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52話

翌朝。

ほぼ日の出と共に目覚めた。

特に問題は無し。

確かに良い感じの行火だった。

むしろ密着度が高過ぎて一時は熱いくらいで。

寝冷えと無縁な一夜を過ごせたのは……確かに良い宿だったと感想を言わなきゃならないだろう。

ただし、眠り自体は随分と浅かったが。

理由はこの行火の寝相の悪さ。

いや外見相応のもんと言えばそうなんだけど……。


ずっと俺を抱き枕にしてたのに何で姿勢が天地逆と化してるのか?

こめかみに二度膝蹴りが。更に踵落としが一度来て以降、何故かMAPに脅威反応が常駐したんで、危険察知の効果か攻撃が来る寸前に強制的に覚醒させられる。

結果、一晩中ちょこちょこと起こされた訳なので。

チートな体力のお陰で休めなかったという感覚は無いが、精神的には休んだ気など欠片も無いわ。


ネコ科の野生は何処にと問いたい。

初対面の時は僅かな警戒心も感じたが、一瞬で家猫と化したぞ。このケモノっ娘。


流石に一晩抱きつき続けるのは無かったので、今は一人で身を起こす事も可能。

今の内にとベッドを降り身支度を済ます。

まぁ、[収納]内で煮沸処理したタオルを出して顔と髪を拭くくらいだが。

熱い湿気を顔を浴びたので完全に気分が覚醒する。

再起動した思考で最初に考えたのは、やはりこのベッドの事。

使用後の違和感の無さといったらまあ……、普通に昔、モーテルで使ってたのを思い出す程度の性能は有った。

内部構造は十分だが、逆に少々、カバーの生地の方に残念感が。

製糸技術が手作業の延長線から抜けていない。此方は完全に手工業の域と言う訳だ。

ただ、其処からこのベッドが此方の世界で作られたものだという根拠にもなるのだが。


……ううむ、なんか急に文化レベルのチグハグ感を感じるようになってきたなぁ……


実のところ、初歩の機械工業が完成すれば曲面構造の製品の難易度はそう高くない。

デジタル技術で真なる円や球体を作るのは計算式の欠点で難しい反面、アナログ技術なら枝と紐で簡単なコンパスを作り円を引く事で済むという感じで。


このベッドのスプリングも、太めの針金を一定の圧力で曲げ続けれる射出機構とガイド穴が有れば簡単に作成できる。

髪の毛を指の爪に引っ掛けて引けば綺麗なコイルになる構造と原理は一緒。


問題は、その太めの針金を原子配列のレベルで均一性を出すのと、適度な硬さと粘りを両立させる焼き入れ温度の長時間の維持管理が面倒なのだったり。

人力で軟鉄をトンカンする環境じゃ難易度が高過ぎるもんな訳で。


この二つの要素に関しては完全に大工場といった規模が必要だから……、本当にその規模の現代工場施設が無いのだとしたら、可能な予想は魔術だろう。

しかも、絶対に地球産の魔王が根っ子に居る技術の系譜で。


もしこのベッドが公爵領の産物なのだとしたら、「何時か」か「何処か」かで、接点が有るって証拠なんだろなぁ。

……そのあたり、どうなのかね? ミラテル嬢。


……

……

……

……返事ねーな。

……あ、まだ寝てるか。

いかんいかん。自分が起きたから向こうも起きてるとか考えてた。


時間的にケモッ娘でさえ腹天・大の字で寝てるんだから、御貴族様も当然就寝中だよな。

年経る毎に朝が早くなるもんなぁ。

そして一度習慣付くと、平日と休日の区別も無く目覚めるようになるし。

こっちに来て外見も少しは若めになったのに、習慣が抜けてくれない。

オッサンはオッサンなので仕方が無いと言うばそうなんだが。


この娘と朝飯まで一緒にする理由は無いので仕度を終えたら個室を出る。

MAPの反応と微かに伝わる寝息……じゃなくて鼾の微振動にて他の御同輩も就寝中だし、静かに静かに。

しかし受付には、普通に婆さんが座ってたり。

……この婆さん、何時寝てんだ?

……まさかどの時間でも「この村は○○だよ」としか言わないNPC体質って訳じゃないよな?


いやいや。実態はまぁ、年相応の早起き体質で、俺と似たようなもんだった。


クレームって訳でもないが、流石にあの外見も中身も子供なのを斡旋なとこには一言のつもりで……何故かそのまま、婆さんの仕度による朝飯の方向へ。

すると出て来たのは……、なんと白米に味噌汁、納豆プラス生温玉に主菜が……此処だけは鮭では無い、謎の焼き魚の定食仕様で。


……なんという……、古式縁しき日っ本の朝ごはん!


