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49話

程無く……まぁ、軽く20kmは移動したがシュマニー村らしき集落を発見。

MAPに出た人の集まる反応の場所だった。

周囲は酪農地だが厩舎らしき建物は見当たらず。

どうやら放牧家畜を移動させる中継地的なもののようで。


近づくと個人宅は少なく、長屋形式の寮っぽいものが三連ずつ、複数並ぶ様子。

どうやら独身か単身赴任の定住するものの少ない環境か。村と言うより基地って場所らしい。

随分と目立つ歓楽用の施設も在るし。住人の比率も男寄りってとこだろうな。



向こうからも俺の姿が判別できたのか、害獣避けらしき柵の辺りに人影が二~三人。

露骨な害意の反応は無いが、警戒心が有るのは仕草からでも良く判る。

……あんな人跡未踏一歩手前みたいな森林部から人が来れば当然って反応だろう。

今回は……流石に獲物を追っての遠征冒険者を装う時間が無かった。

森の移動中に魔避けを使ってたのが裏目と言うか。魔物の存在は判ってても現物の視認が出来なかったからなぁ、[収納]内の魔物で偽装しても通じるかの判断ができんかったので。

棲息域の露骨に違う魔物を用意したら逆に不審がられるし。


声の届く辺りで「よう兄弟」的な挨拶をすると、とりあえずは拒絶されない雰囲気に。

冒険者証の存在も大きい。

暴漢同然でも……身元が分かるのと分からんのでは心象が違うも当然で。

しかも明らかに自衛が必須の害敵が居る環境だと、味方戦力予定の人材には好意寄りになる。


自己紹介半分の世間話から始めて、今回は穏便な接触と行く。

なんせ肉の入手の難易度が変わる大事な要素。

殺してでも奪い取るな精神は確実に有るが、其れを前面に推したら世界の敵以前に近場の世間の敵になる成分が多いし。


さて基本となとことして。

此処が[シュマニー]なのは正解。

名の由来はサーブワン公爵領の数代前の当主による命名。なんでもこの地方に存在した古語で[132]を意味するそうで。

単純に番号だった。

そして、此処の土地には最低でも百番台の三桁でこんな基地村が在る訳だ。

村の機能はミラテル情報のとおり家畜の巡回を補佐する場所のようで。周期は大体半年毎。此処は其れが一ヶ月程前に終わり、今は駐留人材の交代が段階的に行われている途中との事。

現時点での総人口の情報は貰え無かったが、其処は外様の人間に軽々しく話すもんでもないので。現戦力の開示とか重要情報。


それでも世間話の雰囲気から村人の三割程度は新人に切り変わってる感じで。

時期からの推測だと……三回くらいで全員交代って感じかな。

その間隔で、先輩後輩の立場を配し環境の慣れの平均を取ってるようで。専門の教導人員を置かない運営方針と。

……定住する村長くらい居るよな?

でないと直ぐに腐るぞ。気性の適性無しに上位者の立場に据えるとか、群れた途端、性格がクズに化す愚者を産むのが必然だし。


しかも今は仕事らしい仕事も無い時期のようで、緊張感の無い日常だとそんな腐敗の温床は拡大しやすい。


……もっとも、そんな俺の懸念も当然対応済みだったようで。

環境の自然復旧で暇なら、別の用事が回るようになっていた。用水路の建設。その敷設要員。

この土地の様子からして、元々は森林部を切り開き肥沃な土地を活用してたが、それも長く草原のままにしておけば何時かは枯れる。しかし、ならまた放置して森になるまでとかは非現実的な訳で。だって普通に何千年と必要なもんだろうし。

ただ、森の栄養素を水を通して引く事なら比較的楽に可能。

俺が来た方向の森林部に大量の水を湧かす泉があるのは確認してるそうで、其処からの草原部に用水網を配する事で土に活力を補給してるそうだ。


……なんとも、不思議なくらい魔術と無縁な……この世界の感覚とは違うものを感じる不思議。


しかも用水路とは言ってもその状態を固定すると草原から別の環境、例えば沼地と化す危険もあるようで、作ると同時に埋め戻す事もしてるそうで。

……なに其の[賽の河原]状況な仕事と思ったり。

……もしかして、土地機能云々より人間調教の方を優先してね? な感想が強くなる不思議。


……いやまぁ、農耕関係は人間も家畜化した方が効率は良いのだけどさ。

コツコツ働くのが必須な環境に、反骨心旺盛な人間は害悪な訳だし。


捕虜収容所の苦行とは違うようで、仕事と休憩は割り振られている。

俺が話を聞いたのはそんな休憩中の連中だったようで、休憩中でも暇なのが嫌なのは自発的な警備とかしてるらしい。

……ああ、あの歓楽施設は夜間限定のもの。昼間から開いてたら、此処にこの連中は居なかったろう。

逆に言うと夜間の警備態勢が非常に不安。魔物は知らんが、野獣の類は夜行性だろ、普通?


