55話
推定目的地に到着するのに半日を使ってしまった。
「放任っす、育児教育をするつもり無しっす」と言いつつも、ちょこちょこ構ってしまったが故のスローな行程。
まぁ、特に弁明する気も無しで。
そもそも、そういった相手が居ないとも言う。
……脳内経由のは除外で。
今の保護者は俺なんで。
ちょっとヤッチマッタ感のある部分としては、フィンカの覚えた[肯定]と[否定]の人語解釈が味覚基準になっちゃった事。
[はい]は[美味しい]。
[いいえ]は[不味い]。
指定する対象の物と者の区別無くなところが少々……。
いや、それでも最初は[美味しい]が[ウマイ]と漢らしい表現だったのを矯正したのだ。其処は頑張ったと自分を褒めたい。
……それでも、その二つの概念を俺を通して問うて来る姿勢が身に着いたのは大きい。
少なくとも、道端の謎の物体を口にする前に問うて来るので。
同様に、人の社会に入れも役立つ。
「屋台の食い物を強奪していいのか?」的な質問を実行前にするようになるから。
……いやまぁ、まだシミュレートの段階だけども。
流石に獣人と言うべきか、状況が戦闘寄りの雰囲気には敏感のようで。
目的地近くでの俺の警戒心に呼応し、背負われたまま静かに待機の姿勢が好ましい。
俺としてはMAPの反応に微調整を加えるだけの簡単なお仕事なので、見た目程に危険は孕んでいない。
それでも露骨に警戒する姿勢なのは……今回は明らかに魔物が相手の展開のようなんで。
舞台はまたも遺跡風。
しかもファンタジーの王道のような感じで、窓の数からして7階建てらしき石組の円塔。
如何にも孤高の魔術士が籠もる秘密基地なもんだった。
だが遺跡と称した以上、本来の住人はもう居ないようで。
窓はその枠組み毎朽ち果ててただの穴だし。扉も同様。
更には壁のアチコチも崩壊済みで最上階は半分以上が野晒しの御様子。
そして見る限りの脅威としては、その塔全体が大蛇系の魔物の巣と化してる点。
塔に見合う巨体のようで、窓や穴を通過点にして塔自体を締め上げている様相だったり……。
魔物の反応としても一体だしなあ。
魔物としては一体なんだが、でも頭は沢山だ。
またも多頭の展開で。
けどまぁ、牛のよりインパクトは低い。
そういった姿の魔物はファンタジーでは定番なんで。
……しかし、蛇でその方向って、魔物より神様系の話が多かったりが気になる部分。
要するに、強い。
昔に未開地の探検の専門家による豆知識を伝授された事がある。
「変温動物は習性的に恒温動物を愛してる」だそうで。
全てが当て嵌まるとは言わないが、蛇に関してはそんな感じの行動を常にしろ。……な例え話。
変温動物は環境温度で自分の行動自体を変化させる。寒過ぎたら自動的に冬眠とか、そんな感じに。
ただ、獲物の多くを恒温動物に依存する系統は、動きが機敏で活発なそれ相手じゃ基礎能力から劣る事になる。だから自分の体温をなるだけ恒温動物寄りに維持しようって本能を持ってたりするようで。
具体的に言うと、獲物にできない感じの大型動物に引っ付いていような行動を取る。
寄り具体的な例を上げると、よくヘビ芸で大蛇を身体に巻き付けるアレは、ヘビの「暖をとりたい」って性質を利用した抱き枕の実演な感じで。
……野生の環境でも、それと同じ事が良く有りますよ……という例え話なのだったり。
ジャングルでキャンプ中に寝て起きたら、蛇に添い寝されてましたってな。
勿論、蛇のサイズ的に格納できると判断されたらご飯な対象に切り換わる前提で。
そういった意味で、案外人の居る社会との接点が多い系の動物だから、色んな神話も生まれたんだろう。
大道芸の相方にすらなるんだし。
……でも、あの魔物は無理だろうなぁ。
またも怪獣規模の相手だし。
此方の世界の風潮的に、[ナーガ]か[ヒドラ]と仮称しようか。
……まあ、退治された系で、ヒドラで。
例によって視認による鑑定は[魔物]としてしか記載しないので仕方が無い。
