53話
朝飯の後は若牛の解体作業へ。
尊い命を頂きます。合掌。
その作業の間に、件の行商人の情報を聞く。
外見的には、領内では特に奇抜でも無い普通の男だったという事で。
年齢は40代後半。この世界では既に初老の範疇のようで。
ええっ、ちょい待ち。
俺も前世からの精神的にそう変わらん感じなんだけど。
体力的な活力に関しては前世を比較するのも憚る付きで。
……まだ、一部実践のデータが欠けてるのも含めて。
獣人娘の事は村内では周知済みで、流石に養う行商人が逗留予定内で一ヶ月の行方不明となれば、失踪では無く死亡扱いらしい。
そのため、仮の養い役としてあの婆さんが担当している。子供でも女が多い環境に置いた方が安心できるだろうとの……村長の判断で。
おお、居たのか村長。
普通に30代のオッサン風で其処らのモブと区別がつかなかった。其の行動も含めて。
実際、過疎村の消防団団長的に無理矢理推しつけられた感の大きい立場だそうで。一言で言えば[損な役回り]。
日常からして不幸誘因体質。
どうも、今日は解体仕事に必要人員の調達ありがとう御座います。
でも仕事以外での接点は極力少なめで。縁の不幸は伝染るもんなんで。
えんがちょ、えんがちょ。
今朝仕入れた情報を村の管理者と共有するかは……悩んだのだが止めにした。
作業途中に起きたらしきミラテルとの合意の判断。
例え責任者とは言え、こんな場所でそんな経緯の責任者が知っていいもんじゃないって事で。
単純に資質の問題。
指導の立場の存在は[私を捨て公を取る]のが必須の能力。
しかしこんな環境の遣っ付けの立場となると、自分が面倒だからと問題を単純に終わらせようと、実に良くする。
今回の場合は、問題を問題にしたくなくして揉消すか、極端に大事にするかか。
俺が系の廃墟の話を伝えたら、面倒だからと現場を破壊して無かった事に……とか。その延長で怪しい奴の関係者だからと獣人娘の殺処分すらしかねない。
また、其の結論の中で村内の人員を強引に繰り出して森林部に山狩りとか。
魔物に遭遇、若しくは当の危険人物な行商人と遭って返り討ちな致命的被害に遭うとか、多分思い至らない。
そんくらい馬鹿なのだとだと、考えないと危険な訳で。
結局は、根幹の部分ではミラテルの貴族経由のパイプに頼る事となった。
今判ってるのは、あくまで事件らしき異変の一端。
その全容を推察するのも含めて、魔導国の責任者と自治公爵領とのトップでの情報の探り合いから始まるらしい。
そんな話し合いの流れに済し崩しに決められたのが、獣人娘の確保。
……と言うか、保護。
奴隷契約や人間域での活動許可の痕跡も無いのが逆に危険だとか。
下手すれば、信仰関係の問題抜きでも疑心暗鬼でリンチの対象も有りだとか。
特に此処の村では、今は各地から雑多な人員が集まる途中の状況。何処かの地域経由で「獣人危険」の認識が生まれたら、その時点でトラブルは未然に防ぐの精神が蔓延する懸念も有るそうだ。
まぁ、其処は同意しよう。
たった一晩だったが、あれは本当にただの子供のようだし。
もしトラブルに関係する要素が有ったとしても、多分、二次的な感じで当人に自覚は無い方向のだろうし。
……と、言うかね。
ミラテルさん、ミラテルさんや。
さっきから会話の伝達の隙間に「モフりたい~モフりたい~」な気持ちがタダ漏れで伝わってるから。
そっちが絶対本題だと、もう手遅れで伝わったから。
と言うか、ね。
既に可愛い系の衣装を作る段取り立ててるのも、伝わってるから。
別に止めはせんが……、やるのは彼女の同意の上でな。
あと、その予定は一応、次の探索予定地を回った帰りの話になるから。
……いやいや、牛の解体はその追加依頼の話以前に決めたもんなんで。
優先度は高いもんなんで。俺の中では。
くくくくっ、状況的に現場の判断は全肯定なのだよ。
さて、牛の内臓に適するかは知らんが、若牛で小さい個体なんで問題も無かろうの精神で。