……ああ、なる程。

用水路を作る序でに罠も設置してるそうで。

定期的な間引きで害獣侵入の被害は皆無に近いと。

しかもそれが村内肉成分の大多数と……え、肉?

霜降り肉は?

……ああ、家畜は売り物っすか。

高品質の売り物は育成側の口には入らんよね。うん、そうだった。忘れてた。

しかも、ならば買おうにも、此処には今、肝心の現物が居ない。


ちくしょう。


ただ状況は絶望一色では無かった。

売り物の家畜は他の土地を巡回中だが、その巡回に適さない部分は例外的に各村に置いておく事も有るそうで。

具体的に言えば出産直後の母子がそれ。

産まれたての子牛を食用にどうこうとか流石に外道な話になるが、其処は俺の要求的にも除外で。

個人的に乳臭い肉は苦手なので。子牛は当然として乳牛も駄目なんで。


それはさて置き、牛だ牛だと喜んでいた過去の自分の浅慮を問いたい。


此処は異世界。

何故に俺は、地球基準で物を考えてたのかと。


いや、多少はこっち側にも責任は有るかも。

なんせ、俺が「牛」と称する部分をこっちの住人も否定しなかったし。

……ただ……、「牛」の解釈の違いってとこは……神様的な注釈付きで前説が欲しかった……なあ……。


母牛のたわわに膨らむ乳房をグイグイと無心にむしゃぶるのは一頭の子牛。

その乳の数は地球のと同じで四つなのだが、全ての乳首は全て子牛によって絶賛稼動中。

しかし子牛は、一頭である。


……うわぁ……、此方の牛は基本的に四つ首の多頭のようで。


まあ、母牛の方もそうなのだし。


流石に多頭の動物に絶句する俺の反応は理解できたようでの、村人の補足。

この世界の[牛]と称する偶蹄目は、過去は魔物だったものが野獣との交配で形になったものなのだとか。

同時に家畜化も完成したそうで。現在では人が管理しないと簡単に絶滅するようなもんらしい。正に人に食われるために存在する命と。

多頭の性質はその過程で固定化した状態。

村人曰く、「一頭から最低四本は牛タンが取れるのは効率的」だそうで。

なんでも其のあたりの生態の固定はまだまだ改良中らしく、近年は頭一つから舌が二本取れる個体も出てるのだとか。

……二枚舌の牛っすかー……

それはそれは……、将来性有望な事で。


なんだろう、この牛の魔物、その誕生の由来に確実に過去の魔王(地球産)の気配を感じるぞ。

一個体から取れる数が決まってる部位を増やす改造とか。

何処の世紀末(アポカリプス)系ゲームから設定パクったという話。

あちらはMODでも入れんと、そもそも牛タンの入手とかが無理だが。


……ちくせう、タンタン言ってたら無性にオリーブオイルと胡椒のタレが欲しくなった。

胡椒は有るがそっち系のオイルは無い。

あれ、俺の体質だと消化不良になるから事前に創造しとこうって気が起きて無かった。

ゴマ風味の創造物の代用で何とかするしかないだろう。


異世界の牛。

霜降りだけじゃなくて更に必須部位の開示をするとかっ。

なんたる魔性。

いや、[元]魔物たる悪辣さ。


因みに、今回俺に提供されような候補は、今乳を飲む子の一つ前の世代の若牛。

成長的にはもう草食ってる世代だが、生後一年は過ぎてないのでまだ精神的な乳離れはしてない個体なのだとか。

母牛が育児で留まってるのから離れず、こうして群れから離れてしまった。

一度そうなると元の群れに戻すのは厳しいので、俺が買う買わないに関わらず、遠からず食肉の未来とか。

時期さえ重なれば此処に来た行商に卸されて、近隣の人里へと届くかもしれないもんらしい。

成体まで育てれば総合的な肉の価値は上がるのだろうが、此処は基本的に巡回式の放牧で飼料の備蓄は最低限。今の母子に優先するものな訳だ。

家畜の世界も間引きは当然有るが故に。


そんな理由で、若牛には残念な事ながら明日の夜明けが最後の日となった。

年齢的に俺の希望する霜降りとは無縁な感じもするのだが……、俺の「金は払うぞ肉欲しい」から始まったその経緯で「この肉なら要らない」という空気でもなくなって。

ちよーっと気まずい部分は、この際目を瞑りの、忖度事態となったのであったり。


南無南無。

でもしかし、肉はゲットだ。



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