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54話

俺は獣人に関しての知識を持たない。

一応、世間話(酒の席での愚痴聞き)の範疇でのもんは仕入れているが、最後に「人の形をした野獣」の一言に収束するんで意味が半分以上無かったり。

俺自身での知識は幻想ジャンルに偏ってるのでこれも意味無し。

と言うか知識とは言わんな。妄想だ妄想。

ネットの病みに棲む膨大で肥大な妄想厨が空気の嫁と同レベルで積層したファンタジーの産物。

むしろ現実の食品業界で作れば馬鹿高く売れるハズレ無しなジャンル、愛玩動物用食品の対象を擬人化した病みっぷりが半端無い類の幻想情報とも言う。


が、しかし。


今俺が体験してるのは……その妄想方向に傾いたものが信憑性を高めて行く感じで。

状況観察だけのもんを言葉にすれば、ケモノ系のコスが飾った三歳児が自分の周辺を絶えず駆け回って笑ってる様子。

観察視点を変えてみると、人の形をした小動物がリード無しで暴走してる様子。


……ああ、こっちの世間情報の成分も少し有った。

うん。確かに野獣だ。

行動の基本的な部分が。


まぁ、後に当人に聞いてみると。

行商人が居なくなって依頼、外に出れる機会がめっきり減った反動が出たせいだと。

その証拠か、ものの30分もしない内に体力切れで背負う事になった。

リュックの上に。

ネコ科の特徴が出たのか、以来その位置が気に行ったようで移動時の定位置に。


……まぁ、此方の都合的にも特に困らんのではあるが。


獣人が人間に比べて体力が有るのは自分の眼で確認できた。

だがしかし、持久力がな。

まだ子供と言う事もあって実に短い。

移動には自分基準のチート速度も使いたいし、下手に着いて来させるよりは背負った方が安心だ。


……そして、披露した俺の性能は獣人基準をクリアしたようで。

その日の移動を終えた頃には、彼女から「ダニャ」の尊称を贈られた。

いや、随分と感動した表情でそう言われたんで、[凄い人間]程度に解釈したのだが……。

この直後に脳内でミラテル訂正が。


獣人社会は動物的特徴で部族に分かれた小集団で暮すのが普通で、人間基準で言えば国といった形態すら取らない。

それは使用言語に関しても同じで、他種族に対応する感じで獣人用の汎用共通語自体は存在するが、普段使いは部族語となる。

だからこそ言葉の伝わらない現状。

基礎教育で高位にいるミラテルでも翻訳できない難易度のそれ。

ただ今回は汎用部分での発音だから拾えたので……の訂正内容。


……なんとまぁ、「父親」を指すのに等しい内容だったようで。

つまり、「パパ」と呼ばれてしまった俺。


つい、膝から力が抜けてしまったのも仕方が無いと言う事で。


これも後日、内容は訂正された。

獣人汎用言語とは言え、人間社会圏ではそう広まっていないが故の誤解の部分。

正確には、「父親」ではなく「父親のように強い大人」を意味するそうで。

部族内全員家族な解釈から発展した意味合いからが原因の理由と。

人と接点のある獣人環境で子供が親を指して呼んでたので、そう伝わったのだとか。


まぁこの時は降って湧いた扶養確定の宣言に戦慄するしか無い精神状態。

それしかなかったのであるが。


前世の頃。

情勢の不安な地域に赴任した時に親を無くした子にパパ呼ばわりな経験はある。

日本のJKに呼ばれるそれじゃなく、本来の意味でので。

其処で父性に目覚めて覚悟を決めれるのは、後に其の国で救国の父とか呼ばれる偉人なんだろう。

なんせ、何百何千の子にそう呼ばれるから。

向こうにしてみれば、そうしてでも頼る対象が無いと心身共に飢えて死ぬ未来しか無いから。生きるための活力は無からは湧かないし。最初の一滴くらいは誰かが注がないと枯れるのだし。