[収納]から取り出したミンサーを披露し、効率の良い腸詰め工程も追加した。手作業なら大半捨てざるをえん軟骨も纏めて長い長い腸の活用に役立った。
それによってホルモン成分多少目減りしたが、其処はまぁ、完成品のパリシャキ食感で相殺の感じで。
結局、作業終了後の午後から夜にかけて、また宴会。
今回の主役はミンサーとその成果物。御買い上げは魔導国の魔術士ギルドが窓口ですんで。冒険者ギルドが受付代行もしてるので依頼の敷居は低いですぞ。
ああ、名刺を切らしてまして申し訳ない。ワタクシ、Dランク冒険者のショウガと言います。自慢じゃないですが結構良い成果を残してる割に、一向に昇進する気配も無くて。出過ぎた杭は叩かれるってやつですよ、嫌ですねぇ。「ちょっと変な対応」が有るかもですが、そんな感じなんで問題はありませんので。
……因みに、現在の俺の冒険者ギルド内での評価は[毒殺ショウガ]な二つ名だそうで。正直、初対面の相手には絶対良い印象は与えないもんだったり。
「良い仕事しますねえ」とか感想くれるくらいなら、その二つ名の変更をとっととしてくれな精神。
それで敷居が高い感じなんで評価も上がらず、だからランクも上がらない。
いまだに活動の主役は常設依頼の消化のみじゃ評価以前の話なんで仕方が無い。
まぁ、知名度上がり過ぎて面倒な依頼が増えるのは逆に勘弁でも有るのだが。
しかし、その面倒な部分は実は地味に増えてたりもするのだが。
……俺、冒険者であって暗殺者じゃないからね。
しかも、仮に暗殺の仕事だとしても雰囲気は真逆だから。
殺られる相手が全員、傷に激辛の激痛食らって絶叫付きの七転八倒の悶絶を披露とかどうよ?
とても暗殺とは無縁の状況になる事、受けあいの現場。
……俺の仕事、絶対に減る方向のもんだよなぁ。
ちょっと内心で傷ついたのは見なかった事として。
さり気無い営業で予定外の一日を使ってしまった。
そして、再びの猫行火の一夜。
どうやら、確実に婆さんの思惑が働いてるようで。
婆さんも貴族に倣う立場の知識持ちなんで、獣人娘の境遇を察しているらしい。
だから異邦人の俺に世話役を推しつけて、村から出そうとしてる感じで。
ミラテルの案件の都合も有るので、其処は仕方ないな方向で動くつもりだ。
ただ、元の予定がね。
行く方向は判っていても到着予定地の情報はまだ判らず。
村内の世間話で集めようとはしたんだが、特に人里でも無い方向で結果は芳しく無く。
とは言え、二晩目にして其の当人の反応も……。
こりゃ完全に懐かれた感じか。
昼間の用事で離れたのが切っ掛けだったようで、再会時のものは飼い主を見つけたワンコロ同然のもんだった。
婆さんの満足げな表情が恨めしい。
多分、何か入れ知恵してると予想。
当人も村では外様を自覚してるようで、案外、本当に新しい飼い主と出会ったな感じかもしれんけど。
結局、次の日の移動には連れて行く事になってしまった。
一応、近場に移動した後に一度は戻ると言ったが駄目だった。
行商人や冒険者など、特に一見な行き摺りの人間の約束事の信用度は低いようで。
……脳内で連呼される「早う早う」の部分は此の際、無視無視。
……なんか此処数日で随分と愉快な子になって来たなぁ……ミラテル嬢。
その後。
元々の行商人が置いていった荷物から獣人娘の世話にかかった分の品を渡し、残りは俺が貰う事に。
それがまぁ、世話を推しつける報酬の代わりでも有り。
中々に、人一人で背負うには大きいリュックには、見た目の割軽くはあれ、ちょっと短時間では確認のしようの無い大量な何かが沢山。
……うん、後々の確認で。
意外と当人は戸惑いも無く着いて来る気のようで。
こうして、実のとこ先の着地点の見えない旅の道連れが初めてできた。
未来の何かな立場の可能性としては……、現状は養父かね。
まぁ、そんな感じで。