すると俺の反応に婆さんが深い深いため息をついて「やっぱりねぇ」とボヤカレタ。


……あれ?

なんかこんな展開、少し前に出会ったような?


そして驚愕の事実。

この婆さん。実は此処の公爵と直の縁の有る貴族関係者であり、尚且つ、異世界産の魔王に直接関係する血筋だったりした。

祖父が俺同様の転生者で。


[アケミフィ婆さん]、微妙に日本の語呂を含む。

と言うか源氏名? え、本名? 業が深いね、御爺さん。

お水な仕事に入ってるのって、名前が理由じゃないよな?


まぁ、当人はとうの昔に他界済みと言う事で。ただ婆さんは昔話の感じで色々と日本関係の情報を聞いてたそうだ。そして、又聞き式の知識チートとも言う技能に開花し、あのベッドの製作者なのだとも判明した。

昔から行商人の中に身元の怪しい奴がいまくったので、そんな対象を焙り出す道具として絶賛活用中との事。

俺の推測どおり、此処の世界じゃ未知の技術が多用された逸品を行商人に示せば判りやすい反応が帰って来るのが普通。

むしろ、それを無反応で返した俺は「既にその技術を知る者」として、婆さんのかけた罠に見事に引っ掛かったと言う訳。


トドメはこの朝飯。

まず確実に、出身が判る反応をするそうで。

……神様……、本当に日本からの拉致が多過ぎのようで。


因みに、獣人娘の件は日本人やオタク云々の件とは別だった。

純粋に此方の感覚では合法の範疇で。

あと、猫行火の話も本当で。

極寒の地なら夜通し火を焚きまくるのも必要なコストだが、ここいらの地域じゃ少し寒いくらいの夜は子供を暖房代わりってのも普通だそうで。


問題の部分としては、俺以外の客は普通に夜のお客なんだけどな。

其処だけは解せぬ。

しかし「残り物は残り物だよ」と簡潔に切り捨てられた。

「良い物は速い者勝ち」の業界なんだそうで。

……ああ、其処は納得。


さて、その流れであの獣人娘の経緯の情報も少し。

彼女は元々は、其の行商人の一人が連れていた。

残念な事に、人間中心の社会なんで獣人や亜人を奴隷化しての商いは存在する。

その部分に俺のブラックな業歴の部分がちょっと刺激されたりもしたが……、理由が理由だったので納得するしか無かったとこも。


要は、人間は人間社会のルールを守れるから人間という解釈な訳で。


亜人の枠に収まる人種は、そのルールを端から順守する気が無い連中ばかりなのだ。

向こうにしてみれば極日常の行動のつもりで……屋台から食いたい物を実力で得る。それが時に死守と化したら、もう確実に犯罪で。

人命尊守の感性でも結構衝突するそうで。もう話しあいとか妥協とかする手間が惜しく感じるくらいに頻繁に。

結果、亜人系の奴隷はそんな常識のズレを解消した存在に矯正済みだと言うくらい、昔の人間の苦労の成果として今になる。

いわゆる、実態の話では正式な外国人労働者な解釈だろうか。


「ロシアではグリズリーが肉体労働者枠」ってくらいの意味も含む感じになるが。


そして、長々と説明した割に、ある獣人娘はそういった対象でも無かった。

その行商人がただ連れ歩いてた同行人。

嫌な言い方をすると、迷子をそのまま連れているな感じで。


そしてその行商人、「この附近でしか得られない素材を回収したいから、その間の世話の面倒を」な経緯で彼女を置いての約一ヶ月。音沙汰を無くして今に至る。

……ああ、なんか謎の一つが解けちゃった感があるぞーう。


一ヶ月、かあ。

例の信仰系オブジェのの作成時期とピッタリだよ。


念のためと、地味に気にしてた部分も聞いてみた。「今日俺が貰う予定の若牛以外に、他の牛は居なかったのか?」と。

そしたら案の定、脚を怪我して群れの移動から外れた間引き予定の一頭が行方不明。

あと、他の地域から此方に移動して来る予定の娼婦が一人、まだ到着していない。

予定では三週間前には着いてる感じで。


……他の素材に関しては情報は……、昨日聞いた泉近くにはトカゲ系の魔物が。此処より少し、領内の中心に近い草原では牛を浚う大型の鳥の魔物が。

見事に全ての要素が埋まる。

残る男の成分?

この地には余る程、居るだろうに。

しかも、余所者同然に互いがよく知らない連中ばかりって状況で。

一人くらい、誰とも知らずに消えたとしても……だ。


少なくとも、実行犯の目星と言うか、容疑者の身元は揃ってしまったと言う話で。


本題以外の部分でキナ臭い空気は勘弁願いたいんだがなあ。



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