ただ俺は無理だった。

まだ二十歳そこそこの若造が、日本の未成年時代のいい加減なスキルを根拠に他人の命を大量に面倒見るのに恐怖した。


獣人娘のパパ呼びに、そんな草すら生やせない黒い歴史が意識に復活して、洒落にならない後悔の自責に襲われたり。

……それから数年もしない内に、人の命の価値感が駄々下がりはしたが……、当時の心象はまだ健在だったようで。


これで実際に結婚や育児経験を経てたなら、多分その心象も変わってたんだろうが……其処は真実を知らない想像でしかないので。

結局意識の黒い部分も濃いままに。

けどまぁ、今回は子供が一人だけ。

ちょっとやそっとじゃ潰され無いチートも得てるし。

それこそ魔王と呼ばれても……は少し躊躇はするかもだが。

不遇そうな子を養うくらいの気持ちは折れないようで。


……まぁ、それも良いか、に落ち着いた。


……地球に残した、何人か居る筈の俺の子ら。

ちゃんと元気に育つといいなあ。


ああ、その子らの教訓も思い出した。

先ずは獣人娘の名を聞かないと。

俺は娘の名すら知らんのだからして。



ミラテル経由で汎用獣人語を駆使し、何とか聞いた彼女の名。

『ルーフィンカ・アームラス・センテ・リフィールルド』。

家族に呼ばれる愛称としては、単に[フィンカ]。

長々しく呼ぶのは、いわゆる[真名]と称する条件としてとか。

……いやいやいや、真名とかそれ、完全に後に引けない立場になりそうなもんだから。

何が覚悟か。

まだ全然、自分の立ち位置にブレてる俺だった。


……あと、ミラテルさんミラテルさん。

「リフィールルド……[リフィスの愛し子]?」とか曰付きの注釈は、今は要らんので。重いから。フィンカの存在が凄く重くなるから。



さて、親の気概とやらは、昔赴任先で出会った少数部族の其れに倣う。

残念な事に前世の自分自身のは役に立たないので。

なんせ父親は家族を金で養う行動のみで、当人は仕事三昧で姿すら余り見なかった。

母親は夫の居ない時間を子に注ぐでも無し、[暇な時間]と称して家を空ける人だった。

いわゆる家庭崩壊か仮面家族の一歩手前なもんで。

父親は真正の仕事人間だったようで、「慰謝料取って離婚もできない」が母親の愚痴の定番だった。


そんなもんを身近に過ごした俺が絶対参照しちゃいけない家族の定義だ。この部分に共感するのは結構多いと思うな。

対して、例えは悪いが原始人同然の暮しでいた家族の例は、良くも悪くも全員で感情をぶつけ合うもんだった。

父親が特に親らしい愛情を発揮してたとは言わない部分は自分の父親と重なるが、家族や子と接する距離が目の前ってとこが致命的な違いだったと思う。

正に、人生の教師的に。

ただ親が大人として行動する姿を見せてれば、自然と子はそれを親の姿に当てはめる。

特に親が教える手間は要らない。子が勝手に覚えていくのだし。


獣人娘の方から頼れる者と思われてるのも都合が良い。……扶養新米以前の俺には最適な状況だろう。


放任主義の方向で実践するが、意図する部分も一つだけ。

とにかく、「環境の観察力」だけは教えるつもりで。

自分の周囲を状況分析する意識が無きゃ、将来絶対、生き残れない。

自分で目にした獣人の基本行動はそんな危機感が頻発するくらい、無鉄砲だったので。


先ずは慣れてるだろう野生の環境から。

自分がチートでズルしてる部分は隠蔽したまま、僅か数メートル周辺にどれだけの有益と害が有るかを実践していく。

草原の中には様々な草が有るので。

薬草も有れば軽めの毒草も有る。

薬草は美味しくて、儲かって、嬉しい。

毒草は儲かるかもだが、同時に害なって、食うと不味い。

自分の舌と味覚で覚えるのは非常に大事。


そして……味覚に訴えるのは案外効率的だったようで。


その日の晩、俺の手解きでフィンカは早速、野草のスープで自活する第一歩の知識を得た。

愛娘最初の手料理である。

味は少々薄味だが、これを美味いと言わずに何と言おうの精神で。



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