流石に、正確な鑑定したいからと、都心部の電車以上の長さっぽい巨体に初見で接敵とか無い方針。
慎重に行きたいから無策で体当たりとか、本末転倒過ぎる。
幸い、MAP反応後の遠目での確認も取れた相手なんで、塔の全様が観察できる地点を最前線。その後方で籠もるのに丁度良さげな横穴洞窟をキャンプ地に決めている。
もう夕方近いしな。今日は排除予定の敵さんの観察でお仕事終了の精神で。
何か理由が有るのか知らんが、ヒドラは一時も止まる事無く塔に巻き付いたまま動いていた。窓の一つから中に入り、別の窓から頭を出す。多頭なんで主導の頭に引かれて他の窓から頭出してたのが途中で引っばられてくのが御愛嬌。
ただその間隔に間延びが随分とあるので、頭と頭の接合点までは結構長いんだろうと推測。
仮に近接での戦闘の場合は、一体が相手って気分は棄てた方が賢明か。
単純に多数の蛇から全包囲で一斉攻撃受ける気分で居た方が……。いやいや、そもそも、そんな状況を許すのが間違いか。
……遠方から魔術で射撃、が賢明だろうなー。
あと、多分急所で一撃とか通じないタイプだろうし。
蛇とか頭が一つでも暴れる意味じゃ死に難い。頭潰しても普通に身体は動き続けるし。
……うーん。
地球基準が通じるなら、爆圧対応で何とか?
要は全身の筋肉組織と神経組織が無事だから起きる死後行動。
電池の燃料が切れるまで動くのを止めないブリキの玩具と原理は一緒。
だから一瞬で止めてやるには、その稼動部位の組織全体を壊すしかない。
爆圧対応はそれをするための簡単な手法。
俺の経験での例で言うと、大口径銃での射撃。
これで当てるとその部位を起点に相手の全身へと衝撃を伝えれる。伝達経路は血管とその中身。一瞬で血液を膨張させる衝撃を生み、その衝撃で全身の血管の脆い箇所を破裂させるのな。
良くて全身麻痺。悪ければ毛細血管毎筋組織を破裂させれて手間少なく相手を沈黙させられる。
向こうの専門用語だと[ストッピングパワー]と判りやすい能力値で。
最も、それはあくまで、対人性の範疇での話。
それをあの巨体でとなると、戦車じゃ足りない。
艦砲が欲しい。フリゲートのクラスで。
自立誘導弾なら、尚良し。爆圧伝達に効果的な起点部位は心臓なんで。
……まぁ、無いんだけど。
言ってみただけだ。内心で。
現実的なもんとして、それを再現可能にのは……やっぱり魔術。
爆圧から連想できるのは火の系統だが、今回の血管を通してでは水の属性の方が、衝撃の伝達って意味じゃ有効かも?
ただし、その起点を体内の大きい血管がある箇所って制限が難問だが。
そもそも魔術を当てて貫通可能かも未確認だし。
そして何より。
多分、倒すと同時にあの塔自体も破壊って線が濃厚で。
もう、あのヒドラと塔が一体化なレベルで接してるので。
例え一瞬で無力化できても、その一瞬の全身の痙攣で塔が崩れる気がする。
……調査って意味じゃ、それも駄目な選択だよなぁ。
遠めの観察じゃ情報不足過ぎて、思考の海から答えが出ない。
しかし時は流れて周辺が暗くなって来た。
もう今日は時間切れだ。
そろそろ探索予定の期間としてもタイムリミットだが、明日……か明後日までの延長は想定しておいた方が良いか。
ミラテルへと効果を生む生きた魔術のサンプルは、今後の行動予定を立てるにも必須だし。
そんなわけで、初邂逅は此方の惨敗。
スゴスゴとキャンプへ逃げ帰ろう。
なんか悔しいので、その分をフィンカを愛でる気分で帳消しに。
[収納]内の食材をふんだんに使い、二人でも絶対に食いきれない大盛りチャンコ鍋を演出してみた。
肉に野菜に魚に、更にはフィンカにとっては未知の食材となる加工肉の数々。
全て煮込んで渾然一体となった旨味を堪能するが良い。
俺も慣れない思索に脳が疲れたので甘味も出すよ。
作ったは良いが使う機会も無かった渦巻ペロキャンが大量に有るのだからして。
俺が舌先でチロチロ舐めるのに対して、フィンカからはバキンバキンと砕く音がし続けるのは愛嬌で。
……いやまぁ、流石は獣人。




