況で良かった良かった。


しかも、縦穴の縁からの撃ち降ろしの衝撃で何度か巻き添え滑落すらそうになったし。

なんとも、格好のつかない討伐内容になったのであった。


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